DXを実現する大企業に必要なアジャイル組織立ち上げの勘所とは──Yamato DX Night #1レポート

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DXを実現する大企業に必要なアジャイル組織立ち上げの勘所とは──Yamato DX Night #1レポート
現在、DXに取り組む企業が増加し、変化の激しいビジネス環境に対応したシステムを開発するため、アジャイルを実践することが一般化しつつある。だが、特に大企業においてはさまざまな壁に阻まれ、思うようにアジャイルが進まず、悩んでいる企業も多い。 そこで今回は、ヤマトホールディングス執行役員の中林紀彦氏とデンソー デジタルイノベーション室の及部敬雄氏に「アジャイル」をテーマに語り合っていただいた。

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登壇者プロフィール

dennso

株式会社デンソー デジタルイノベーション室
エンジニア 及部 敬雄氏

AGILE-MONSTER.COM アジャイルコーチ
製造業アジャイル勉強会 オーガナイザー

yamato

ヤマトホールディングス株式会社
執行役員 データ戦略担当 中林 紀彦氏

経営構造改革に取り組むヤマトグループ

最初に登壇したのは、ヤマトホールディングスの中林氏。ヤマトグループは現在、1年間に約18億個の宅急便の荷物を運んでいる。「一日に換算すると数百万点」というビジネスを可能にするために、次のようなリソースを抱えている。

クロネコメンバーズ会員は約4000万人、法人向けのヤマトビジネスメンバーズ会員が約120万社、取扱店は18万4000件、社員は22万5000人、車両を5万6500台、事業所は全国に4000カ所、トラックターミナル(中継基地)70カ所と倉庫100カ所と、多くのフィジカルリソースを抱えている。

今年1月、同グループは「YAMATO NEXT 100」という経営構造改革プランを策定した。同プランは3つの基本戦略がある。第一はCXで、お客さま、社会のニーズに正面から向き合う組織へと再編すること。第二はDXで、経験や労働力に依存した経営からデータに基づいたデジタル起点の経営に転換すること。第三はInnovationで、共創と協業により物流のエコシステムを創出する企業へと進化することだ。

この基本戦略を実現するため、3つの事業構造改革と3つの基盤構造改革を定義している。

1)宅急便のデジタルシフト:紙の伝票をデジタル化、バックエンドのオペレーションをアナログからデジタルへシフトし、ロボティクスも導入していく

2)ECエコシステムの確立:eコマースにフィットすべく、EC事業者、購入者それぞれに最適な送り方、受け取り方ができるような仕組みを構築する

3)法人向け物流事業の強化:グループ各社の法人向け事業を統合、顧客接点を一元化しサービスレベルを向上させる。またデジタルプラットフォームを構築して、新しい物流を作っていく

これらを実現する為に「8つの事業会社を統合し、2021年4月には4つの事業本部と4つの機能本部からなる新体制に移行する」と中林氏。次はデータドリブン経営への転換である。

デジタルに大きく投資をし、組織を立ち上げていくのだが、その中にアジャイルチームの立ち上げるというミッションも含まれる。そして第三はサスティナビリティの取り組みである。

「YAMATO NEXT 100」では数値目標も掲げている。今後4年間でデジタル分野に約1000億円を投資。現在の営業収益1兆6000億円を24年3月期には2兆円に、営業利益率を6%にすることを目指していく。

中林氏が牽引するプロジェクトチームでは、輸配送、在庫管理、ECなど商取引の受発注などを一括管理し、顧客に対して新しい付加価値を提供するヤマトデジタルプラットフォーム(YDP)の構築を進めている。YDPはマルチクラウドで構成され、マイクロサービス、APIエコシステム、デジタル・ツイン、ML Opsを実現するアーキテクチャである。

「機械学習を活用した取り組みとしては、回帰モデルを用いて荷量を予測し、人や車などの経営資源を適正に配置することを開始。様々な課題に取り組み、ビジネスニーズに応じた誤差を評価する関数の実装にもチャレンジしている」と、語る中林氏。

アジャイルチームで今、取り組もうとしているのはLINE公式アカウントを活用した、受け取り日時や場所の変更、再配達依頼をスムーズにするなど、受け取りから送付までを便利にするインタフェースづくり。ゆくゆくはLINE以外のメッセージサービスにも対応していくという。

デンソーが3年前より立ち上げたアジャイル組織とは

続いて、デンソー及部氏が「デンソーのアジャイル組織」についてセッションを行った。

及部氏はデンソーのデジタルイノベーション(DI)室でエンジニアとして活躍する一方で、個人事業主としても活動。AGILE-MONSTER(アジャイル・モンスター)という屋号でアジャイルコーチを務めている。

今、自動車業界は100年に一度の大変革期だと言われており、その背景にあるのが、CASE(Connected:コネクティッド、Autonomous/Automated:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動化の略)やMaaS(Mobility as a service)の台頭である。

一方、ソフトウェア、例えばスマートフォンのアプリは常に最新技術が提供されることが多い。そこで自動車市場も「ネットと繋ぐことで、常にアップデートしていきたい」というニーズに変わってきている。それを表すように、米Googleや米Uber、中国企業のDidi Chuxingなど、製造業ではない企業が参入し、自動運転サービスの進化を加速させている。

「今、変わらないと自動車メーカーは死ぬ」。これは及部氏だけの言葉ではなく、社内でもそのような言葉が出ているという。デンソーが大々的にソフトウェアを重視していることやアジャイル開発に取り組んでいるのは、本気で変わることの決意からなのだ。

「生き残りをかけて、変わろうとしている。その話を聞いてワクワクした。だからデンソーに転職した」と語る及部氏だが、デンソーはアジャイルな組織かというと、個人的にはまだ課題があるという。

及部氏が所属するDI室は、ITを活用したビジネス変革に取り組むために新設された部署である。立ち上げ時から社外のプロフェッショナルと連携し、チームや組織の作り方については及川卓也氏や吉羽龍太郎氏にアドバイスを受けている。

もう一つ大事なことは、新しいことに取り組むDI室を新横浜に置き、出島的な扱いにしていることだという。

「出島だと本社が遠い分、治外法権的に新しいことにチャレンジできます。そして成果を出していくことで社内外の信頼を得ていき、本社に還元する。そういう戦略をとれます」(及部氏)

また、社外のメディアやイベントに参加することも良い効果を与えている。昨年、アジャイルジャパンというイベントの企業サテライトを本社に開設したところ、非常に盛り上がったという。

「デンソー=アジャイルということが社外に広がり、そういう社外での評価が社内に伝わることで、開発現場でスクラムをきっちり回すなど、アジャイルがやりやすい環境ができてきました。デンソー本社にも、アジャイル開発を草の根で広げようとしている人たちがいることがわかりました」

トップだけではなく、現場でもアジャイルを取り入れていこうと頑張っている人がいる。そこが直接つながればうまくいくかもしれない。そこで及部氏たちは、個別に取り組んでいる人たちをつなげるムーブメントをつくる活動をしている。

「目指しているのは、デンソーなのにアジャイル開発をしていてすごいと言われるのではなく、デンソーのアジャイル開発はすごいと言われること。そのために日々邁進しています」

プロジェクトの立ち上げメンバーはどう集めるべきか?

それぞれのセッション終了後、中林氏、及部氏によるパネルディスカッションが始まった。

中林:日本の大企業の多くはSIerにアウトソースしたり、IT子会社に任せるなど、あまり自前で作ることはありませんでした。どのような人を採用し、どう組織として大きくしていくか悩んでいます。その勘所について、ご意見を聞かせてください。

及部:アジャイル組織を立ち上げていない企業は、それができない理由があるはずです。その課題を明確にせずにアジャイルチームを立ち上げ、良いチームを作っていくことは大変です。まずは一つ良いチームを編成し、成功例を作ることが鉄板の法則です。そして、そのチームメンバーをばらけさせることなく、そのチームのノウハウや環境を活用し、アジャイルチームをいくつか作っていくことがお勧めです。

アジャイルがうまくいくチームとは、自分たちで考えて行動して、自分たちで決められるチーム。そうすればアジャイルだろうが何だろうができるチームになります。

中林:自律的に動けるということが大事なんですね。1チーム成功例を作って、横展開する際、順々に増やしていくのでしょうか。それともどこかのタイミングで急拡大できるものなのでしょうか。

及部:スタートアップに10人の壁、30人の壁があるように、DI室においてもそういう壁がありました。現在100人のメンバーがいますが、社員は約30人でそれ以外はバックオフィス系の人たちと開発パートナーです。私たちも30人の壁にぶち当たっているんですよ。

開発パートナーとどう付き合うべきか?

中林:組織の壁と同じようなこと。自社で立ち上げるのは難しいと思います。開発パートナーの人たちとどうやって作っていけば良いのでしょうか。

及部:アジャイル開発で作ることと使うことを近づけるためには、自律的なワンチームの意識を持った組織を作ることです。パートナーだから権限が違ったり、コミュニケーションの壁があるとうまくいきません。一緒に取り組んでいこうという思いを持ったパートナーを見つけることが大事だと思います。

中林:今はリモートワークが推奨され、オフラインでのコミュニケーションが難しくなりました。マインドバリアをなくすだけではなく、会社のルールを変えないといけないところが難しいですね。

及部:自由を与えたからといって、パートナーが気持ちよく働けるわけではありません。権限をプロパーと同じだけ与えられる環境を作り、そしてうまくやっていけるパートナーを見つけること。それが大事だと思います。

中林:デンソーDI室が成功した理由の一つに、最初から及川さんや吉羽さんに参加してもらったことが大きかったと思います。会社ではなくて誰と仕事するかが重要なんでしょうね。特にコーチングまで期待すると。

及部:組織のいろんな壁と整合性をとってアジャイル開発を進めないといけないときに、一緒に伴走してくれるプロフェッショナルの意見はすごく大事だと思います。

中林:参加者からたくさんの質問が来ているので、少し答えていきましょう。

Q.ハードとソフトの仕組みを協調するためになにかしていることは?

及部:今取り組んでいるMaaSなどの分野では、ハードとソフトの境目がなくなりつつあります。ハード側の人たちもアジャイル開発に興味を持ってくれており、それほど壁は感じません。スクラムの研修を社内で実施する際も、参加者がソフトかハードは気にしていません。自然に近づいてきているという感じですね。

Q.外の人と中の人とのスキルギャップがある場合、どうすればチームとして機能するか?

及部:すごく難しいことですが、アジャイル開発をするしかないと思うのです。自分たちのできる範囲で試せることをやる。そうすることで、ノウハウが溜まっていくと思います。

中林:決まったプロセスやアプローチがあるわけではないので、そのメンバーや会社の風土などに合わせて試行錯誤していくしかないですよね。

大企業ならではの「開発環境構築のやりにくさ」にどう向き合うのか

中林:及部さんが考える「理想の開発環境」についてお聞きしたいと思います。

及部:デンソーでは、チーム開発をするときに使うチャットツールやファイル共用のツールなどが使えなかったんです。お客さまや外部の人との連携する際にも選択肢がなかった。実は単純に使えるか確認をしていなかっただけなのですが、中林さんのようにいろんな部署に話ができ、環境を整えてくれる人がいればありがたいですね。足回りが整備されないと走ることはできませんので。

中林:当社ではSlackやGitLabを導入して、外の人ともコミュニケーションやソースコードの共有を図れるようにしています。そういうことですよね。

及部:今はリモートで働かなければならない時期なので、環境を変えなければならないというムードもあります。そこに乗じて変えていければいいなと取り組んでいます。

中林:当社も最初は社内基準などなかったので、ルール作りから始めています。今はまだソースコードの管理もバラバラですが、私達のチームがこれから作るものはGitLabで集中管理するようにしました。

メンバーとしてリーダーや経営層に求めることは

中林:メンバーとして役員に求めることものはありますか。

及部:大きな会社で新しいことをやる場合、社内標準やルールなどいろんな壁があると思います。そのときにリーダーや役員には、ルールを作り替えることをサポートしていただけると、心強いですね。

中林:組織の壁を取り払う、橋渡しをする、守ってあげる、エンカレッジするという関わり方をすることが大事ということですね。スモールチームを育てる気持ちがいいのかなと思いました。

Q.ユーザー企業がアジャイルを用いて内製化するうえで、SIerに期待することはあるか。

中林:フラットにチームアップしていきたいので、うちの雰囲気に合う、コーディングできるメンバー選びを期待します。

及部:同じ目線で一緒にやれる、固定されたチームを作るのは大事なポイントだと思います。

中林:能動的に動けることも含めてスキルセットを持ったメンバーを育ててもらい、フラットなチームを作っていくことを目指したいと思っています。

「内製化のナレッジの流出について気になる」という質問が来ていますが、どうでしょう。私は全く気にしませんが。

及部:製造業ではよく、こうしたことが話されます。せっかく自分たちで溜めたノウハウが外に出るのはもったいないという話ですが、私も全く気にしないですね。ネガティブなやめ方は組織としてケアしないといけないですが、ソフトウェアの業界はポジティブな辞め方がたくさんある。

その人が外で活躍すること自体もその組織の価値だという考え方になるといいですね。本当に大事な組織やプロダクト運営としてのノウハウはチームに残していくことなので、それがあれば人が入れ替わるのはむしろ健全だと思います。

Q.基幹システムやそれを担当するウォーターフォール型チームとの連携のコツは?

及部:社内ではいろいろな基幹システムを作っており、社内で連携することが多いのですが、連携先のチームが変化に弱いところだと、調整に時間がかかることがあります。

とはいえ、彼らに私達と同じスピード感を求めるのはよくありません。きちんと相手の仕事を理解した上で、こちらから少しずつ近づいていって変えるところから変えていってもらうことです。うざいぐらい近づいています(笑)。

中林:こちらから向こうに寄り添っていくということですね。

Q.アジャイルのデメリットやうまくいかなかった事例は?

及部:すべての開発においてアジャイルが最適というわけではありません。抱えている問題を解決するのにどの道具を使うかという話です。フィードバックをもらって、こまめに計画をし直しながら進めるので、アジャイルが合うシーンが多いというだけ。うまくいかなかった事例は、なんでもかんでもアジャイルでやろうとすることですね。

中林:ビジネスロジックのところや決済系の部分はデザインをまずしないといけないので、アジャイルは適さないような気がします。フロントにいけばいくほど、ニーズが変わるので、アジャイルが向くと思います。

Q.経験のないチームをアジャイルチームに育てるために、具体的にやっていることは何ですか。

及部:外部の有識者に入ってもらい、経験のない人、新しいチームでも「こういうスクラムでやりましょう」と、最初に型にはめることができる人を連れてきてもらったことです。

それを続けた結果、組織に合ったスクラムのパターンができ、今ではあまり経験のない人、スクラムの経験がない人、ソフトウェア開発の経験のない人が、その型にはまればできるようにアップデートされています。

その型を突破するすごいチームができれば、「型はセーフティライン。その型を壊していくのはチームの自由」といように、仕組みやプロセスの決め方をしています。

中林:外のいい人たちと組んで、自分たちの風土ややりたいことに合った型を作っていくこと。そしてスモールスタートで1チーム成功させることが大事だということに気づきがありました。早速、今日学んだことを始めたいと思います。

今回は、参加者から答えきれないほどの質問が寄せられた。第二回の開催も企画しているので、関心のある方は楽しみにしていただきたい。

ヤマト運輸が宅急便サービスを開始したのは1976年。 宅急便は物流の世界にイノベーションを起こし、今では社会的インフラといえるほど人々の生活に浸透しています。日本において通販やECが今ほど普及し、高い配送品質を保っていられる背景の一つには、宅急便があったからだといえるでしょう。そして、宅急便の誕生から約40年が経った今。ヤマトグループの根底に息づくイノベーションの遺伝子は、次なる挑戦へと動き出しています。 それが、デジタルテクノロジーを駆使したトランスフォーメーションです。ヤマトホールディングスにおけるデジタルトランスフォーメーションは、グループの経営構造改革の中核に位置づけられる重要なテーマです。デジタルによる業務の効率化とはまるで次元が異なり、既存の組織にテクノロジーを導入するだけの話でもありません。デジタルテクノロジーによって組織を変え、業務を変え、グループの事業そのものを抜本的に変革するーー。それが、ヤマトグループ「Yamato Digital Transformation Project」(YDX)に課せられたミッションなのです。

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