AIと共存するニューノーマル時代をマイケルオズボーン教授と共に考える ――Yamato DX Night #4レポート

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AIと共存するニューノーマル時代をマイケルオズボーン教授と共に考える ――Yamato DX Night #4レポート
「人類はAIに多くの仕事を奪われ雇用を失う」。2013年にマイケルオズボーン氏が発表した論文はAI界隈のみならず、世界中の多くの人たちに衝撃を与えた。同時に、現在のAIトレンドの火付け役になったともいえる。あれから7年――。同氏はコロナ禍も含め、現在の状況をどう捉えているのか。親交のあるエクサウィザーズ 代表取締役の石山洸氏ならびに、Yamato DX Nightの主宰者であり、ヤマトホールディングス執行役員 データ戦略担当の中林紀彦氏とのパネルトークから考える。

アーカイブ動画

登壇者プロフィール


英オックスフォード大学
マイケル・A・オズボーン教授


株式会社エクサウィザーズ
代表取締役社長 石山 洸氏


ヤマトホールディングス株式会社
執行役員 データ戦略担当 中林 紀彦氏

マイケル・オズボーン教授に聞く、AI進化の予測と現状について

今回のウェビナーは、オズボーン教授に問いを投げかけ答えてもらうインタビューを事前に実施した。セッションでの前半は、その様子を動画として公開。その後、オズボーン教授の回答に対し、石山氏と中林氏が意見を重ねる流れで進められた。

 Q:2013年に発表した論文での予想と現在の状況の差は?

オズボーン:そこに大きな違いはなく、私たちの予測が現実になっただけだと思います。印象的なのは、論文の発表以降にテクノロジーの進化スピードが変化したことです。特に、AIの下位分野では顕著でした。

石山:論文が発表された2013年当時は、まさか7年もAIがトレンドとして続くと思っていた人は少なかったですよね。ところが、AIはすっかり定着しつつある。やや飽和状態ともいえますが、今後3年は今のトレンドが続くと思います。

中林:医療における画像診断を医師の代わりにAIが行うなど、社会に実装されるようになってきましたね。そしてこのトレンドは、新型コロナウイルスの影響でさらに加速していると感じています。

コロナにより雇用は大打撃を受けた

Q:コロナの影響で雇用はどう変化したか

オズボーン:Zoomなどのビデオ会議ツールの活用が広がったことで、出張が減りました。その結果、航空会社、ホテル、食品業界などが雇用の打撃を受けています。パンデミックが収まったとしてもオンラインの習慣はなくならず、以前のようには戻らないでしょう。つまり引き続き、多くの仕事が減っていくと思います。

他にも影響があります。感染対策で多くの人が在宅勤務となり、自動化の動きが高まっていることです。特に、製造業、サービス業、接客業などの分野が顕著で、コロナが収まったとしても、自動化は浸透していくと思われます。つまり今回のパンデミックは、自動化の技術進歩に大きな拍車をかけたと言えます。

中林:働き方が大きく変わりましたよね。言い方を変えれば、いかにこれまで無駄なことをしていたのか。無理に遠方まで行く必要はなく、オンラインで必要なコミュニケーションを取ればいいのですから。

石山:私の会社は、東京・浜松・名古屋・京都・大阪・中国・インドに拠点があり、以前は移動にかかるコストがネックでした。しかしオンラインに変わったことで、生産性が上がっています。

コロナによりイノベーションがストップした

オズボーン:しかし逆に、自動化も含めた技術革新が打撃を受けた可能性があります。最も注目すべきは、Uberが自社のAIラボを閉鎖したことです。そのほか多くのスタートアップも資金の枯渇により、経営が破綻しています。

イノベーションへの影響も大きいと考えています。社交場であるバーやパブなどの飲食店が多く閉鎖されたことで、イノベーションの大黒柱である「自発性」が損なわれてしまった可能性があるからです。実際、アメリカでは禁酒法時代に特許申請が減少したというデータもあります。

石山:一般的には、今回のコロナがDXを加速させたと言われているので、禁酒法時代に特許の件数が減ったというエピソードは目から鱗でした。

中林:知っている相手とのコミュニケーションであれば、オンラインでも違和感はありませんが、初対面は難しいですからね。オズボーンさんが言うように、飲み会の席などのオフタイムにおける会話から、実際に斬新なアイデアが生まれることも多かったように思います。

コロナには“光”も“闇”もある

Q: 新型コロナウイルスの影響でイギリスでは何が起きているか

オズボーン:イギリスでは早い段階でウイルスが侵入・拡散し、多くの犠牲者が出ています。私もその一人で年のはじめに感染しましたが、今でも体は完全に回復していません。一方で、オックスフォード大学がワクチン開発を行ったり、ロックダウンを行うなどの対策も打っています。

イギリスは以前からAI領域で世界をリードしてきましたし、恩恵も受けてきました。そしてこの流れはこれからも変わらず、パンデミックがそれほど大きな影響をおよぼすとは思っていません。実際、オックスフォード大学のAI分野では雇用は継続していますし、私が経営する会社の業績も好調です。

石山:私の会社では、コロナ対策として採用を8割凍結しましたが、間違いでした。DXの需要が増えたからです。しかし、当初は読みきれませんでした。内閣総理大臣も経験された池田勇人氏の言葉が参考になります。需要や特需が多すぎると、生産者は磨かれません。

逆に、不景気を何度か経験した方が企業は成長する。まさに今回のコロナ禍です。コロナ禍には闇と光の両方があり、両方を経験し乗り越えたことで筋肉質な企業に成長していくのだと思います。

中林:リーマンショック時代に創業したベンチャーが、ユニコーン企業に成長していくような感覚ですよね。つまり、私たち企業は学びながら事業を継続していくしかなく、現在のコロナ禍の状況はしばらく続くと思います。

参加者の4分の1以上がAI活用の経験あり

Q: 日本ではAIの活用が進んでいると思うか

オズボーン:そう思います。私がアドバイザーを務めている石山さんの会社の業績を見れば一目瞭然です。また私が経営する企業も日本の大手保険会社と連携し、AIを導入しようとしています。このように日本の企業では、職場にAIを導入するために素晴らしい取り組みを行っている事例が多くあります。

中林:活用が進んできたのは大きく2つの要因があると考えています。ひとつは、事業でどのように使えばよいのか、企業が理解してきたことです。もうひとつはAIが汎用化してきたことで、学生も学べる機会が増えたこと。この2つの相乗効果でユースケースが増えてきており、今後もまだまだAIの活用は進むと思います。

石山:リクルート在職中の2016年にAI研究所を立ち上げたときは、企業でのAI活用事例はありませんでした。しかしヤマトさんのように、今では多くの企業がAIを実ビジネスに導入しています。かなり浸透してきた印象です。

日本におけるAIの浸透度合いは、実際どうなのか。ここで中林氏が参加者に実ビジネスでのAI活用機会を問うと、4分の1以上の参加者が「経験あり」という回答となった。

「定型業務」は得意だが「社会的知性」が必要な仕事は苦手

Q: AIができる仕事、そうでない仕事の違いについて

オズボーン:大まかに言えば、自動化へのボトルネックがない定型的な仕事です。具体的には、生産、設置、メンテンナス業務などで、特にオフィス事務やサポート業務はAIがほとんど行うことができます。

クリエイティブな仕事も自動化ができれば、AIが取って代わります。たとえば2013年に発表し「AIに代わるわけがない」と揶揄されたファッションモデルがいい例です。論文の発表以降、AIによりコンピュータ上に生成された実在しない画像だけのファッションモデルが増加。今ではオンライン上にしか存在しないファッションモデルがいて、リアルなモデルの仕事を奪っています。

一方、AIが苦手な仕事は定型的ではない、洗練された方法で他人や創造性と相互作用する能力を伴う、社会的知性が必要な仕事です。

中林:人間がやってきたことを、AIが非連続で置き換えることはあまりないと思います。 人間だから、AIだからではなく、機械とAIが共存し進化を遂げていくことが重要だと考えます。

石山:ファッションモデルの話を例にあげれば、AIモデルをリアルのランウェイで歩かせることは難しいですよね。しかし、リアルなファッションモデルがAIモデルのメイクを真似て、ランウェイを歩くことはありだと思います。実際、普段は打ち込み音楽のアーティストがリアルな音楽祭に出演して生演奏したら、かなり盛り上がった事例があります。

人間とAIが共存することで相対的にスキルアップする

Q: AI時代に必要なスキルとは?

オズボーン:機械のように働くのではなく、機械と共に働きたい、が第一原則です。そのために、機械と人間両方で構成されるシステム作業に軸が移っている。両方の長所を最大限引き出すシステムを設計することを総合的に考えることのできる能力が重要です。

これから出てくるAI技術を補完するために、自分のスキルを伸ばすことも重要です。具体的には、判断力・意思決定力・アイデアの流暢性・アクティブラーニングなどの認知能力。ソーシャルインテリジェンスも重要です。

石山:ソーシャルインテリジェンス、コグニティブスキル(認知能力)、システムシンキングと、3つのキーワードが挙がっていました。

中林:まさにビジネスでのオペレーションだと思います。単純作業は機械が行い、付加価値は人間がつける。分業、ハイブリッドです。棋士はAI棋士から学ぶことで、自分たちのスキルをブラッシュアップしているそうです。

仕事も同じで機械ができることが増え、レベルが上がっていくことで、人間ができることも相対的により高まると私は考えています。

石山:変化は一気に変わるのではなく、リクルーティングが紙媒体からWEB、AIと徐々に変わっていったように、それぞれが交わりながらトランスフォーメーションしていくことが必要だと思います。

人間の中心的な能力「独創性」に取って代わることはできない

Q: AIにクリエイティブな仕事は可能か

オズボーン:現時点、そしてこれからしばらくの間は、人間の中心的な能力「独創性」に取って代わることはできないでしょう。その代わり、クリエイティブワーカーが使用するツールとして使われていくと思います。

例えば、ファッション。AIであればファッションアイテムを無限に作り出すことができます。しかし、その中から市場で求められるアイテムかどれかを選別するのは、ファッションに精通している人間が必要です。

文章の作成も同じです。AIが自動で文章を書けるようになったと話題になっていますが、AIが書いているのは、あくまで人間が書いた文書の構造を模倣したものです。そのため、文章として表面的には及第点ですが、プロのライターが書くような深い構造は生み出せていません。特に、まったく新しいアイデアで文章を書くことはできないからです。

AIが得意なのは、人間の創造性における退屈な業務を引き受けてくれることです。そして、そのようなサポートがクリエイティブワーカーの刺激にもなっています。例えば、機械によるデザインは、20世紀を通じてアートの一部となりました。

新しい方法で、独創的なアートを考える手助けをしてくれからです。このような特徴は、創造性の分野全てで当てはまります。AIがクリエイティブな仕事を奪うことはしばらくないでしょう。

石山:AIはクリエイティブではない、と言い切っていたのが印象的です。大量に生成することはできるが、現時点ではトレンドを見定める能力はないと。

中林:コグニティブ(認知)の観点は重要だと思います。AIは音声・ビジョン・自然言語など、人間はマルチモーダルでものごとを考えていますが、まだシングル段階であり、マルチモーダルでの認知はこれからだからです。文章作成においては、表現や言葉遣いなどを統一する「ワーディング」も重要です。

AIに何を望むのか。改めて議論することが必要

Q: AIによる失職を恐れている人に対して

オズボーン:AIの専門家である私たちでさえ予測できない難しい問題であり、どの職業も安全とは言えません。ですから、その不安は理解できます。ただ同時に、AIは敵対する力でないことも強調したいです。

AIは人間が人間のために開発したツールですから、人間がAIをコントロールすることができます。このことを踏まえ建設的に対応すれば、さまざまな対応方法が生まれるでしょう。例えば、AI技術の足りない部分を補うスキルを開発するなどです。

スキルにおいては、これまでのキャリアで得たスキルを大きく変更する必要はないでしょう。先進国には技術変化がもたらした多様な職業が存在するため、現在のスキルの組合せに少し手を加えれば、対応できるからです。

AIは社会全体に課題を投じています。AIに何をしてほしいのか、他の技術と同じく、私たち人間の最大の利益のために構築されるべきであり、法律や一般的な議論を通じて考える必要があると思います。

AI技術に長け経験豊富なAI専門企業と協業する

Q:大企業がDXならびにAIを活用・推進するためのポイントは?

オズボーン:DXは非常に扱いづらく、AIを活用した場合の難度はさらに増します。課題は多くありますが、ひとつは人材不足です。テクノロジーは常に変化しているため、企業が求めるデータサイエンティストやAI専門のエンジニアといった、AI人材を採用することができていません。

そのため特に大企業では、AIによるDX推進の失敗例は多く見られます。データサイエンスの専門チームに配属されているのは、大学を卒業したばかりのデータサイエンティストであり、ビジネスのコンテキストを理解しているビジネスパーソンではありません。そのため解決すべき問題の本質を、理解していない。結果、PoC (Proof of Concept) はほとんどの場合で失敗しています。

では、どのようなポイントでDXを進めればよいのか。AIは万能な特効薬のようなソリューションではないと理解することです。現在のAI技術で解決できる問題は限られています。つまり、AIが解決できる問題に現状のビジネス課題を変える。あるいは、特定の問題解決のためのソリューションを作成します。

ただし、これらの作業は時間も多くかかりますし、AI技術の幅も深度も必要なハードワークです。そこでAI技術を理解しており、その手の作業を何度も行ってきた専門企業と手を組むことをお勧めします。

【Q&A】オズボーン教授がライブで登場し参加者の質問に答える

QAタイムはITジャーナリスト湯川鶴章氏がモデレーターと通訳を務め、ライブでオズボーン教授も登場。数多く寄せられたイベント参加者の質問に答えた。中林氏と石山氏も感想を述べ、イベントは盛り上がった。

Q:リアルな会議や飲み会でのセレンディピティはニューノーマル時代でどうなるか

オズボーン:オンラインなどデジタルな方法でセレンディピティが生まれる方法を考えていますが、現状では難しいと考えています。やはり、リアルに「face to face」で会うことが重要だと思います。

Q:AIがさらにブレークスルーするための要素は?

オズボーン:コロナが大きな障害になっていると思います。大きな課題は2つあり、ひとつはリアルな場での新しい人との出会いがないため、イノベーションが生まれていないことです。

もうひとつは、AIの大国である米中では先のようにUberが研究所を閉鎖するなど、開発スピードが遅くなっている点です。対策としては、今ある技術をアプリケーションとして実装していくアプローチが重要だと考えています。

Q:データサイエンティストがAIを使う上でのビジネススキルについて

オズボーン:ドメイン知識も重要ですが、先に紹介したようなクリエイティビティ(独創力)を持つことが重要だと思います。

Q: 日本でAIをエンカレッジするためには

オズボーン:日本はAI技術を導入する、最適なタイミングだと思います。本日紹介したとおり、業界、現場に沿った最適なAIを、アプリケーションとして実装していくことが重要です。

石山:データサイエンティストにクリエイティビティが必要だというのが新たな発見でした。そして中林さんはまさしく、そのような存在だとも感じました。

中林:AIのマジョリティが高まっている今、改めてAI技術を社会や企業にどう実装するのか。そこはまさに我々のような事業会社でDXやAIを推進する者の役割だと、仮説としては思っていましたが、オズボーン氏の今日のお話で再認識しました。

ヤマト運輸が宅急便サービスを開始したのは1976年。 宅急便は物流の世界にイノベーションを起こし、今では社会的インフラといえるほど人々の生活に浸透しています。日本において通販やECが今ほど普及し、高い配送品質を保っていられる背景の一つには、宅急便があったからだといえるでしょう。そして、宅急便の誕生から約40年が経った今。ヤマトグループの根底に息づくイノベーションの遺伝子は、次なる挑戦へと動き出しています。 それが、デジタルテクノロジーを駆使したトランスフォーメーションです。ヤマトホールディングスにおけるデジタルトランスフォーメーションは、グループの経営構造改革の中核に位置づけられる重要なテーマです。デジタルによる業務の効率化とはまるで次元が異なり、既存の組織にテクノロジーを導入するだけの話でもありません。デジタルテクノロジーによって組織を変え、業務を変え、グループの事業そのものを抜本的に変革するーー。それが、ヤマトグループ「Yamato Digital Transformation Project」(YDX)に課せられたミッションなのです。

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