楽天トラベルがAIチャットボットで業務の自動化を実現!  ──開発事例に学ぶ【PERSOL DX STUDY #5】

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多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むようになった。一方で、思ったような成果が得られなかったり、成果を出すために時間を要している企業も少なくない。そこで「PERSOL DX STUDY」では、様々なDXの取り組み事例やノウハウをシェアするイベントを開催し、日本のDXを盛り上げていく。今回は「AIチャットボット」に着目し、楽天とパーソルテンプスタッフ2社の取り組みを紹介する。
楽天トラベルがAIチャットボットで業務の自動化を実現!  ──開発事例に学ぶ【PERSOL DX STUDY #5】

事例①:社内問い合わせ用のAIチャットボット/パーソルテンプスタッフ

事例を紹介する前半のセッション。最初に登壇したのは、パーソルテンプスタッフの前田貞嗣氏だ。パーソルテンプスタッフでは、全国各地に300を超えるオフィスを構える。また、人事部など、社内業務を行う間接部門の数は約400。当然、働く人の数は膨大になる。

そのため、前田氏が所属する事業推進部を設け、営業活動の推進やバックオフィス業務の生産性向上・効率化を推し進めている。

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▲パーソルテンプスタッフ株式会社 事業推進本部 マネージャー 前田 貞嗣氏

マニュアルやFAQを用意していたがうまく機能(運用)していなかった

営業部門など事業サイドで困ったこと、相談したいことがあった際、電話で問い合わせるのではなく、問い合わせの多い内容はマニュアルやFAQを間接部門がドキュメントで事前に作成。そのドキュメントを社内イントラにアップしておくことで、電話で問い合わせることなく、課題が解決できる体制を整えていた。

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一見すると便利そうな環境だが、この社内イントラの運用において、営業部門、間接部門どちらからも不満の声が上がっていたという。

「営業部門から見ると、マニュアルやFAQが整理整頓されていないため、知りたい情報がすぐに見つからないとの不満がありました。そのため次第に使われなくなり、最初から電話で聞くようになっていきました」(前田氏)

間接部門としては、電話でのやり取りを少なくしたいために、時間をかけてマニュアルやFAQを作成したわけである。それが使われない上に、業務中に営業部門から頻繁に問い合わせを受けていたため、当然のごとく通常業務が滞る。ましてや電話先では、自分が作成したマニュアルを読みあげるだけだったというから、ストレスが溜まるのは当然と言えよう。

不満はまだある。電話での問い合わせには時間がかかることだ。社内イントラでドキュメントを探すのと同様、自分の知りたい情報を教えてくれそうな該当部署を探して電話がつながるまでに、約5分30秒。そこから回答が得られるまでにプラス2分。合計すると平均7分30秒もの時間を要していた。

このような状況を鑑み、事業推進部では新たな解決策を模索していった。

7分30秒かかっていた問い合わせ時間が“14秒”に激減

「マニュアル・ルールの導入、社内総合問い合わせセンターの設立、FAQシステムの導入なども改善候補に上がりましたが、『少しのキーワード入力とボタン操作で答えが分かる』『既存マニュアルとリンクできる』『操作が直感的で簡単』などの理由から、チャットボットの導入を決めました」(前田氏)

外部の既存製品を採用したこともあり、導入を決めてから3カ月後には運用をスタート。当初こそ利用率は低かったが、チャットボットを導入したことで、先の7分30秒が「パソコン増設」とのQであれば、わずか14秒でボットから回答を得られるように改善された。つまり、95%以上の時間が削減されたことになる。

担当部署を探す際にもチャットボットを活用できるため、利用者は徐々に増加。導入から約2年経った現在では、1日に提供する回答数は876件にも上っている。

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チャットボット(AI)とアナログ(人)をブレンドする

チャットボットを導入したが、思ったように活用されていない。そんな事例が少なくないのも事実だ。何がネックとなっているのだろうか。

「我々は、チャットボットを導入したけれど、思ったように使われていない企業8社をリサーチしました。すると、次のような傾向が見えてきました」(前田氏)

【チャットボットの利用率が低い要因】
・ 導入したことを現場サイドに伝えていない
・ 変更された部署名などが反映されていない(メンテナンスの怠慢)
・ 文言や文体がバラバラ(ルールが統一されてない)
・ 運用部署が明確でない

このようなリサーチ結果も踏まえ、前田氏たちはチャットボットをただ導入しただけで終わらず、利活用される努力を続けていった。

例えば、導入2カ後にアンケートを行った。すると、定型的な回答であれば人に答えてもらうよりも、「時間も気持ちも気兼ねのないボットの方が良い」との声が多かったという。また実際に問い合わせが解決したとの成果の声を得るなどして、手応えを掴んでいった。

アンケートだけではない。運用を継続していくうちに、チャットボット利用者の特性も見えてきたという。

「導入前の段階では、キーワードを打ち込むなどの手入力は好まれないだろうと、営業部門からは指摘されていました。しかし実際に運用をはじめてみると、多くのユーザーがキーワードを打ち込み、そのキーワードからAIが候補をサジェスト・レコメンドした内容を見て、その先のやり取りに進んでいることが分かりました」(前田氏)

つまり、私たちが普段パソコンやスマホでしている検索フローを、そのままチャットボットで行う傾向がある、ということが見えてきたというのだ。

さらに前田氏たちは、検索キーワードを深堀りしていった。するとGWや年末年始には、特定のワードが多く打ち込まれることが分かった。「GW期間中の注意点」などだ。そこで該当シーズンになったら、想定ワードを“特集”として上位表示するようにした。ネット検索での広告のようなものと言えよう。

チャットが終わったあとに問題が解決したかどうを「はい・いいえ」で答えるフローを設けたが、9割近いユーザーは回答しないことが分かった。忙しいビジネスパーソンとしては当然であろう。ただ裏を返せば、忙しいのにも答えた。それもあえて「いいえ」を選択した利用者は、チャットボットにかなり不満を持っていると考えたのである。

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そこで何が不満だったのか、なぜ、解決に至らなかったのかを直接利用者に聞いたり、間接部門と協力するなどして、次の利用時には改善している努力を重ねた。

例えば、単に答えがなかった場合であれば、その答えを間接部門に作成してもらい、アップした。このような努力の結果、FAQの数は968件から3542件まで増加。該当部署も3から15にまで拡大。現在も、ブラッシュアップを継続しているという。

「チャットボットを導入したら終わりではなく、常に検索結果やボットの表示結果などをチェックし、不具合があれば対応しています。そしてこのような業務は、我々、人が行っています。つまりAIチャットボットの導入を成功に導くポイントは、AIチャットボットと人のアナログ的な、言ってみれば裏方業務のブレンドが重要なのです。

今後の目標としては、利用者の属性によりサジェスト、レコメンドが変わる、複数のAIエンジンを搭載することで、より多くの人にさらに快適に利用してもらうチャットボットに進化させたいと考えています」(前田氏)

事例②:旅行の意思決定を支援するチャットボット開発の取り組み/楽天

続いて登壇したのは、楽天の渡辺哲氏だ。渡辺氏が所属する技術戦略グループは、現ビジネスに直結するサービスの開発を行っているわけではなく、技術ドリブンで、新たなサービスやアイデアの可能性を実証している開発舞台である。そのため今回紹介された事例も、まだ世には出ていないPOC段階とのことであった。

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▲楽天株式会社 コマースカンパニー コマーステクノロジー運営部 技術戦略グループマネージャー 渡辺 哲氏

旅行者の嗜好はパターン化・類型化できる

まず、渡辺氏はAIチャットボットに着目した経緯について、次のように説明した。

「旅行系のインターネットサービスは、メディア、検索エンジン、旅行予約サイトと、大きく3つに分けることができます。ユーザーはこの3つのサービスを併用して使うため、情報のピックアップも意思決定も面倒だと感じていました」(渡辺氏)

さらに深堀りして調べると、旅行に関するチャットボットサービスは、ホテルや飛行機の予約など、旅行全体の一部のプロセスだけを、チャットボット化していることが見えてきた。

一方で、世の中の流れとして今後ますますAIが進化すれば、ユーザーはより自然な流れでAIによる検索サービスを求めるだろうと考えた。渡辺氏いわく「エージェント型」のAIチャットボットである。そこで、渡辺氏たちが考えるエージェント型のチャットボットを調べてみると、まだサービスとしては世に出てないことが分かった。

「世の中にないということは、技術的にハードルが高いのではないかと当初は思っていました。しかし、いろいろと調べていくと、技術的に実現するのはそれほど難しくないと考えるようになりました」(渡辺氏)

次に渡辺氏のチームは、旅行者のデータから、旅行のきっかけを分析してみた。すると「誘われたから(49.5%)」「そろそろ行こうと思った(41.7%)」「元気なうちに行きたい(21.3%)」といった具合に、偏りがあることが分かった。年代・性別との相関性があることも見えてきたという。

旅行への期待・欲求因子もきっかけと同じく、当初はいろいろあると考えていたが、実際には多くないことも分かった。具体的には、「おいしいものを食べること(18%)」「温泉に入る(15%)」「自然景観を見る(12%)」など上位7つの因子で、全体の7割を占めているからだ。つまり旅行はパターン化、類型化されていることが見えてきたのである。

そして先の年代属性に関連するが、誰と何のためにいくかをある程度で類型化できれば、目指すチャットボットが実現できるとの考えに至った。

旅行エージェントのようなチャットボットを目指し、4つの機能を実装

このような調査結果から、渡辺氏のチームは旅行の意思決定を支援するチャットボットの開発をスタートさせる。目指すは先述したとおり、エージェント型だ。実現に向け、以下4つの機能を考案し、現在まさに実装中だという。

【機能①:パラメータを4W1Hに大別】

利用者の会話フローを制御するために、パラメータを4W1Hに大別した。そしてボット側から積極的に、このパラメータにパターン化できるよう、聞き取りを行っていくような仕様とした。

・Where(どこに行きたいのか)
・Who(誰と行くのか)
・When(いつ行くのか)
・What(何をしたいのか)
・How(移動手段)

【機能②:個人・旅行属性を類推する】

機能①で得られた情報から、個人・旅行属性を類推する機能だ。「妻との夫婦の記念日」との発話があれば、利用者は男性・既婚者だと類推する。「卒業旅行」とのキーワードであれば若い世代。「元気なうちに」とのキーワードであればシニア、といった具合だ。

【機能③:目的地の提案】

機能①、②で得られた情報や類推した属性をもとに、目的地や施設、スポットを提案していく。北海道に子供連れで旅行に行きたいと考えている家族だと類推した場合には、北海道でおすすめの水族館や動物園、テーマパークや公園を提案。

一方、シニアだと類推した場合は、美術館や博物館を。異動手段で電車を選択した場合は、駅チカのスポットや宿を提案していく。

なおレコメンドする目的地のデータは、後述のQAでも補足するが、さまざまなキュレーションメディア、グーグルの検索上位にあるスポットなどを参考に、リスト化している。

【機能④:到達圏検索】

目的地が定まっているユーザーがいる一方で、「自宅から電車で2時間以内の温泉」といった問い合わせに対応する機能だ。電車に限らず、自動車などにも対応する。同機能を活用すれば、目的地が定まっている利用者に対しても、少し離れるだけで価格もサービスもより充実した旅行先や宿などがあることも提案していきたい、と渡辺氏は補足した。

ユーザーの発話からすべてを推測する必要はない。聞き取りが重要

紹介したとおり、定義段階から開発はスタートしたため、これまでかなりの試行錯誤を重ね、時間も費やしてきたそうだ。そしてようやく最近になり製品化の目処がたち、来年あたりにはローンチ予定とのこと。現在、特許取得に向け準備中でもあるという。

なお渡辺氏が属する開発部署では、R-Hack (https://commerce-engineer.rakuten.careers/archive/category/Japanese)なるオウンドメディアを運営し、テックに関するさまざまな発信している。気になる人は参考にしてもらいたい。

開発を振り返り、渡辺氏は次のような言葉でセッションを締めた。

「チャットボット開発では、ユーザーの発話から問い合わせ内容を推測し、こちらが敷いたレールに乗せようとするケースが多く見られます。しかし今回の開発を通して、ユーザーの発話からすべてを推測する必要はない、ということが分かりました。情報が足りなければ、聞けばいいからです。

つまり、聞き取りが鍵となります。そして、その聞き取り(会話)が自然であることも重要ですし、私たちが目指しているチャットボットでもあります。AIを無理に使う必要はなく、使う箇所を見極めることも大事だと分かりました。実際、私たちはどこに行きたいのかの意図解析ならびに、観光スポットの自動分類で使っています」(渡辺氏)

オンラインイベント参加者からの質問に答える「Q&A」

最後に、今回のオンラインイベントの参加者から寄せられた質問と、前田氏・渡辺氏の回答についても紹介したい。

Q.導入・運用にかかる費用を知りたい

前田:イニシャルコストは100万円未満、ランニングコストは50万未満といったところです。ただチャットボットは色々な開発会社やベンダーがあり、費用はまちまちです。 独自のAIエンジンをお願いすれば、イニシャルコストで200~300万円かかるケースもありますし、逆にAIをあまり使わないチャットボットでは5万円といった製品もあります。

Q.内製・外製化の切り分けはどうしているのか

渡辺:楽天は文化的に内製するケースが多いです。ただリソースがない場合には外注することも当然あります。実際、既存製品のAIエンジンを使っているサービスもあります。

Q.データの収集について

渡辺:ホテルや観光スポットの情報は、楽天トラベルサービスから引っ張ってきています。またインターネットのデータソースから得ています。独自の工夫としては、検索でどれくらい上位にあるか。つまりメジャー度合いを照らし合わせた上で、クローラーで収集しています。

前田:テキスト全体ではなく、単語や名詞といった単位の情報に着目し、その中から業務に近しいものをピックアップするようにしています。具体的には形態素解析ツールを活用しています。

Q.学習データのしきい値について

渡辺:先ほど説明したとおり、大手検索サイトを参考にしています。

前田:楽天さんと同じく、キーワード検索の上位を注目しています。たとえば4月はコロナ関連のキーワードが上位にありました。一方でしきい値ではなく、業務に関連するキーワードに着目している面もあります。

Q.利用者のインセンティブなど、利用促進について

前田:インセンティブは考えていません。促進に関してはユーザーファーストを意識し、FAQのリクエストが届いたらすぐに対応していますし、バージョンアップ時には告知しています。

渡辺:個人的な意見ですが、楽天はポイント還元を頻繁に行っているので、そのあたりが参考になると考えています。楽天トラベルでは若い利用者も含め、電話での予約が多い状況です。私たちが開発したチャットボットが活用されれば、コスト削減につながると考えています。

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