アバナードが考えるERPの現状と、ブラックボックス化を食い止めるための「Microsoft Dynamics 365」活用法とは?

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アバナードが考えるERPの現状と、ブラックボックス化を食い止めるための「Microsoft Dynamics 365」活用法とは?

アクセンチュアとマイクロソフトのジョイントベンチャーとして、ITシステムのコンサルティングから設計、その上流から下流までを一貫して手がけるデジタルイノベーターカンパニー・アバナード。
そのアバナードのERP部門でディレクターを務める内藤淳史氏に直撃。既存ERPの課題やこの先の動向、内藤氏が考えるERPの未来や「Microsoft Dynamics 365」に対する本音を語ってもらった。

本物のDXはERPの刷新があってこそ。現状におけるレガシー資産の課題とは

2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート」によれば、旧態依然のいわゆるレガシー資産の問題が大きく、国内企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を阻んでいるという。

中でも基幹システムにおいては、21年以上利用のシステムが2025年には6割を越えると言われており、「2025年の崖」と指摘。このままの状態が変わらなければ、2025年以降の経済損失は12兆円にもなるという。

このような背景から、国内企業の多くは壁の打破に向け基幹システムの刷新を検討。その結果、ERP市場はかつてない大きな動きを見せている。

――DXレポート「2025年の壁」問題も含め、現在のERPの状況をどのように考えていますか。

DX、イノベーションと多くの企業や経営者が注目しているようですが、私にはDXの本質をまだ捉えきれていないように感じています。というのもデジタル化ならびにDXを進める理由は、さらなるビジネスのスピードアップです。

そのスピードアップを行うには、現在ブラックボックス化している基幹システム(ERP)の整備があってこそ。にもかかわらず、ERPの刷新を軽く見積もったり、逆に二の足を踏んでしまったりしている経営者が多いように感じるからです。


▲アバナード株式会社 ERP部門ディレクター 内藤淳史氏

――二の足を踏んでいるのはなぜでしょう?

基幹システムは、地味な領域だからだと思います。どうしても経営者や営業サイドは、目先の売上や効率化に繋がる業務改善アプリやツール、WEBなどの派手で賑やかな部分に、資本も含めて注力しがちだからです。

またERPを変えたからといって、目先のビジネスですぐに変化が見られるわけではありません。もちろん実際は違いますよ。これまでの保守経費が削減されたり、ライセンサーまわりがスッキリしたり。最近の流れであるクラウドに移行すれば、そもそも保守自体が必要ありませんから。

ただERPの刷新には費用も時間もかかります。そこまでかけても目前のビジネスが劇的に変わるわけではない。だから経営者の多くは20年以上前からオフィスに置いてある真っ黒なオフコン、まさにブラックボックスのままでいい、そう考えるのでしょう。

しかしブラックボックスシステムでは、グローバルなビジネスがスタンダードとなった昨今、拠点ごとの連携がスムーズに行えず、先のスピード化が実現できません。結果としてDXがうまく進まない。

このような状況が現在のDX、ERPまわりの課題だと私は考えていて、その本質は今お話したとおり、ERPの刷新に対して保守的な経営者が少なくないことです。そしてこの状況が、まさに2025年の壁問題に直結しているのだと私は考えています。

国内のSIベンダーではブラックボックスは繰り返される

――一方で、ERP刷新の重要性に気づき、システムを再構築している企業も見られます。こちらの動きに関してはいかがでしょう。

正直に申し上げれば、日本のSIベンダーにシステムの再構築をお願いしても、再び同じブラックボックス的なシステムが構築されてしまうのではないかと、私は危惧しています。これは、なぜ現在のシステムがブラックボックス化しているかを考えてみれば、明白です。

日本の多くのSIベンダーは、クライアントからの要求をそのまま構築し、日本独特の商慣習やローカルルール的なものまで、システムに盛り込んでブラックボックス化してしまう傾向にあるからです。

この傾向は、ハードインフラやテクノロジーが進化した今でも変わっていません。なぜなら、システム刷新手順のファーストステップにブラックボックスの解析を行なっているからです。そしてブラックボックスを明らかにした上で、再びクライアントから言われたシステムを作っていく。このようなシステム構築は、ブラックボックスtoブラックボックスでしかありません。

そのため数億円かけてシステムを刷新したにも関わらず、2025年の壁にぶち当たってしまう。これが、今の国内ERPの現状なのです。

――つまり2025年の壁を打破するには、システム設計に携わる側の考え方を変える必要があると?

ええ。従来のやり方である事業所ごとにシステムを構築するのではなく、会社全体で一つの基幹システムを構築する。それも繰り返しになりますが、企業の商慣習やルールに準じたものではなく、基幹システムにおけるスタンダードなシステムであることが重要です。

つまり「標準化」されたものに、全くのゼロベースで再構築する必要があります。そしてこのような再構築が、本当の意味でのERPの刷新、ならびにDXの実現に繋がっていくのです。

従来のERPとは全く異なる設計思想の「Microsoft Dynamics 365」に衝撃

実は私も以前は、国内のSIベンダーでエンジニアとして、グローバルスタンダードとは真逆のシステムを、顧客の要求をそのまま盛り込み構築していました。そして当時はそのような業務に、特に疑問も持っていませんでした。

しかしあるとき、他のERPパッケージを見ると、そこには私がこれまで扱ってきたものとは全く異なる世界観がありました。それが「Microsoft Dynamics」です。顧客に合わせてシステムを作るのではなく、顧客がMicrosoft Dynamics標準に合わせるという「思想」で作られていました。もう、衝撃的でしたね。自分がそれまでやっていた仕事とは、真逆の思想でしたから。

さらに感心したのはMicrosoft Dynamicsを利用することで、より良くなる未来のビジネスのロードマップを明確に描いていることでした。目先のニーズをただこなしているだけの日本のベンダーとは、根本の部分でビジネスに臨む姿勢が違うな、と。

今から10年以上前の話ですから、Microsoft Dynamicsのバージョンは3だったと思います。もちろん日本では販売すらしていませんでした。しかし世界のマーケットを見ると、それはもう、急激にシェアを伸ばしていて、マイクロソフトも巨額のお金をつぎ込んでいました。

このようなグローバルな状況を知った私は、「Microsoft Dynamicsは日本でも来る、必ずビジネスになる」そう確信し、当時勤めていた会社をやめ、Microsoft Dynamicsを扱う企業に転職しました。そこで同製品の日本語化、日本のマーケットにあったモジュールなどを増やしていく業務に没頭。そうして2年ほど前にSaaS・クラウド版のMicrosoft Dynamics 365(以下、D365)が発売されてからは、いよいよ日本でも盛り上がりを見せるようになりました。

そしてこのような流れから、私自身2019年1月にアバナードにジョイン。以前にも増してMicrosoft Dynamicsの普及に力を入れていこうと意気込んでいます。

世界各国で大小様々な企業が導入

――つまり内藤さんがD365を扱っているのは、企業にとって本当に価値あるERPだと考えているからだと。改めてどのような特徴があるのか、教えていただけますか。

端的に説明すれば、柔軟な拡張性を持つと同時に、使いやすいグローバルERPだと言えます。

ベースは「D365 for Finance and Operations」や「D365 Business Central」といった会計まわりの業務に関するERPソリューションならびに、「D365 for Customer Service」などの顧客、CRMまわりのソリューションです。そこに顧客の規模や業務内容により、自由にソリューションの組み合わせができる仕様になっています。

柔軟性はD365内のソリューションに限りません。現在お使いの他社製ERPの一部をD365のあるソリューションに乗り換えることもできます。よくあるのは会計ERPの大きな部分は既存システムをそのまま利用し、サプライチェーンに関する、先ほどの話とは相反しますが、目の前のビジネスに直結する部分のソリューションをD365に変えるケースです。言ってみればバラ売りのような感覚です。

また操作はMicrosoft Officeに準じますので、まさに標準仕様のグローバルスタンダードです。

見方を変えれば、顧客のニーズにあわせながらもコアの部分(標準化)を変えることなく、新たなソリューションを開発・追加してきたパッケージとも言えます。そのためDynamics製品群とも呼ばれます。

そして特筆すべきは、クラウドになったことです。実際導入すれば分かりますが、先のような巨大な真っ黒なオフコン、あるいは企業によっては大規模なインフラリソースがいらない、なくなるのですから。当然、メンテナンスは不要。導入後は目の前のパソコンを操作するだけでERP管理が可能になります。

このような利便性から、世界各国の中小企業から大企業に至るまで導入実績があり、業種・業態を問わず、幅広い領域の企業で使われています。そしてここ日本でも着実に導入は進み、昨今のERPパッケージのランキングでは常に上位にランクインしています。

数あるパートナー企業の中でデリバリー実行力が一番

――D365の強みは分かりました。ではなぜ、数多くのベンダーの中から内藤さまはアバナードを選ばれたのでしょう。

集まっているメンバーのスキルの高さや熱意、アクセンチュアやマイクロソフトのアセットがあることが決め手でした。

正直、ERPの導入はかなり難易度の高い仕事です。まずは設計段階。いわゆる一般的なPoCで回していくわけです。言葉にすると簡単ですが、実際に形にするまでには、まるで生き物が子どもを生むのと同じで、そう簡単には進みません。いくつも超えなければならない生みの苦しみがあるからです。

たとえば先ほど触れたように、D365は従来型ERPとは異なり、D365という標準規格に、顧客のニーズを擦り寄せていきます。そのため従来のシステム構築のやり取りに慣れている顧客からは、当然、戸惑いや反発が起きることがあります。

その声を聞いた上で、本当に必要な要件はどれかを提案しなければなりません。そしてこのようなフローを、スキルも含め粛々と行える人材やチームといったアセットが、アバナードにはあります。

生まれてから使える形に整えていくフローも簡単ではありません。先の生き物の話しで再び例えれば、0歳時の赤ちゃんを育てていくことは、簡単ではないからです。中でも特に難しい業務がデータ移行です。

そしてこのデータ移行は、個々のエンジニアによって異なる属人的なものでもあります。つまり同スキルを持つエンジニアが、ERPの刷新では必要不可欠なのです。

このような背景から、D365を扱ってはいても、実際はPoCの部分までであったり、肝心のデータ移行で戸惑ったりするケースがあります。スキル不足からERPパッケージが正しく顧客にデリバリーできていないSIベンダーが少なくないように感じています。

――しかしアバナードであれば、そうではないと。

ええ。もうひとつ、アバナードの親会社であるアクセンチュアは他の大きなERPパッケージのベンダーでもありますから、同パッケージからこぢんまりとしたD365に乗り換えたいとの要望があるときなどにも、グループ企業のアセットが活かせると感じています。

One Versionを導入すれば今後一切「壁」は現れない~半永久的なERP

――最後に、内藤さんが考えるERPの今後についてお聞かせください。

Microsoft Dynamicsに携わるようになってから10年以上が経ちました。新しいソリューションの追加、バージョンアップなど繰り返してきましたが、クラウド型のD365が登場して以降、一気にERPの動向が変わったように思います。そして半年ほど前には、ついにロードマップの念願だった「One Version」をローンチ。今後のERPは、大きく変わると確認しています。

――One Versionとはどういったものなのですか。

システムを自動でアップデートする仕組みです。普段使っているパソコンやスマホのOSやシステムと同じような感覚です。つまり一度D365のOne Versionを導入すれば、そこからもう半永久的に、システムの構築をする必要がないのです。

言い方を変えれば、今回の取材テーマであるブラックボックスも2025年の壁問題も、この先二度と現れなくなるでしょう。クラウド上で、常に最新のシステムが更新されていくわけですから。

実は私もこのアップデートの形が、ERPの理想だとは思っていました。しかし大きいものでは1年もかけて構築するシステムですから、それを自動でアップデートすることが、そもそもできるのか。できたとしても、クライアントサイドが納得するのか。このような懸念から、実現は難しいだろうと思っていました。しかし、実現してしまった。

私が思い描くERPの未来は明確です。ERPというよりも、ビジネスの未来の形といった方が正しいかもしれません。

クラウドでグローバルなERPのおかげで、海外事業所の売上状況、国内工場の生産状況など。世界中に点在する事業所や工場の「ヒト・モノ・カネ」の動きが、本社のオフィスにいながら、机上で、ボタン操作ひとつで確認できる。経営層はその画面を見ながら、次の一手を判断していく。

まだ実現できている絵ではありませんが、今のERPの賑わいを糧に、ぜひとも実現したいと考えています。ただ正直人が足りません。私自身も含め、会社も積極的にERPまわりに強いタレントを集めていますが、ニーズが多すぎて追いついていないからです。

もう一つ、これまでアバナードは大口のクライアントをメインにビジネスを展開してきましたが、今後は小規模のクライアントを増やすことで、以前にも増してERPまわりのナレッジを蓄積し、先の夢の糧にしていきたい。そう、考えています。

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