【前編】SAP流ビジネス思考フレームワークから学ぶデザインシンキング「きほんのキ」講座

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【前編】SAP流ビジネス思考フレームワークから学ぶデザインシンキング「きほんのキ」講座
近年、ビジネスの場で注目されるようになったデザインシンキング(デザイン思考)。2020年2月8日~9日の二日間で開催された仙台市プロジェクト「SENDAI X-TECH Innovation Project」では、このデザインシンキングをグローバル全社でいち早く取り入れ、製品開発だけでなく、マーケティングや営業プロセスなど日々のビジネスにも取り入れているSAP Japanの取り組みをもとに、基本を学びながら体験するワークショップを開催しました。

仙台をITを学び、ITで盛り上げるプロジェクト進行中

オープニングはTECH PLAY運営事務局から、今回のイベントのスケジュールや注意事項について説明がありました。

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仙台市産業振興課・荒木田理さんからは、企業が抱える課題をITの力で解決するプロジェクト『SENDAI X-TECH Innovation Project』の取り組みを説明。具体的には、楽天野球団や藤崎百貨店が抱える課題を、仙台市のIT企業を中心にオープンイノベーションが進んでいることが紹介されました。

また、これまではエンジニア向けの技術を学ぶプログラムが多かったが、今日はデザインシンキングがテーマで、エンジニア以外も参加できるプログラム。今後も多様なテーマでチャレンジや学ぶ場を作っていきたいと語りました。

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今回の講師は、SAP Japanの吉越 輝信さん

今回は基本的にデザインシンキングのワークショップは初めてという方を対象に、デザインシンキングの概要やワークショップの体験を通じて、“きほんのキ” を学ぶ講座。SAP Japanの吉越 輝信さんを講師に、クレスコ・イー・ソリューションの遠藤さん、方さん、布施さんにサポートを務めていただきました。

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▲吉越 輝信さん SAP Japan エヴァンジェリスト&コミュニティマネージャー
Business Innovators Network

IT業界28年目、オープン系、Java、RIA、セキュリティ、B2C、エンタープライズなど多岐に渡り、日系・外資系で営業やビジネスデベロップメントを担当。SAPは13年目。SAP on Cloud、スタートアップやアントレプレナーの方々とのコラボレーション、福井県鯖江市や沖縄県沖縄市をはじめとする地域の方々とのシビックテック、スポーツ x SAPなど、Next Innovationのデベロップメントを行っている。

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▲クレスコ・イー・ソリューション株式会社(左から)方さん、遠藤さん、布施さん

●SAP(エスエーピー)とは?

ドイツ本社のビジネスITプラットフォームベンダー。SAPのアプリケーションやサービスは、世界中で約43万7000社に導入。SAPはデザインシンキングを活用し、2010年から5年間で売上を2倍以上の急成長を遂げ、企業のイノベーション創出を支援。世界経済の約8割に寄与している。

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デザインシンキングって、何ですか?

最初に今回のワークショップにあたっての注意事項が説明されました。特に吉越さんが強調したのは、「不完全や曖昧、失敗を受け入れてください」ということ。これはこのあとも、何度も繰り返し伝えられます。

アジェンダ紹介後、ワークショップの進め方・グランドルールとして、「気づきがあったら、ポストイットに書く・描く」、「一枚のポストイットには、一つのことだけを書く」「誰かが発表したら、必ず拍手する」などが説明されました。

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SAPでは、ビジネスの場でフル活用しているという「デザイン思考」。イノベーションを興すマインドセット・フレームワークと言われていますが、吉越さんはそのイノベーションには二種類あると言います。一つは発明に近いもの。iPhoneのように、誰も見たことのない何かを作り出すイノベーション。

そして、もう一つは今あるものを少し見方を変え、全然違う価値を生み出すイノベーション。途上国の教育支援を行うNPO「e-Education Project」のルワンダ代表として活動していた牧浦土雅氏が、農業のやり方や輸送手段を伝えたが、全然効果がなかった事例を紹介。

デザインシンキングのマインドセットを使って調べてみたところ、彼らが求めていたのは売り先。売り先のマッチングをしてみたところ、生産高は変わっていないのに、収入が10倍になり、農民はハッピーになったといいます。

デザインシンキングは、何が求められているのかを探し出すのが大事。また、イノベーションは目的ではなく終わりなき旅。新しいものを生み出したら終わりではない。チャレンジを止めたら、そこで進化は止まります」と吉越さんは強調します。

イノベーションの代表例として挙げられることの多いiPhoneにも、ある日突然、Spotifyのような競合がやってきます。そして、タクシーを一台も持っていないのに世界最大のタクシーチェーンとなった「Uber」や、ホテルを一つも持っていないのに世界最大のホテルチェーンとなった「Airbnb」を例に、課題に対してそれまでの常識に囚われず、デジタルを活用してユーザーの課題にダイレクトにアプローチするサービスが登場している事例を紹介しました。

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既存のビジネスモデルや技術を改善するインダストリー3.0に比べ、これまでの延長上にない非連続なインダストリー4.0はいきなり垂直に立ちあがります。

「競合は10年かけてはくれず、2~3年でやってくる。このスピードに立ち向かうには、既存事業を伸ばしつつ、新しいインダストリー4.0も手に入れなければならない。これからは既存を磨き上げ続けつつ、破壊的イノベーションにもチャレンジする。どちらもチャレンジし続ける事が求められる」と、吉越さんは言います。

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デザインシンキングで一番重要なのは「何が課題か」を発見すること。そもそも課題は何なのかを徹底的に追求するマインドセットであり、ツール群。そこにはグランドルールがあります。

「新しいチャレンジ、アイデアを生み出すときには、いろんな観点でものごとを考えなければいけませんが、デザインシンキングは必ずヒトから入る。ターゲットとなるヒトが何を悩み、何を考え、何に気づいていないかを徹底的に探し出すことがデザインシンキング。技術的に今できるものは何だろう、経済的にサスティナブルなものは何だろうといったことは、その後に考えればいいのです」(吉越さん)

人間は課題があると、すぐ答えを出したがるものですが、デザインシンキングにおいては答えよりも大事なのが課題。答えは100通りあろうが、1000通りあろうと全然構わない。一つである必要はないと、吉越さんは続けます。

重要なのはターゲット。誰を幸せにしたいのか?その幸せにしたい人の課題をいかに導き出すか、そのチャレンジを続けていくかが大切です。デザインシンキングは絵をうまく書くことではなく、ターゲットを幸せにしたいこと、困っていることを解決してあげること。大事なのは答えではなく、どうやったらそれができるかを問う、問題文を作ることなのです」(吉越さん)

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デザインシンキングはどんなところで役に立つ?

デザインシンキングは、新商品から既存商品まで様々な場面で役立つので、ここが使えて、ここが使えないはない。日々の生活でも役に立ちます。デザインシンキングを使った事例として有名なのがMRI。アメリカでは、80%の子どもがMRIマシンの中で動いてしまうため、鎮静剤を打たなければならなかったという課題がありました。

それに対し、「これから海賊船に乗り込もう」「宇宙旅行に行こう」「宝探しの冒険に行こう」という体験に変えたことで、麻酔鎮静剤投与率を5%まで削減したのです。最近では、プロジェクションマッピングや、海賊の衣装を着せたりする体験が人気なのだとか。

また、機能が全て一画面に並ぶと、何をどう使ったらい良いかわかりづらかったのを必要なボタンのみに4つくらいに絞り、わかりやすくした複合機の事例なども紹介されました。熱中症で搬送される人を減らす、街の機能を向上させて子どもを育て易くする、自動運転が一般的になった後のシートレイアウトなどもデザイン思考を用いた議論が展開されています。

デザインシンキングを経営に取り入れたことで、業績を伸ばしている企業も多く、SAPジャパンでは、お客様のビジネス課題解決のために、デザインシンキングを用いたワークショップなどを頻繁に実施しているのだそうです。

デザインシンキングのアプローチとは?

デザインシンキングで重要なのは、以下3つのPだという吉越さん。まずは多様な人を集めること。年齢や性別などバラバラの方が望ましく、繰り返し試行錯誤する時間は必要だし、その環境も重要だといいます。

  • People:様々な専門性や多様性を持つ人材
  • Process:試行錯誤を繰り返す反復型デザインアプローチ
  • Place:創造性とコラボレーションを促進する環境

「デザインシンキングは、魔法の杖でも一撃必殺の技でもない。オープンで安心して参加できる場所で、種を育てていくことが大切です。美味しい料理を作ろうと思ったときは、料理が上手い人を見つけてくる方法もあるし、サイトで人気レシピを探す方法もある。キッチンがある環境も必要だし、料理が上手くなるには時間をかけた修業が必要です。」(吉越さん)

イノベーションも料理を作るのと同じく、様々なやり方やアイデアのかけ合わせや、プロセスを体験してみることで生まれる。今回は図のようなデザインシンキングのプロセスを体験しながら進められていきました。

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体を動かしながらの自己紹介タイム

体験ワークショップに入る前に、同じチーム内でアイスブレイクを兼ねた自己紹介タイム。二人一組となり、相手の名前を呼んで、カイロを投げて自分の名前を言うのが1週目。2周目は、昨日のお昼に食べたものを言って、相手の名前を呼んで投げる。3周目は宝くじで10億円が当たったら何に使うかを言い合います。

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デザインシンキングのワークショップテーマ発表

今回のワークショップでデザインシンキングするテーマは、「駅のエスカレーターで片側を歩いている人を止めるアイデアを考える」。ただし、エスカレーターは止めたり、構造は変えたりせず、現在のエスカレーターに何かをプラスするアイデアを考えます。

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まず、発想の拡散を行い、次にその発想を磨いていきます。中には自分がいいと思ったアイデアが捨てられることもありますが、それを常に繰り返します。そこでは、やはり不完全さ、曖昧さを受け入れることが重要となります。

吉越さんは必要な心構えとして、以下を挙げました。

  • 否定しない
  • 判断は後回し 判断しない
  • 自由なアイデア歓迎 
  • アイデアはすぐ書いて形に

さらに、否定はせず、まずは「Yes」と受け入れ、「だったらもっとこういうふうにしたら…」と言うこと。実際できるかなど考えずに、思いついたらすぐポストイットに書いて貼っていくことをを提案しました。

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デザインシンキングは情報収集・探索が重要

今回は体験なので実践はしませんが、本来は課題に対し、専門家へのヒアリング、自らの体験、ユーザーを観察しに行ったり、ユーザーにインタビューするリサーチを行います。まずは「探索する」ことが重要で、ここで手を抜いてしまうと、この後どんなに頑張ってもうまくいかないと言い切ります。

ワークショップでは、エスカレーターの片側通行に関する日本の現状と課題についての基礎情報を提供。インプット情報に対して、参加者は気になったこと、気づいたことをポストイットに書き留めます。

  • 年間1475件の事故が起きている
  • 二列で立ち止まって乗ることを呼びかけるがあまり定着していない
  • 事故が多いのは駅などの交通機関、次にショッピングセンター
  • 60歳以上の高齢者が多い
  • エスカレーターを歩く人が83%以上、やめたほうがいいと思っている人は70.6%
  • ロンドンの社会実験では、2列乗車の方が30%輸送人員がアップする
  • 歩いている人、歩かない人が考えていることアンケート  …などなど

気づいたことを書いたポストイットを、チーム内でそれぞれ読み上げながら貼っていきます。共有後は、内容をグルーピングする作業を行います。

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デザインシンキングのプロセス

プロセスは“共感”が全て。ターゲットのことを知らなければ、共感できないので、誰がどう使うの?なぜ使うの?どこで使うの?いつ使うの?を常に考えることが重要」だと吉越さんは言います。

ユーザーが求めていることを知るために、自分だけのデザインが作れるサービスを実践した アディダスの事例や、ユーザーの好みに合わせてカスタマイズ提供した需要データを活用したハーレーの事例を紹介。ここでも「否定しない」「判断しない」で、ユーザーのことをひたすら考える、「理解と共感」することが鍵であることを繰り返し伝えられました。

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ペルソナ共感マップの作成

デザインシンキングでは、ターゲットのペルソナを設定し、徹底的に考えることも重要です。ビジネスの場合は架空の人物でもかまいませんが、事実のデータを組み重ねて人物像を作っていきます。近年は多様性の時代、個々のニーズが千差万別化しているので、20代の女性という大雑把なくくりではなく、できるだけ具体的に考える必要があります。

今回は事前に用意された「仙台通勤サラリーマン」「仙台に転勤して2カ月のOL」「仙台の通学学生」3パターンのペルソナをもとに、理解を深める体験を行いました。

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各チームに配られたペルソナが書かれたシートに、似顔絵を描き、名前、年齢、趣味、仕事などのプロフィールから、考えること、感じること、よく目にするもの、よく耳にする、言うこと、困っていること、必要なことなど、気づいたことをどんどんポストイットに書いて貼っていきます。

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ペルソナの行動を理解するカスタマージャーニーの作成

続いて、さらにペルソナを理解するために、ペルソナの行動を時系列に書き出し、その行動に対して、ペルソナがどんな感情を抱いているかなども書き出すカスタマージャーニーマップを作成します。

まずは朝の行動をポストイットに書き出し、その後マップに貼りながらチームメンバーで簡単に共有。チームで共有することで、ペルソナをさらに可視化します。相乗りOK、付け加えるのもOK、思いついたこと、気づいたことはどんどんポストイットに書いていきます。

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ペルソナの感情、行動、タッチポイントについて共有した後は、ペルソナにとって課題だと思うアクションに赤マーク、その原因だと思われることに青マークをそれぞれ5票ずつ貼ります。

作成したカスタマージャーニーマップをもとに、チームでペルソナを改善。「違う考え方を持ち、異なる世代や属性の人が集まって、多様な意見を述べることで、ペルソナに対する理解が深まる。ペルソナになりきって、どんどん意見を出し合ってください」という吉越さんの呼びかけで、チームの議論は白熱していきました。

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ペルソナの肉付けができたところで、TECH PLAY運営が用意したお弁当とお茶でランチタイム。午後は課題の再定義を行っていきます。

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▶︎イベントレポートの後編は、こちら!→【後編】SAP流ビジネス思考フレームワークから学ぶデザインシンキング「きほんのキ」講座

▶︎仙台市主催のイベント

【2019年11月7日(土)~11月8日(日)】KotlinでWebアプリケーションを開発してみようハンズオン
【2019年12月7日(土)~12月8日(日)】SwiftでiPhoneアプリ作り体験!
【2020年1月18日(土)~1月19日(日)】アプリUIデザイン実践ハンズオン
【2020年2月7日(土)~2月8日(日)】デザインシンキング体験講座
【2020年2月29日(土)~3月1日(日)】ビジネスプラン構築ワークショップ

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