「予測的中率95%超」実現。データ解析の力で経営を改善した 伊勢の老舗食堂『ゑびや』が「BEST DX COMPANY賞」を受賞

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「予測的中率95%超」実現。データ解析の力で経営を改善した 伊勢の老舗食堂『ゑびや』が「BEST DX COMPANY賞」を受賞
伊勢の老舗食堂『ゑびや』は「予測的中率95%超」という来客予測システムや、店舗データと外部要因を取得・可視化するBIツールを自社開発。売上5倍・利益率10倍を実現したことで、各業界から注目されている。このノウハウをプロダクト化し、ビジネスツールとして販売も始めた。ゑびやの取り組みとソリューションは、コロナ禍で客数・売上の大幅減を余儀なくされたサービス業全般の再建にも活かせそうだ。

パソコン導入から始まったゑびやのデジタルトランスフォーメーション(DX)

三重県伊勢市で土産物店や和食堂などの商業施設を営む創業100年の老舗「ゑびや」。 店頭に定点カメラを据え、商店街の通行客数や来店客数を、画像解析カメラ・来客予測AIシステムなどを使って測定している。これに天気予報などの様々なデータを掛け合わせることで、「的中率95%超」という来客予測の高い的中率を実現。自店の仕入やサービス改善、商品企画、さらに事業計画作りにも役立てているのだ。

「デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が登場する前から、ゑびやのデジタル化推進は始まっています。それがゑびやの事業と従業員を守り、将来に渡る事業拡大のために、必然かつ最短の道だと思ったからなんです。今回BEST DX COMPANY 賞をいただいたことで、改めて『なるほど、これがDXなのか』と思った次第です」

受賞の率直な感想をそう語るのは、有限会社ゑびやの代表取締役であり、株式会社EBILAB(エビラボ)CEOの小田島春樹氏だ。

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▲有限会社ゑびや 代表取締役/株式会社EBILAB 代表取締役 CEO 小田島 春樹氏

小田島氏は、以前はソフトバンクで新規事業開発などを担当していた。2012年に妻の実家が営むゑびやに入社し、店舗のマネジメント経験を積みながら、老舗の事業を承継することになる。しかし2012年当初は店舗にはパソコンがほとんどなく、業務は紙ベースで管理していたという。パソコンを導入し、Excelでデータを管理するところからのDXスタートだったのだ。

従業員の勤怠管理をタイムカードからスマートフォンに変え、給与明細をスマホで見えるようにするなど、次々にデジタル化を進めていくが、「単にデジタルツールを導入すればいいというのではなく、それを通して業務、経営、組織自体も変えたいと考えていました。従業員の反応はさまざまで、変化についていけなくて退職した人もいます」と振り返る。

ゑびやのような飲食・小売店舗では、天気や商店街の通行客数といったデータは商売の基礎になる。例えば「週末は晴れそう。客も増えそうだから、仕入を増やしておこう」といった経験と勘に基づく予測だ。しかし、それを数字に落とし込んで分析することは、とりわけ中小店舗ではなかなかできていない。

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例えば、商店街を行き交う人のうち、何人くらいが店に入ってくるのか。その入店率の判断にあたっては、経営者、店長、現場スタッフ、料理長などそれぞれに経験値がある。しかし、属人的な経験に頼っている限りは、それは共有化しにくいし、未来の来客予測の仮説としても弱い。小田島氏が挑んだのは、まずはこの数値化・データ化だった。

ゑびやでは、過去の売上データや気象・曜日・近隣の宿泊客数といった様々なデータから、翌日の来客数を予測するようになった。通行客数・来店客数のカウントは、店頭や店内に据えた複数台の人流データカウントカメラが威力を発揮した。

現在はAIによる人数の計測にとどめているが、一時は画像解析を駆使して、性別や年齢別はもちろん、人の感情を分析し、マーケティング施策でどう変動するかまでを見ていた。

「最初はデータ分析のプロトタイプばかり作っていました。現場スタッフに使ってもらい、使い勝手はいいのか、どのような結果につながるのかフィードバックする場を積極的に作り、徹底的に試しました」

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約3年かけて、400項目近いデータの相関関係を詳細に分析し、来客数に最も影響を与えそうな項目を洗い出した。結果的に、この予測式は「予測的中率95%超」という驚異的な数字をたたき出すまでになった。

来店客予測は、日々の店舗運営から食品ロス改善、働き方改革にまで役立つ

さらに売上分析、顧客属性分析、天候などの外部要因分析、通行量・入店率・売上昨対比較、顧客アンケート分析、原価分析など、次々にBI(ビジネス・インテリジェンス)ツール化して、それを現場でフル活用した。過去のデータを迅速に「見える化」することで、経営判断や店舗オペレーションの精度が高まった。

一方、AIも活用した来客予測は、食材発注や仕込み、勤務シフト、販売促進、事業計画に活かせるようになった。前日に翌日のことがわかれば、必要分だけ食材を仕込むことができ、結果的に無駄な作業をする時間の削減にもつながる。

1週間先までわかるようになれば、発注ミスが減らせる。45日間なら従業員全体の勤務シフトが設計しやすくなり、売上が落ち込む時期を予測した販促施策に時間を割けるようになる。それが1年ともなれば、事業計画の精緻化に役立つ。

こうした施策を通して、2012年からの5年間で売上は5倍に、利益率は10倍にまで向上した。中小企業のDX化が確実に経営改革・利益向上につながった先進的な事例である。

来客予測が完璧になれば、飲食店での食品ロス率を抑えることもできる。ゑびや大食堂での米の残量だけを見ても、2012年と2019年を比較すると、約90%のロス削減効果が出ているという。

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来客予測によって、従業員の無駄な残業や休日出勤を抑えることもできるようになった。同社には特別長期休暇制度があるが、その取得日数は通常の法的有給休暇とは別に、全社員平均で連続15日間取得。有給休暇の取得率も80%以上に達する。

まさに「未来の数字を考えながら、事業を作り込んでいく」(小田島氏)というスタイルが、経営者はもとより現場の従業員一人ひとりに浸透していった結果で、それが働き方改革にまで広がっている。

同社のDX化では、BIツール化やAIの活用だけでなく、テレビ会議システムによる店舗オペレーションの効率化、オンライン会議システムを活用した社内コミュニケーションの活性化、情報共有基盤のクラウドへの一本化、レジ、カード決済、オーダーシステムにおけるスマートデバイスの積極活用なども重要なポイントだ。

ちなみにEBILABオフィス内の小田島氏が座る机の背面には巨大なディスプレイが置かれ、全店舗の様子から国内外の開発拠点の映像までがリアルタイムに表示されている。並のIT企業以上にITツールを駆使しているという印象だ。

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内部人材をDX化。システム開発子会社でクラウド型店舗分析サービスを外販

しかし、「ITベンダーに言われるままに導入したツールは一つもない。特定のベンダーや特定のソリューションに依存するという考えもなく、最新で一番楽なツールや方法を取り入れているだけ」と小田島氏は言う。そこには「自分たちのためのDXを自分たちの商売の現場で展開する」という自負がある。

むろん、ゑびやでできたものが、他の事業者にできないことはない。ゑびやでは2018年にシステムを外販するための株式会社EBILAB(エビラボ)を設立。ゑびやの現場で鍛え上げたシステムを「TOUCH POINT BI」と呼ばれる、飲食・小売店に特化したクラウド型の店舗分析サービスとして販売している。

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EBILABの企業理念「笑顔を売る人が笑顔でいられる世の中に」をもとに、「リアル店舗をECサイトのように根拠ある商売に変え、 データ解析の力でより楽しく、 スマートに働ける世界を」がサービスのコンセプトになっている。現場スタッフが50人規模の中小企業、しかももともとITサービスではない事業体の企業にここまでの展開ができることに驚く人は多い。

だが、それは外部から呼び込んだIT人材が増えたということではない。 現場の店長が独学でデータベースを勉強し、IT業界人と遜色のないレベルまでスキルアップしたり、ホールスタッフだった人がシステム構築をするようになったり、卸売営業担当者がシステム外販の中心にいたりと、いわば内部人材のDX化を進めた結果でもあるのだ。

コロナ禍による外出自粛であらためて気づいたデータの力

新型コロナウィルス感染拡大による外出自粛は、全国の飲食・物販、サービス事業者に大きな影を落としている。通常なら伊勢神社参拝客でにぎわう伊勢の商店街も例外ではない。ゑびやでも、前年同期比で約90%の売上減に見舞われた。

しかし、小田島氏はこう言い切る。

「客足がすぐに戻らないとなると、経営者は投資に慎重にならざるを得ない。失敗しない投資を以前より強く意識するようになる。そこで必要なのがデータによる裏付けであり、私たちの経験が活かせるはず」

例えば、営業自粛を求められたときの、休業判断は難しいものがある。ゑびやでは、店舗前の通行客数と入店率に加え、雇用調整助成金の給付額と固定費削減効果などを掛け合わせて、コロナ下の店舗の営業利益分岐点を独自に算出。売上が前年比70%に落ち込んだら休業した方がいいと判断し、全店の休業に踏み切った。同時に、店舗再開の目安もデータによって裏付けた。

「休業判断は通行客数が2000人以下でしたが、その後、雇用調整助成金額が増額されたので、通行客数が1500人になったら再開することにしました。さらにその後の通行客数もモニタリングして、データによる休開業を判断しています。

日々のデータ収集がコロナの時代にこのように活かせるとは思っていませんでしたが、データに基づいた経営のノウハウがあったからこそ、それが危機の時代にも役に立つと改めて気づいたのです」

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当然、こうしたノウハウは「TOUCH POINT BI」にも組み込まれ、他の店舗、他の業態にも活かされるはずだ。

すでにEBILABでは、店内の混雑予測や混雑状況などが一目で分かる「混雑予測AI」を開発し、外販を開始している。実際にこのデータをゑびや店舗前の50インチ大型モニターに表示している。これを自社のWebサイトに組み込んだり、モニターなどに表示すれば、他の店でも、混雑時を避けて来店するよう顧客を案内するためのツールとして使える。

「私たちはシステム開発にあたって別に高等な数学を駆使しているわけではなく、やっていることは四則演算レベルのことです」と小田島氏は謙遜する。

しかし、全社員がデータに基づいた経営を尊重するというデータドリブンのリテラシーを身に付けてきたことはたしかだ。こうしたデータソリューションの考え方は、同社だけでなく、人手不足や収益率の低迷などに悩む日本のサービス業全体に、一つの光明をもたらすものでもあるのだ。

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