【レポート】デジタルマーケティングから紐解き、マーケティングをもういちど考える:デジタルマーケティング[第1部] - TECH PLAY Conference 2017
2017年8月20日(日)から25日(金)の6日間にわたり、「TECH PLAY Conference 2017」が開催されました。
本レポートでは、8月23(火)12時よりスタートした第4日目の「デジタルマーケティング」のうち、第1部「デジタルマーケティングから紐解き、マーケティングをもういちど考える」の内容をお届けします。
第1部は、花王の石井さんによる基調講演です。それでは内容をご紹介します!
「マス」の消滅。
石井龍夫(いしい・たつお)/花王株式会社 デジタルマーケティングセンター シニアフェロー。群馬県出身。1980年に花王へ入社し、販売部門へ配属。その後、事業部門でブランドマーケティングに14年携わる。2003年からウェブ活用戦略と企画運営に携り、2014年3月には、デジタルマーケティングセンターを新設。カメラ好き。
初めに石井さんは、博報堂DYメディアパートナーズの「メディア定点調査2017」を紹介します。「メディア定点調査2017」は、メディア別の接触時間の構成比の推移が読み取れる資料。「テレビの試聴時間をデジタルが超えた」という文脈で引用されるケースが多くあります。
しかし、石井さんは「2013年以前と2014年以降で大きな変化があることに注目すべきだ」と指摘します。それは、2013年以前は「お茶の間でテレビとデジタルの画面を取り合っていた」状況ですが、2014年以降はメディア接触の時間が家の外に広がっており、メディア接触時間全体が伸びている傾向にあるという点です。この数字からは、通勤などでスマートフォンを利用している人が増えていることがわかります。
これは、今まで企業やマーケターがわからなかった「消費者がいつどこで何を知りたかったのか」というデータを取得できるようになったことを意味します。石井さんは「テレビが面白くないから、テレビ以外のメディアを見るようになった消費者が増えているわけではありません。行動の中で使われるメディアが大きく変わっているので、それに応じたマーケティングやコミュニケーションの在り方も変わってきている」と捉えています。
デジタルメディアへの接触が増えている近年は、テレビの時代は終わったのでしょうか? 「そもそもテレビの果たした役割、テレビの功績とはマスを作り出した点にある。情報の出口がテレビしかなかったこの50年間、『みんな同じ顔のお客様』を作っていった」と石井さん。つまり、全ての人が同じ商品、同じ暮らしを求める世の中を作ってきたわけです。
しかし、現在はマスの存在が変化しています。それは「テレビがつまらなくなったり、単にインターネットが普及したからというわけではなく、デジタルを日常的に使いこなすことによって消費者が変わってきているからだ」と石井さんは考察します。
そして、その結果としてマスが消滅して「個」へと分解され、その「個」はSNSなどを通じて自分の周辺の人とコミュニケーションをはかったり、感想を共有します。「こうした『個』のつながりを私たちは『スモール・マス』と呼んでいる」と石井さん。
さらに石井さんは「デジタルによってニッチがメジャーになる時代が訪れている」と話します。これまでのマスマーケティングが功を奏したのは、企業と消費者の間に情報格差があったことが大きな要因です。しかし、現在はデジタルによって消費者が入手できる情報が飛躍的に増えています。「マスコミュニケーションが上手く使えない」「企業の爆発的ヒット商品が生まれない」といった要因のひとつは、このデジタルの普及にあるわけです。つまり、テレビが作ったマスの時代は終わり、マーケティングの在り方も変わらなければいけないのです。
しかし、そもそもテレビを使ったマスマーケティングが主流だったのはわずか50年間の話です。石井さんは「デジタルマーケティングも、江戸時代の魚屋が行っているマーケティングと同じだ」と指摘します。
例えば、江戸時代の魚屋は「あそこの家には昨日カマスを売ったから、今日はサンマを売ろう。でも、ご主人は焼き魚が嫌いだから別の魚にしたほうがいいかもしれない」と、自身の記憶と知識の範囲で家ごとに商品をカスタマイズしていたわけです。つまり、いつどこで何を買ったのかという購買履歴から商品をレコメンドする点が共通しているのです。石井さんは「消費者の変化でマスコミュニケーションは効かなくなった。マーケティングはマスの夢を捨てて、パーソナライズに回帰すべきである」と自身の考えを語りました。
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「汚れが落ちる!」では潜在は売れない理由