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みなさまこんにちは。自動車・製造インダストリーソリューションアーキテクトの 小川 です。10月に入っても関東は秋雨模様のお天気から徐々に秋晴れの日も増えてきましたね。こちらの「 月刊AWS製造 」ブログでは直近1カ月に発表された製造関連のブログ・サービスのアップデート・事例や今後開催予定のイベントなどを毎月お届けしています。最近Amazonの独自チップ開発に関する記事やニュースが複数出ていたので、今月は製品設計開発領域でのAI活用に関して、ピックアップトピックとして触れさせて頂きます。 ピックアップトピック: Amazonの独自チップ開発とEDAツールベンダーとのコラボレーションに垣間見るAIネイティブ設計 Amazonは2015年1月に半導体設計開発を行うAnnapurna Labsをチームに加え、AWSのデータセンター ネットワーク や 仮想化基盤 、 Graviton や Trainium 、 Inferentia などの独自チップを内製で開発し利用・提供しています。これらのチップはチップ単位で外販しておらず、独自チップを社内で運用しドッグフーディングできているのは、大規模なインフラを運用しているAWSだからできるユニークな取り組みと言えます。顧客の機能要求をチップレベルで実装しAIチップのロードマップを形作ったストーリーなども こちらのAmazon News で触れられているので、ご興味ある方は参照ください。 EDAツールベンダーのSynopsysと組む狙い 先日 9/30に EDAツール大手のSynopsys社とAmazonが総額10億ドルにおよぶライセンス契約と双方の協業についてプレスリリース を行いました。この契約にはSynopsysが有するIPやソフトウェアプロダクトをAmazonが利用する契約に加えて、SynopsysがAWSのクラウド環境を使用して、EDAアプリケーションの開発スピードを早めたり、AIネイティブなエンジニアリングを目指す事で、双方のチームの生産性を上げることが掲げられています。 先端プロセスの半導体は1チップのトランジスタ数が 10 Billion を超える世界になっており、Amazonも公開しているものだと、 Graviton4のチップで 730億のトランジスタ を集積しています。このような巨大チップを開発するにはEDAを駆使し大量のコンピューティング能力を使ってシミュレーションする必要があり、人的にも物的にも開発リソースの逼迫が次世代チップの開発の妨げになっています。この壁を乗り越えるアプローチがAIネイティブなエンジニアリングであり、EDAツールベンダーとコラボレーションすることで、設計者は使い慣れた開発ツールの延長でAIを活用して開発を効率化できる機会を得られる可能性があります。 製造業の設計開発現場でのAI活用の現在地 製造業の設計開発現場ではエレキ設計のEDA、メカ設計のCAD、工学シミュレーションのCAE など各種ツールチェーンを用いて設計開発を行っています。ソフトウェア開発の領域ではAWSだと Kiro に代表されるコーディングエージェントの台頭によって AI活用が急速に進んでいますが、CAD、CAE、EDAなど各種アプリケーションを操作して開発を行う現場では、その特性上 エンジニアリング現場でのAI活用はユースケース毎に分けて活用されているというのが現在地です。 例えばシミュレーション結果を予測するAIサロゲートモデル、マニュアルドキュメントやナレッジを検索/要約して設計作業を支援するRAG、自然言語でCADやCAEのアプリケーションを操作するMCPなどの活用が挙げられます。これらはアプリケーションベンダー側でもAIの新プロダクトとして提供したり、既存CAD/CAE/EDAツールにAI機能を付加するなどの動きがあり、先のSynopsysのプレスリリースはこれらの流れを組むものです。かたや、複数ベンダーのツールチェーンをAIエージェントが横断的に連携処理させたり、自社のルールに則った設計内容になっているかAIにチェックさせたい、といった需要もよく聞かれ、これには独自にカスタムしたエージェントやMCPを用意したり、自社の設計データやドキュメントならびにツールチェーンのナレッジなどを加えたファインチューニングによる独自AIモデルを作成するようなアプローチが考えられます。AWSでは製品設計開発における AI活用のデモ 、 ワークショップ 、 情報発信 など数々行っていますので、チェックして頂き、気になるものがあれば近くのAWSメンバーに相談ください。 この分野はすさまじいスピードで進化しており、最近も空間認知能力をもつとされる GPT-6 Astra がリリースされた事で、吊るしの基盤モデルで3D設計も職人級の仕事ができてしまうようになる日もそう遠くないのかもしれません。 直近で開催予定のイベント 10/13 – 10/16 CEATEC 2026 JEITA 主催のデジタルイノベーションの総合展示会が幕張メッセで開催、AWSもブース展示を行います。AWSブースのテーマは「日本の担い手と、フィジカルAI社会を実現するAWS Japan 」です。安川電機様とコラボレーションした展示や、今回 CEATEC AWARDを受賞 した「AIエージェントがロボットを育てる ― 一行の指示から実機までをつなぐPhysical AI自律R&D基盤」など複数の展示を行う予定ですので是非AWSブースにお立ち寄りください。 11/7 JAWS FESTA 2026 年に一度、全国各地で開催されるJAWS-UGのお祭イベント。 JAWS-UG (ユーザーコミュニティ)主催 で、特定業種ではなく 横断的な技術テーマ が中心で、製造業「専用」のトラックやセッションはありませんが、スマート農業×AI/XR、IoT現場活用、設計書のAI活用、BCP、データ基盤 といった、製造業でも応用できるセッションが複数あります。 11/18 – 20 EdgeTech+2026 組込み・エッジ技術を中心にAI/IoT/セキュリティ等の最新技術を集めた、300社以上が出展する国内最大級のエッジテクノロジー総合展示会です。パシフィコ横浜で開催され、AWSは組み込み開発や自動車関連の講演を予定しています。 11/30 – 12/4 AWS re:Invent 2026 AWS 最大の学習イベントがラスベガスで開催されます。2,200 を超えるセッションが予定されています。 製造業でフィルタリングしたセッションカタログ の他、キーノートや展示などでも製造業に関わるトピックが例年存在します。オンラインで視聴できる内容もありますので、是非チェックしてください。 製造関連ブログのご紹介 9/2 Building a Production AI Agent on AWS: A Six-Pillar Walkthrough 「PoC では動いたエージェントが、本番にはなかなか載らない」。その原因を、作る・試す・動かす・守る・観測する・統制する(Build / Test / Run / Secure / Observe / Govern)の 6 つの柱に分解して解説した記事です。走る例として自動車製造工場の部品在庫エージェントを使い、Amazon Bedrock AgentCore や Bedrock Guardrails、Cedar によるポリシー制御を組み合わせています。エージェントの試作は済んだものの、本番運用に向けた守りと統制の設計をこれから固めたい方に参考になります。 9/9 Manage ESG data and simplify Sustainability reporting with Amazon Quick サステナビリティ報告の難所は、設備管理・調達・カーボン会計など各所に散らばった情報を監査に耐える開示へまとめ上げる点にあります。本記事は Amazon Quick をサステナビリティ情報のハブとして、要件分析からレポート生成までを 5 つのフェーズで組み立て、ESRS や CDP など複数フレームワークへ一元データからマッピングする構成を示します。報告フレームワークへの対応に追われている方の負担を軽くするヒントになります。 9/10 How Apollo Tyres Uses AI-Driven APC for First Time Right Tyre Extrusion タイヤの押出ラインでは、レシピを変えるたびに規格外の材料が出る立ち上げが発生し、1 日 30〜35 回の段取り替えを行う現場では総生産量の 5〜6% を占めていました。Apollo Tyres 様は、エッジで動く予測モデルと閉ループの APC 制御で最適な立ち上げ速度を自動付与し、立ち上げ時の手直しを約 26%、安定化時間を約 40% 削減、月あたり約 20 時間の生産時間を回収しました。Apollo Tyres Ltd の Harsh Vardhan 氏との共著です。段取り替えの多いプロセス系ラインで歩留まりとスループットの両立を狙う方におすすめです。 9/10 Reducing paint shop downtime with Industrial Data Fabric on AWS システムごとにデータが閉じていると、ライン停止の原因を SCADA や MES、停止ログの突き合わせで探すことになり、根本原因分析に 2〜4 時間かかることもあります。Mahindra 様の塗装工場では、分断データを Industrial Data Fabric で文脈化したナレッジグラフ(Amazon Neptune)に統合し、Amazon Bedrock AgentCore 上の 2 つのエージェントが上流の原因まで自然言語で提示します。平均修復時間(MTTR)を 20%、他工場への横展開時間を 30% 削減しました。同じ仕組みを複数拠点へ広げたい方の設計の参考になります。 9/27 Building AI-augmented B-pillar DFMEA on AWS: Architecture, multi-agent orchestration, and implementation 設計 FMEA(DFMEA)は品質工学の中核ですが、手作業では潜在的な故障モードを見落としやすい課題があります。本記事は自動車の B ピラーを題材に、オントロジーで表現した知識グラフとマルチエージェントのオーケストレーションで、故障モードの網羅性とトレーサビリティ(ISO 26262 / IATF 16949)を高める実装例をサンプルコードとともに示します。確信度が低い場合は人に差し戻す設計で、自律化と品質保証を両立します。FMEA の網羅性やトレーサビリティに課題を感じる設計・品質部門の方に向いた内容です。 9/30 【開催報告】組み込みソフトウェア開発でも AI エージェントは活用できる ─ 日立産業制御ソリューションズ様とのワークショップ 日立産業制御ソリューションズ様との共催ワークショップでは、既存の組み込みコード(HVAC 制御システム)を題材に、コードの読み解きから仕様の捉え直し、設計、実装、テストまでを AI コーディングエージェント Kiro で体験しました。指示を GitLab の Issue に書き、エージェントが経過をコメントに書き戻すことで、人が判断した箇所がチケットに残る点が長期保守向きです。2 回のワークショップに開発者 102 名が参加しました。既存コードの保守・仕様化という上流工程で AI を活用した効率化を進めたい方におすすめです。 製造関連の主要なサービスアップデート 9/18 Amazon Bedrock AgentCore の新しい AgentCore Runtime が一般提供開始 エージェント実行基盤のサーバーレス環境が刷新されました。セッション中に使われていないメモリを回収する弾力的なメモリ管理と、イメージサイズによらず一定の高速なコールドスタートが特長です。現場支援や保全のエージェントを本番運用する際のコスト最適化につながります。東京リージョン(ap-northeast-1)でも利用できます。ピックアップトピックで触れたエージェントの本番化を下支えする機能です。 9/18 Amazon SageMaker HyperPod Inference Gateway HyperPod 上での大規模言語モデル推論に向けた、Kubernetes ネイティブなルーティング層です。KV キャッシュの使用率やキューの深さといった実シグナルに基づいてルーティングし、初回トークンまでの遅延を最大 82% 削減します。大規模な産業向け AI 推論基盤を運用する際に関係します。 9/26 Amazon CloudWatch Omni アプリケーションと AI エージェントを単一の画面で観測できる新しいオブザーバビリティ機能です。OpenTelemetry ベースで既存のテレメトリをそのまま取り込み、サービスの自動検出や依存関係のマッピングを提供します。前述のエージェントの可観測性(Observe の柱)を実装する際の選択肢になります。 9/26 Amazon EventBridge の強化されたカスタムイベントバス 組織をまたいだイベント駆動アプリケーション向けに、カスタムイベントバスが強化されました。AWS RAM 経由で複数アカウントが共有できる集中バス、順序保証、コンテンツベースの重複排除などに対応します。工場やサプライチェーンをまたぐイベント連携の基盤として活用できます。 最後まで読んでいただきありがとうございました。 季節の変わり目で寒暖差疲労を起こしやすい時期ですので、風邪などお召しにならないよう体調管理に気をつけてお過ごしください。また来月も 月刊AWS製造ブログ でお会いしましょう! 著者について 小川 貴士 (Takashi Ogawa) 国内システムインテグレーターでインフラエンジニアとして従事した後、HPCソリューションアーキテクトとしてAWSに入社。現在は自動車・製造業にフォーカスするインダストリーソリューションアーキテクトとして、主にR&D部門のお客様のDXをご支援しています。
1. はじめに こんにちは!電通総研の武田嵩史(たかふみ)です。 前回の「 AWS hpc8a ベンチマークレポート 第1回 」では、AMDの最新プロセッサであるTurin(AMD EPYC 9R45)を搭載した hpc8a.96xlarge を中心に、Ansys FluentとCradle MSC scFLOWのベンチマーク結果をご紹介しました。 今回は第2回ということで、前回予告していた以下2つのソルバーの結果をご紹介します! Ansys LS-DYNA Siemens STAR-CCM+ 衝突解析系のLS-DYNA、流体解析系のSTAR-CCM+と、性質の異なる2つのソルバーでhpc8aがどのような結果を示したのか、 実行時間・コスト・コストパフォーマンス の3つの観点から見ていきたいと思います。 本記事は以下の流れとなっております。 目次 はじめに ←終了 ベンチマーク概要 Ansys LS-DYNA ベンチマーク結果 Siemens STAR-CCM+ ベンチマーク結果 おわりに 2. ベンチマーク概要 第1回の記事でもご紹介しましたが、今回のベンチマーク環境について簡単におさらいします。 2.1 ベンチマークに利用したインスタンスタイプ LS-DYNAおよびSTAR-CCM+では、以下のインスタンスタイプを比較対象としました。 Instance type Spec Cost $ (instance/h) Cost $ (core/h) hpc6id.32xlarge (Intel) CPU:Intel Xeon Ice Lake 64 cores Memory:1024GB NIC:200Gbps EFA $5.70 $0.09 r8i.96xlarge (Intel) CPU:Intel Xeon 6 Granite Rapids-AP 192 cores Memory:3072GB NIC:100Gbps EFA $26.67 $0.14 c7a.48xlarge (AMD) CPU:AMD EPYC 9R14 Genoa 192 cores Memory:384GB NIC:50Gbps EFA $9.85 $0.05 hpc7a.96xlarge (AMD) CPU:AMD EPYC 9R14 Genoa 192 cores Memory:768GB NIC:300Gbps EFA $7.20 $0.04 c8a.48xlarge (AMD) CPU:AMD EPYC 9R45 Turin 192 cores Memory:384GB NIC:75Gbps EFA $10.35 $0.06 hpc8a.96xlarge (AMD) CPU:AMD EPYC 9R45 Turin 192 cores Memory:768GB NIC:300Gbps EFA $7.92 $0.04 ※Costはオハイオリージョンでの単価です。 ※Cost $ (core/h), Cost $ (instance/h)は小数点3桁を四捨五入した小数点以下2桁で表記しています。 ※一部の並列数・インスタンスタイプではベンチマーク結果が存在しないものがあります。 ※第1回のベンチマークで実施した”m8a.48xlarge”、”c8g.48xlarge”については、リソースの都合上今回ベンチマーク実施できませんでした。 2.2 ベンチマークモデル 今回の記事(第1回も含め)で扱うベンチマークモデルは以下です。 Solver Version Benchmark Model Ansys Fluent 2025R2 f1_racecar_140m Fluent benchmark model Ansys LS-DYNA 2025R2 Car2Car LS-DYNA benchmark model Siemens STAR-CCM+ 2506.0001 Golf_140M [Original Model] Cradle MSC scFLOW 2025.1 Common Research Model 2.3 ベンチマーク実施環境と評価項目 ベンチマーク実施環境、評価項目につきましては第1回と同じになりますので、第1回の記事をご参照ください。 (参考) AWS "hpc8a" ベンチマークレポート 第1回~AWS hpc8a Benchmark Report by Dentsusoken~ 3. Ansys LS-DYNA ベンチマーク結果 ではAnsys LS-DYNAの結果です。 LS-DYNAでは、 64並列・128並列・256並列・512並列 でベンチマークを実施しました。 3.1 実行時間 ソルバー実行の経過時間比較 全ての並列数において、 hpc8a.96xlargeが最も短い実行時間 となりました。 前世代hpcインスタンスとの比較 前世代の hpc7a.96xlarge と比較すると、hpc8a.96xlargeでは以下の性能向上が確認できました。 並列数 hpc7a 実行時間 [s] hpc8a 実行時間 [s] 性能向上率 64 8,574.743 4,747.619 約45%向上 128 5,498.062 3,300.729 約40%向上 256 3,563.120 2,077.994 約42%向上 512 2,408.745 1,416.822 約41%向上 全並列数で4割前後の性能改善 となっており、今回実施したソルバーの中でも、世代更新による効果が特に大きく見えた結果です。 同世代Turinのコンピューティング最適化インスタンスとの比較 同じTurinを搭載する c8a.48xlarge と比較しても、hpc8a.96xlargeは全並列数で高速でした。 並列数 c8a 実行時間 [s] hpc8a 実行時間 [s] 性能向上率 64 6,655.073 4,747.619 約29%向上 128 4,863.415 3,300.729 約32%向上 256 3,029.923 2,077.994 約31%向上 512 2,115.624 1,416.822 約33%向上 CPU世代が同じにもかかわらず3割前後の差がついており、今回のLS-DYNAベンチマークでは、 CPU性能だけでなく、hpc8aの大きなメモリ容量や300GbpsのEFAネットワーク帯域といったHPC向けの構成も性能に寄与している ことがうかがえる結果となりました。 3.2 コスト コスト比較 実行時間だけでなく、 全ての並列数でhpc8a.96xlargeが最も低いジョブコスト となりました。 前世代hpcインスタンスとのコスト比較 hpc7a.96xlargeとの比較では、以下のコスト削減効果が確認できました。 並列数 hpc7a コスト コスト改善率 64 $17.15 $10.44 | 約39%低下 128 $11.00 $7.26 | 約34%低下 256 $14.25 $9.14 | 約36%低下 512 $14.45 $9.35 | 約35%低下 前世代のhpc7aから、 4割弱のコスト改善 が見られました。 コンピューティング最適化インスタンスとのコスト比較 c8a.48xlargeとの比較では、さらに差が大きくなります。 並列数 c8a コスト コスト改善率 64 $19.13 $10.44 | 約45%低下 128 $13.98 $7.26 | 約48%低下 256 $17.42 $9.14 | 約48%低下 512 $18.25 $9.35 | 約49%低下 今回のLS-DYNAモデルでは、同じTurin世代でも HPC最適化されたhpc8aを選択することで、c8a比でほぼ半分近くまでジョブコストを抑えられる 結果となりました。 3.3 コストパフォーマンス コストパフォーマンス比較 c7a.48xlargeを「1.0」としたコストパフォーマンス比較でも、 hpc8a.96xlargeが全並列数で最も良い結果 となりました。 また、同じHPCインスタンスであるhpc7aと比較しても、Turin世代のhpc8aは一段低いスコアとなっており、 計算速度だけでなく、ジョブ単位の経済性という面でも世代更新のメリットが大きい ことが確認できました。 以上がLS-DYNAのベンチマーク結果です。 今回のLS-DYNAでは、実行時間・コスト・コストパフォーマンスの全てでhpc8aが優れており、特に前世代hpc7aからの性能向上が4割前後、c8aとのコスト差が5割近くまで広がった点が印象的でした。 4. Siemens STAR-CCM+ ベンチマーク結果 続いてSiemens STAR-CCM+のベンチマーク結果です。 STAR-CCM+では、 128並列・256並列・512並列・1024並列・2048並列 でベンチマークを実施しました。リソースの都合上、一部並列数についてはベンチマークが実施できていないことご了承ください。 4.1 実行時間 ソルバー実行の経過時間比較 STAR-CCM+では、 Turinを搭載したc8a・hpc8aが全体として良好な性能 を示しました。 一方で、256並列まではIntel Xeon 6 Granite Rapids-APを搭載する r8i.96xlarge も良い性能を示しており、LS-DYNAとは少し違った傾向が見られます。 前世代hpcインスタンスとの比較 hpc7a.96xlargeとhpc8a.96xlargeを比較すると、全ての並列数でhpc8aが高速となりました。 並列数 hpc7a 実行時間 [s] hpc8a 実行時間 [s] 性能向上率 128 4,031 2,917 約28%向上 256 2,078 1,732 約17%向上 512 1,079 790 約27%向上 1024 614 467 約24%向上 2048 412 308 約25%向上 256並列では約17%にとどまるものの、全体としては 2割前後から3割弱の性能改善 が確認できました。 コンピューティング最適化インスタンスとの比較 同じTurinを搭載するc8a.48xlargeとの比較では、以下の結果となっています。 並列数 c8a 実行時間 [s] hpc8a 実行時間 [s] 比較 128 3,268 2,917 hpc8aが約11%高速 256 1,702 1,732 hpc8aが約2%低速 512 889 790 hpc8aが約11%高速 ※1024並列・2048並列ではc8aの結果がないため比較対象外です。 LS-DYNAではc8aに対して3割前後の性能差が出ていましたが、STAR-CCM+ではその差は比較的小さく、 ソルバーによってインスタンス特性の効き方が異なる ことが分かります。 4.2 コスト コスト比較 STAR-CCM+でも、 全ての並列数でhpc8a.96xlargeが最も低いジョブコスト となりました。 性能差が比較的小さかった256並列でも、hpc8aはインスタンス単価が抑えられているため、コスト面では優位な結果となっています。 前世代hpcインスタンスとのコスト比較 hpc7a.96xlargeとの比較では、以下のコスト改善となりました。 並列数 hpc7a コスト コスト改善率 128 $8.06 $6.42 | 約20%低下 256 $8.31 $7.62 | 約8%低下 512 $8.63 $6.95 | 約19%低下 1024 $9.82 $8.22 | 約16%低下 2048 $13.18 $10.84 | 約18%低下 全体として、 2割程度のコスト改善 が確認できました。 コンピューティング最適化インスタンスとのコスト比較 c8a.48xlargeとの比較では、128~512並列で以下の結果となりました。 並列数 c8a コスト コスト改善率 128 $9.40 $6.42 | 約30%低下 256 $9.79 $7.62 | 約22%低下 512 $10.22 $6.95 | 約32%低下 実行時間ではc8aとの差が小さいケースもありましたが、コストまで含めると hpc8aは3割前後の改善 となりました。 4.3 コストパフォーマンス コストパフォーマンス比較 c7a.48xlargeを「1.0」として比較すると、STAR-CCM+でも hpc8a.96xlargeが全並列数で最も良いコストパフォーマンス となりました。 また、並列数を増やすにつれて一部のインスタンスタイプではコストパフォーマンスが悪化する一方、hpc8aは大規模並列でも良好な値を維持していました。 以上がSTAR-CCM+のベンチマーク結果です。 LS-DYNAほどhpc8aとc8aの実行時間差は大きくありませんでしたが、 前世代hpc7aに対する性能向上と、hpc8aのインスタンス価格のバランスにより、コスト・コストパフォーマンスではhpc8aが安定して良い結果 となりました。 5. おわりに 全2回にわたり、AWSのhpc8aインスタンスについて、Ansys Fluent、Ansys LS-DYNA、Siemens STAR-CCM+、Cradle MSC scFLOWの4つのCAEソルバーを用いたベンチマーク結果をご紹介しました。いかがでしたか。 今回のLS-DYNAとSTAR-CCM+でも、第1回のFluent・scFLOWと同様に、 hpc8aは実行時間だけでなく、コスト・コストパフォーマンスの観点でも良い結果 を示しました。 特に印象的だったのは、ソルバーによって差の出方が異なることです。 LS-DYNA では、前世代hpc7aに対して4割前後の性能向上が見られ、同世代Turinのc8aに対しても3割前後高速という大きな差が出ました。 STAR-CCM+ では、c8aとの実行時間差は比較的小さい一方で、前世代hpc7aからは2割前後の性能改善が見られ、コストを含めるとhpc8aの優位性が明確になりました。 hpc8aは東京リージョンでも利用できるHPC向けインスタンス ですので、日本国内で大規模なCAEワークロードを実行されている方にとって、ぜひ選択肢の一つとしてご検討いただければと思います! CAE/HPCでは「とにかく一番速いインスタンスを選べばよい」というわけではなく、ソルバーの特性、並列数、ジョブ単価まで含めた評価が重要です。 今回の結果では単純な速度比較だけでなく、 コストパフォーマンスという指標 も含めてインスタンスを比較しました。 電通総研では、多角的にお客様のワークロードに適したクラウドHPCの構成を検討いたします。 クラウドHPCにご興味をお持ちの方は是非お気軽にお問い合わせください。 末筆になりましたが、本ベンチマーク実施にあたり、ライセンス・ベンチマークモデルのご提供をはじめ、ご協力いただきました各社様、ご関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。 私たちは一緒に働いてくれる仲間を募集しています! 電通総研 キャリア採用サイト 電通総研 新卒採用サイト 執筆: @takeda.takafumi レビュー: @yahagi.ginpei1128 ( Shodo で執筆されました )
みなさん、こんにちは。ソリューションアーキテクトの松永です。8 月に入り各地で猛暑が続いていますね。工場の現場では熱中症対策に神経を使う時期かと思います。少し先の話になりますが、年末の AWS re:Invent 2026 は 11 月 30 日から 12 月 4 日の開催で、早期割引の申し込み期限は 8 月 25 日です。夏のうちに社内調整を始めておくとちょうど良いタイミングかもしれません!今月は Amazon 自身のロボティクスの最前線をピックアップトピックとしてお届けしつつ、7 月に公開された製造業向けのブログとサービスアップデートをご紹介します。なお、リンク先には英語の記事も含まれていますが、日本語の解説を添えていますのでぜひご覧ください。 ピックアップトピック – Amazon のロボティクスに学ぶ、現場で動く AI 製造業のお客様と自動化についてお話ししていると、「どこまでロボットに任せられるのか」「導入した後に現場が使い続けられるのか」という 2 つの問いに行き着きます。実はこの 2 つは、Amazon 自身がフルフィルメントセンターという巨大な現場で向き合ってきた問いでもあります。今月は Amazon のロボティクスの取り組みを題材に、この問いへのヒントを 2 つの視点から探ってみます。 ロボットは「見る」から「感じる」「言葉で指示される」へ Amazon は 2012 年の Kiva Systems 買収以降、 100 万台を超えるロボット を配備してきました。注目したいのは台数ではなく、指示の与え方が進化してきた点です。搬送ロボットの Proteus は、床の符号マーカーに頼らずセンサーで周囲を認識して自律航行するため、人の立ち入りを制限したエリアを設けずに、人と同じ空間で 400 kg 近いカートを運べます。 2025 年に発表された Vulcan は、Amazon 初の触覚を持つロボットです。力覚フィードバックセンサーで押し付ける力を把握し、商品を壊さない範囲で棚の中をかき分けます。平均 10 点が詰まった棚から、対象品目の約 75% を従業員と同等の速度で扱えるとのことです。この能力は、シミュレーションではなく 実世界の接触データ で学習させて獲得されました。 そして 次世代の Proteus では、 自然言語で指示できる ようになりました。技術コマンドやプログラミングは不要で、優先順位や経路はロボット側が判断します(欧州展開は 2027 年上期予定)。土台にあるのはデータ基盤で、フリート全体を賢くする生成 AI 基盤モデル DeepFleet とオペレーター向けの agentic AI モデル Project Eluna も統合されています。 多品種少量で段取り替えが多い現場では、再プログラミングのコストが自動化の投資回収を難しくしてきました。ティーチングやラダーロジックではなく自然言語が操作インターフェースになる流れは、この構造そのものを変える可能性があります。 自動化の設計に、役割分担と人材投資まで含める もう 1 つの視点は、自動化を人の仕事の変化と一体で設計している点です。Vulcan が担うのは保管品目の約 75% で、残りは人に引き継ぎます。対象も脚立が必要だった約 8 フィートの上段と床付近で、人はエルゴノミクス上望ましい power zone の作業に集中できます。100% 自動化を目指さず、機械に任せる範囲を先に決める割り切りが導入の現実性を担保しています。協働型の搬送システム STARK は現場従業員の改善アイデアから生まれ、2027 年までに欧州 15 拠点への拡大が予定されています。 さらに 欧州での一連の発表 では、拠点の近代化に €10 billion 超という設備投資と、25,000 名の増員、Career Choice への 2030 年までの $1 billion のコミットがセットで語られています。対象分野にはメカトロニクスが明示されており、ロボット導入が保全・信頼性エンジニアという職種を必要とする実態と整合します。設備投資額と人材投資額を同時に示すアプローチは、労働力不足と技能継承を抱える日本の製造業が自動化を社内に説明する際のフレームとして参考になるのではないでしょうか。 直近で開催予定のイベント 9/4 – 9/8 IFA 2026 ヨーロッパ最大のコンシューマーエレクトロニクスの展示会が、ベルリンの Messe Berlin で開催されます。Amazon も Hub 27 にブースを出展予定です。 9/14 – 9/19 IMTS 2026 — International Manufacturing Technology Show 北米最大の工作機械の展示会が、シカゴの McCormick Place で開催されます。AWS もブースを出展予定です。会期中には、量子コンピューティングと製造業をテーマにした AWS 主催イベント「 Beyond AI: Quantum Meets Manufacturing — An IMTS Evening Reception 」も開催されます。 10/13 – 10/16 CEATEC 2026 10 月 13 日(火)から 16 日(金)まで幕張メッセで開催されます。主催は電子情報技術産業協会(JEITA)で、今年のテーマは「Transformation – 企業が、産業が、そして社会が変わる -」です。 AWS も Hall 4 で、安川電機様とご一緒に展示を予定しています。 ぜひブースにお立ち寄りください。 11/30 – 12/4 AWS re:Invent 2026 AWS 最大の学習イベントが米国ネバダ州ラスベガスで開催されます。2,200 を超えるセッションが予定され、そのうち約 70% がインタラクティブな形式です。早期割引価格 $1,299(通常 $2,499)の申し込みは 8 月 25 日 23:59 PDT までですので、お早めにご確認ください! 製造関連ブログのご紹介 7/1 Reduce P&ID analysis time by 80% with hybrid AI maintenance planning PDF の P&ID(配管計装図)から機器とタグを検出し、Amazon Neptune のグラフで依存関係を表現して保全影響を推論する構成です。パイロットでは計画時間を最大 80% 削減できたとのことで、図面資産の活用を検討されている方の参考になります。 7/6 東海旅客鉄道株式会社:超電導リニアの電気設備保守を支える IoT プラットフォームの構築 ※本記事は「事例のご紹介」でご紹介します。 7/15 【開催報告】AWS Summit Japan 2026 — AI エージェントで危機対応:小売×消費財の混乱を AI と人が即座に解決 サプライチェーンの外乱に対し、AI エージェントが影響分析と代替案提示を行い、人の承認を経て実行まで回すデモの実装解説です。分析専用と実行専用でサブエージェントを分ける設計は、現場でエージェントに実行を任せる際の指針になります。 7/16 AI で変える鉄道保全と、「クローズド」を読み解くクラウド設計 — AWS Summit Japan 2026 展示ブース開催報告 異常検知から調査、対応計画の提示、作業指示書の出力までを 4 ステップで実装した保全プラットフォームの報告です。「クローズドは必ずしも安全ではない」という後半の論点は、製造業の OT セキュリティ設計にそのまま読み替えられます。 7/17 ナレッジグラフと IoT データによる生産ラインのボトルネック分析 〜AI エージェントのための製造データの構造化〜 設備やサプライヤーの関係を Amazon Neptune のグラフに、サイクルタイムなどの変動値を AWS IoT SiteWise に分離する設計の解説です。ISA-95 との対応表もあり、データモデル設計の出発点として参考になります。 7/22 AWS Japan Summit 2026 スマートマシンデモ ー自律診断とリアルタイム安全監視ー 展示報告 建設機械のフリート遠隔監視を題材に、予知保全の 3 つのアプローチを比較しています。異常スコアで終わらず原因推定と対処指示まで生成するエージェントの挙動と、人と AI の役割分担の考え方をご覧いただけます。 7/24 ISA/IEC 62443 を踏まえた AWS での OT とクラウドの接続設計 産業用制御システムのセキュリティ規格を踏まえ、OT ネットワークとクラウドの接続方法を解説しています。工場データの収集を始める方にも、既存構成を監査対応の観点で見直したい方にも実務的な内容です。 事例のご紹介 7/6 東海旅客鉄道株式会社:超電導リニアの電気設備保守を支える IoT プラットフォームの構築 東海旅客鉄道株式会社(JR 東海)との共著記事です。山梨リニア実験線の電気設備で状態監視保全を実現するため、AWS 上に IoT プラットフォームを段階的に構築した事例です。AWS IoT Greengrass のコンポーネントがメーター値の読み取りや動作音の特徴量抽出、異常推論をエッジで実行し、クラウドには集計値と推論結果のみを送信します。学習からモデル配信までを Amazon SageMaker Pipelines と AWS Step Functions で自動化し、MLOps を IoT 運用に統合している点が秀逸です。設置環境が多様な拠点を抱える工場やプラントの保全高度化に参考になります。 製造関連の主要なサービスアップデート 7/20 KNFSD File Cache(プレビュー) AWS 上に高速な NFS キャッシュを構築するオープンソースソリューションです。オンプレミスの NFS エクスポートをマウントして AWS 内に再エクスポートし、頻繁に読むデータをメモリとローカル NVMe にキャッシュします。解析モデルがオンプレミスに残ったままでも CAE をクラウドにバーストできます。 7/23 Amazon Bedrock AgentCore のトレースとログが単一のロググループに統合 従来は分散していたトレースとイベントログが、エージェント単位の単一ロググループに統合されました。エージェントごとに IAM ポリシーとカスタマー管理キーによる暗号化を適用できます。プロンプトに図面や品質データが含まれるケースで鍵と権限を絞れるようになりました。 7/23 AWS Parallel Computing Service がノードライフサイクルアクションに対応 CAE や CFD の実行基盤として使われる Slurm ベースのマネージドサービスで、計算ノードのライフサイクルの任意の時点でカスタムスクリプトを自動実行できるようになりました。共有ストレージのマウントやライセンスサーバーへの接続を、独自 AMI に作り込まずに宣言的に構成できます。 7/24 Claude Opus 5 が Amazon Bedrock で利用可能に 長時間のエージェント処理を想定したモデルで、Bedrock 上ではゼロデータリテンションが既定で有効です。図面や仕様書の解析に適しており、設計情報を扱う際の社内審査を通しやすくする要素になります。同じ 7 月には OpenAI GPT-5.6 系モデルの値下げ も発表されました。 7/27 Amazon Neptune がタグベースアクセス制御(TBAC)に対応 リソースタグと IAM プリンシパルタグを条件に使い、グラフデータベースのデータプレーン操作を制御できるようになりました。クラスターの ARN を列挙せずにアクセス境界を運用できるため、BOM グラフを事業部別・拠点別に分離して運用する際のガバナンス手段になります。 7/27 AWS Glue Data Quality が異常検知とカタログへの結果書き込みに対応 しきい値のルールを書かずに、機械学習による時系列予測で「一意な値の急減」や「行数のスパイク」を検出できるようになりました。結果は Data Catalog に書き戻して SQL で照会できます。あわせて 分布統計への対応 も発表され、品質監査の証跡づくりに活用できます。 7/31 Context Ontology Accelerator が一般提供開始 今月の一番の注目です。企業の業務を機械可読なオントロジーとしてモデル化するオープンソースで、AI が起案し現場の専門家が承認したうえで、W3C 標準のナレッジグラフとして自社で保有します。付属の MCP サーバー経由で任意のエージェントから参照でき、Amazon Neptune と Amazon OpenSearch Serverless で構成されます。設備・工程・品質規格の定義が PLM や MES に散在する状況は多くの現場で共通の課題です。回答根拠がグラフとして追跡できるため、PoC で止まりがちだった工場の AI エージェントを監査可能な形で本番に載せる道筋になります。 最後まで読んでいただきありがとうございました。今月はロボットが「感じる」「言葉を理解する」ようになる話と、企業の業務知識を機械可読なグラフとして持つ話をお届けしました。現実世界で動く AI にはそれを支える文脈のデータが必要という点で、この 2 つは同じ方向を向いているように思います。来月も 月刊 AWS 製造ブログ をよろしくお願いします。それでは、また来月お会いしましょう! 著者について 松永 充弘 (Mitsuhiro Matsunaga) シニア ソリューションアーキテクト 製造業のお客様を担当するソリューションアーキテクトです。クラウド × データ × AI でお客様のビジネスを支援しています。前職では製造業にて、機器の IoT 化、AI 活用を担当していました。












