12月上旬にロンドンで開催されたBlack Hat Europe 2019に技術開発部セキュリティユニットの伊藤・山本が参加してきましたので報告します。 尚、Black Hatについては以前の記事、「 Black Hat USA 2019 / DEF CON 27に参加してきました 」にも詳細を掲載しておりますので併せてご覧ください。 Black Hat Europe とは Black Hatは世界最大級の商業系セキュリティカンファレンスで、毎年USA、Europe、Asiaの三地域で開催されます。Black Hat Europeの今年の会場は、Excel Londonという幕張メッセのような大規模展示場でした。規模はBlack Hat USAよりも劣るものの依然として強い集客力があり、今年は100ヵ国以上の国からの参加がありました。 カンファレンスの構成もUSAとおおよそ同じでトレーニング(講義)、ブリーフィング(講演)、アーセナル(開発ツールの実演)、ビジネスホール(企業による見本市)で構成されます。2日から4日間のトレーニングがまず最初に行われ、その後の2日間でブリーフィング、アーセナル、ビジネスホールが並行して行われます。今回私達はトレーニングには参加せず、後半のブリーフィング、ビジネスホール、アーセナルから参加しました。 Black Hat Europe 2019でみたセキュリティ動向 Black Hatでは、Web、暗号、IoT、マルウェア、ネットワークなど満遍なく様々なテーマの発表があります。去年少なかったExploitやReverse Engineering、Web App Secなどのテーマは今年は例年と同じ5件程度の講演数があり、やはり根強く関心のあるテーマであることが伺えます。コミュニティ活動の発表も昨年から1つのジャンルとして確立されたようです。また日本人の発表もブリーフィングで2件、アーセナルで1件ありました。 講演のジャンルだけでは今年の傾向がはっきりしませんが、ここ数年でよく耳にするようになったRed TeamやIoTなどは講演を聞いていてもホットワードな印象を受けました。またFunction as a service、Slackなどを開発に取り入れた場合のセキュリティをテーマにした、目新しい講演もありました。一方でMachine Learning関連の講演はほとんどなかったことも個人的には印象に残りました。これらについては後半でもう少しお話します。 企業ブースではCrowdStrikeやRecorded Futureなど、全体的にベンチャー色が強い企業が揃っていました。一方で大企業ではFacebookやLenovoが出展していたものの、FireEyeやCiscoといった「老舗」の出展はなく、USAとは異なる印象を受けました。 以下では印象的であったテーマ別にBlack Hat Europe2019を振り返ってみます。 Red Team/Blue Team Black Hat Europe 2019は、基調講演 "Blue to Red: Traversing the Spectrum"(筆者訳:「BlueからRed - スペクトルの横断」)で始まりました。スピーカーのAmanda Rousseauは業界では有名なセキュリティエンジニアで、これまでフォレンジックやマルウェア研究を専門として政府や民間企業で働き(Blue - 防御側)、現在はFacebookのRed Team(攻撃側)で活躍している方です。講演のなかで彼女は、セキュリティ業界で起こっている技術の過度な専門化(overspecialization)をテーマに、BlueからRedへとキャリアを歩んできた彼女なりの教訓や知見を話してくれました。 数年前、セキュリティ業界ではSandboxといった防御側の技術に注目が集まっておりましたが、今は攻撃側であるRed Teamがもてはやされており、セキュリティ技術の移り変わりの速さに驚きます。すると次は何がくるのか気になるところではありますが、彼女はこの過熱する技術動向を憂えて OVER specialization(注:強調は筆者)という表現をしたのではないかと思われます。彼女は講演中、繰り返し「ツールを信じるな(信じすぎるな)」「基礎を大切に」と話していました。こうした教訓は彼女の講演に限らずよく言われていることかもしれません。ですが、業界の最先端にいるエンジニアの言葉として捉えると、深みは増すように思います。基調講演の動画は こちら でご覧になれます。 AI/ML(Machine Learning) AI/MLは日頃よく耳にすると思われますが、2日間に渡って様々な講演を聞いたなかでは意外なことに殆ど登場しませんでした。見聞きした範囲でAI/MLに関連していたセッションも、IoTデバイスの脆弱性を見つける手法として暗に用いられていたものくらいです。全てのセッションのタイトルを確認しても、AI/MLをキーワードとしているものはなく、ブリーフィングセッション全体であまり取り扱われなかったようです。 しかしながら閉会のパネルディスカッション(Locknote)では、AI/MLの投稿は多数あったと登壇者が話していました。実際、AI/MLのセキュリティ分野への応用はこれまでも多くの研究者やエンジニアが取り組んでおり、例えばマルウェアの分類やログを用いた未知の攻撃の検知(異常検知)といった研究があります。にも関わらず今回のBlack HatでAI/MLに関連するセッションが殆どなかったことから、これらをキーワードとする投稿はあまり採択されなかったようです。採択されなかった理由は特に言及されていませんでしたが、Black Hatは情報セキュリティのカンファレンスであるため、AI/MLをキーワードとする内容はBlack Hatでは適切とはみなされず、採択されにくいのかもしれません。 Endpoint Microsoft Office、Adobe Reader、Google ChromeといったEndpoint(クライアント端末)で利用されるアプリケーションは、非常に幅広いユーザに利用されていることもあり、攻撃者に常に狙われ悪用されてきました。アプリケーション側も対策を施しますが、その対策は根本的ではなく暫定的であることが殆どです。このようなサイバー攻撃とセキュリティ対策の関係は、いたちごっこにしばしば例えられます。 今回セッションを聞いていて感じたことは、先のアプリケーションのセキュリティ対策がより根本的なものへと発展しつつあるということです。いくつかの講演では、いたちごっこのようにも見える攻撃手法の変遷を辿ることで、攻撃手法をいくらか体系化し、それら攻撃手法への対策法を提案または実装していました。Microsoft Officeのマクロを使った攻撃とその防御の発表では、その変遷概要を示した後に(下記スライド参照)、攻撃検知手法を簡潔に定式化し実装していました。(スライドは「 Advanced VBA Macros Attack & Defense 」より引用) IoT/Platform IoTとそのPlatformは、Endpointのセキュリティ対策と比較すると、攻撃側も防御側もまだあまり研究されていないようです。例えばAlexa(Amazonが開発したスマートスピーカー)を利用したPlatformへの攻撃といった、これまであまり事例がなかった新しい攻撃手法を報告するセッションは幾つかありました。他方、家電への脅威を観測および分析するシステムを開発しながらも対策は次のステップであることを講演者は明かしていたり、そのセッションの質疑でコストを気にかける質問があったりと、各社IoTへの対策とコストに課題を抱えている様子が伺えました。 まとめ 今回の記事ではBlack Hat Europeについて紹介しました。さまざまなテーマでの講演があるBlack Hatは自分の専門分野をさらに深掘りするだけでなく、知らないテーマについても知るきっかけになります。Black Hatは年に3回開催されていますので、機会があったらぜひ参加してみてください。
技術開発部 セキュリティユニットの後藤です。 Black Hat USA 2019 / DEFCON 27関連の記事として、第一弾「 Black Hat USA 2019 / DEF CON 27に参加してきました 」、第二弾「 Black Hat USA 2019 / DEF CON 27に参加してきました -Black Hat編- 」に続き、今回は、DEF CON 27についてご紹介します。 DEF CONの概要は第一弾の記事をご参照ください。本記事では主に、DEF CONで体験してきたことを中心にご紹介したいと思います。 DEF CONでは、様々なイベントが並列して開催されていますので、過ごし方はその人次第です。例えば次のようなイベントがあります。 DEF CON CTF Final: 有名なCTFの決勝戦が開催されています。 多数のVillage: 各分野のスペシャリストらが開いているブースで、トーク、ワークショップ等が行われています。 コンテスト、CTF、チャレンジ: オンラインや各Village等、いたるところで開催されています。廊下の壁に貼られているポスターにも問題が貼ってあることもありました。 Presentation: Black Hatと同様に講演もあります。Black Hat発表者が同じくDEF CONでも発表することもあります。Black Hatで聞くことができなかった発表は要チェックです。 ベンダブース: ディープなハードウェア、書籍等が販売されています。 Demo Labs: 私はチェックできませんでしたが、デモ等も行われていたようです。 私たちは主にVillageを回ったり、コンテストやCTFに参加して過ごしていました。 DEF CON バッジについて 今回のDEF CONバッジは、円形の白い石に基板が取り付けられたものになっています。 6つのLEDが搭載されており、他の参加者とバッジ同士をタッチすることで懐かしい8bitサウンドとともにLEDが光ります。バッジにはいろいろなタイプが存在し、いろいろな人とタッチすることでゲームが進行していくようです。 こちらのデバイスは第一弾の記事でも紹介したとおり毎年ハックでき、今ではWriteup等も公開されています。気になる方はぜひチェックしてみてください。 Village 初日に一通りVillageを回りましたが、4つのホテルに渡って多種多様なVillageがあり、混雑と会場の広さのために一通り回るだけでもかなり時間がかかります。私が特に興味を持っていたRed Team Offense Villageの行列がとりわけ長かったことが印象に残っています。 Village一覧は以下ウェブサイトを参照ください。 List of Villages At DEF CON 27 Red Team Offense Villageの問題にチャレンジ 私が主に時間を費やしたのはRed Team Offense Villageのチャレンジです。こちらのVillageでは3〜4つほどのチャレンジが開催されていました。 その中で私は「HACKING WEB APPS」のAdvancedの問題に挑戦しました。問題は指定されたウェブサイトに攻撃を仕掛け、内容を書き換えるというものです。取り組んだ理由として大きかったのが、その時点でまだ誰も解くことができていなかったという点です。 序盤は1番に解いた人に100ドルの賞金が出るとのことでしたが、正解者が現れなかったためか、後半になると賞金が200ドルにアップしていました。 The bounty is now $200 to the first that hacks and defaces the site at the @defcon @VillageRedTeam hacking web apps station #DEFCON #defcon27 pic.twitter.com/7S79krHC6j — Omar Ωr Santos (@santosomar) 2019年8月10日 私が知る限りでは、最後まで解けた人は現れなかったのではないかと思います。 ここでは私が問題に挑んだときの経過を追いながら、問題の雰囲気をお伝えすることができればと思います。 与えられた情報は標的のHTTPサーバのURLです。 Nmapでサーバをスキャンすると、HTTPに加えSSHのポートも開いていることがわかりましたが、NginxもOpenSSHも最新の状態でした。 まずは、与えられたURLのページにはインジェクションができそうなフォーム要素(文字入力可能なテキストボックス)等を探してみました。もし脆弱なフォームがあれば、そこからSQLコマンドやOSコマンドを注入し、非公開情報の読み書きや任意の操作ができます。これを利用してWebコンテンツの書き換えができたり、非公開コンテンツにアクセスできたり、ログイン情報を知らなくともログインできる可能性があります。しかし、ページ上にはフォーム要素は見つかりませんでした。 次に、HTTPサーバで公開されるべきではないファイルが公開されていないかといった設定の誤りに着目しました。そういったファイルは公開することを意図しておらず、秘密情報や攻撃者にとってさらなる攻撃の手掛かりとなる情報が記載されていることがあります 1 。 そこで、 dirb というツールを用いてリンクされていない公開ファイルを辞書ベースで探してみました。その結果、いくつかの静的ファイルが見つかったのですが、中でも気になったのは.gitディレクトリ 2 が見つかったことです。このディレクトリを丸ごと手に入れてしまえば、それを利用して最新・過去コミットのファイルを全て復元することができます。 ここで問題となったのは、標的のHTTPサーバではディレクトリリスティング 3 が無効になっており、.gitディレクトリの中身を把握することができない点でした。.gitディレクトリを構成するファイルのほとんどは名前が決まっており推測が容易です。しかし.git/objectsの中身は、コミット、バージョン管理対象ディレクトリ、バージョン管理対象ファイルを示すオブジェクトのそれぞれの {SHA-1ハッシュ値上2桁のディレクトリ名}/{SHA-1ハッシュ値下38桁のファイル名} という規則でファイルが格納されていますので、容易に推測できません。 そのため、私は以下の手法を用いて特定することにしました。 Don’t publicly expose .git or how we downloaded your website’s sourcecode - An analysis of Alexa’s 1M - Internetwache - A secure internet is our concern こちらの手法は、以下のようにして.git/objectsの中身のファイルを特定します。 .git/refs/heads/{ブランチ名} ファイルから、ブランチの先頭コミットを示すハッシュ値を取得 git cat-file -p {コミットを示すハッシュ値} コマンドでその1つ前のコミットを示すハッシュ値とリポジトリのルートディレクトリを示すハッシュ値を取得 git cat-file -p {ディレクトリを示すハッシュ値} コマンドでそのディレクトリ配下のディレクトリ、ファイルを示すハッシュ値を取得 2.を繰り返すことでコミットをたどり、3.を繰り返すことで各コミットのディレクトリ、ファイルをたどることができます。 こうして得られたSHA-1ハッシュ値群がそのまま.git/objectsディレクトリの中身となります。 上記の手法で.gitディレクトリ以下の中身を特定し、ローカルにダウンロードしてから、gitコマンドで最新のコミット・過去のコミットのファイルを復元することができましたが、突破口が見つからず、そこで時間切れとなってしまいました 4 。 残念ながら最後までたどり着くことはできませんでしたし、解答が公開されていないため、上記のアプローチが合っているかはわかりません。 しかし、Black Hatトレーニングで学んだ様々なツールを使用して試行錯誤することはよい実践になりました。またWebサーバのディレクトリリスティングが無効化されていても、.gitディレクトリからファイルを復元できてしまうことも実際に手を動かして体験できました。 ちなみにRed Team Offense Villageは今年初の開催だったようです(DEF CON 26ではVillage一覧になかったため)。 SNS上では、「来年はもっと大きなスペースを」という声も上がっていました。 その他のVillage その他、私たちが回ったVillageを簡単にご紹介します。 Crypto Village: 暗号系のVillageです。こちらではポピュラーなシーザー暗号から変わり種のDancing Manと呼ばれる換字式暗号までさまざまな問題が用意されていました。同行したメンバーは「Crypto & Privacy Village Puzzle」に挑戦していましたが、かなり難易度の高い問題だったとのことでした。 Lock Pick Village: 鍵を使わず錠を開ける方法を学べるVillageです。錠の構造がわかるプレゼンテーションが行われていたり、設置されたテーブルで解錠を試したりできるようになっていました。手元で中身の構造を理解できる透明な錠もありました。ピッキングツールの販売もありましたが、日本では一般の方の所持は違法となるため注意が必要です。 Lock Bypass Village: ピッキングによる解錠とは異なり、錠の仕組みを理解してロックを迂回するようなことを学ぶことができたそうです。 Packet Hacking Village: 実際にネットワークに繋いでパケットをキャプチャし、そこからバイナリを解析する等のチャレンジに同行したメンバーが取り組んでいました。非公式のSSIDに接続して平文でCredentialをやり取りするとその情報を表示されてしまう「Wall of Sheep」のスクリーンもこのVillage内に設置されています。 Internet of Things Village: ユニークだったのがATMをハックするチャレンジです。ハックできた人は実際にそのATMから現金を出金できるというおまけつきでした。 DEF CON CTF Final ホテルのロビーの一部を使って決勝が開催されており、DEF CONの参加者は誰でも様子を見ることができるようになっていました。 CTFでは競技中に大抵BGMが流れるものなのですが、今回も同様に流れており、会場はCTFらしい雰囲気に包まれていました。 ベンダブース Black Hatのビジネスホールとはまた違った、もう少し”緩い”ブースがDEF CONのベンダブースです。 アンテナ、ピッキングツール、ハッキングツール、ひと目見ただけではなにができるのかわからない基板のようなものまで、ディープな商品が並んでいるテーブルを眺めているだけでも非常に面白かったです。技術書の出版社による販売もあり、興味深い技術書が多く、私含めメンバー全員が何らかの本を購入していました。 DEF CON開催期間の前半は特に混雑しており、エリアを一周するだけでも一苦労でしたが、後半になるにつれて徐々に混雑も緩和されたので、人気商品を買う目的がないのであれば落ち着く頃を狙っていくとよいかもしれません。 参加を終えて Black Hatとは雰囲気が全く異なり、まさに「お祭り」で、様々な分野のセキュリティを楽しめるようなイベントであったと感じました。Black Hatはどちらかといえば最新動向の収集、新しいソリューションの目利き等が中心で、DEF CONはみんなが参加してワイワイと手を動かすことが中心です。 Villageでは素晴らしい技術者たち(運営側や他の参加者たち)と非常に近い距離で交流ができますので、ぜひ交流してみてください。より一層DEF CONを楽しめると思います。 例えば、ポピュラーなCMSであるWordPressでは、wp-config.phpにデータベースの認証情報等が記載されています。ついやってしまいがちな設定誤りの例として、バックアップ目的でwp-config.php.bak等にリネームして保存してしまうと、PHPファイルとみなされず、テキストファイルとして中身が公開されてしまうことが挙げられます。 ↩ このディレクトリはバージョン管理システムであるGitを利用すると生成されるものです。この中にはGitで管理されているファイルの情報が格納されています。 ↩ URLでディレクトリ名を指定した場合に、配下のファイルリストを表示する機能を指します。ディレクトリ構成が見えてしまうため、理由がない限りこの機能は無効にすべきです。 ↩ 本記事を作成しながら、もしかすると別ブランチに重要なファイルがあったのでは、と思い始めました。 ↩
技術開発部 セキュリティユニットの小林です。 8月上旬にアメリカ・ラスベガスで開催された Black Hat USA 2019 および DEF CON 27 へ参加してきました。その模様をレポートしつつ、初めての方向けのアドバイスも添えてお送りします。 Black Hatとは Black Hatは1997年より開催されているコンピューターセキュリティに関する世界有数のカンファレンスで、レギュラーイベントとしては毎年アメリカ (USA) 、ヨーロッパ (Europe) 、アジア (Asia) の3地域で行われています。今回参加したUSAはBlack Hatの中でも最も長い歴史を持ち、また参加者の数も最大です。USAの会場は例年ラスベガスのマンダレイ・ベイホテルのコンベンションセンターで、今回は世界112カ国から2万人を超える参加者が訪れました 1 。 ちなみに本来このイベント全体を指してBlack Hat Briefingsといいますが、よくBlack Hatと略されてますので本稿でもそれに倣います。 イベントは大まかにトレーニング、ブリーフィング、ビジネスホールの3つに分かれています。8月3日から8日までの6日間の会期のうち、最初の4日間でトレーニング、残りの2日間でブリーフィング・ビジネスホールが催されます。 トレーニングはセキュリティベンダーの社員などが提供する講義で、今回は延べ120コース以上開催されました。2日間コースと4日間コースがあり、スタイルも座学とハンズオン、グループワークなど様々です。私はOSINTに関するハンズオンベースのトレーニングを受講してきました。今年からは受講者に対して受講証 (Digital Certificates) が発行されるようになりました。 ブリーフィングはBlack Hatのメインイベントとも言え、セキュリティベンダーやソフトウェアベンダーの社員、研究者らがそれぞれの成果を発表する場です。21のジャンルから、新たに発見した脆弱性や攻撃手法、防御のためのベストプラクティスなど、120を超える発表がありました。日本のニュースサイトでも話題になった、WPA3の脆弱性 "Dragonblood" もここで発表されました。 ビジネスホールは端的に言えば見本市で、ベンダーが製品紹介や小さなプレゼンテーションをしたり、ワークショップやミニCTFが行われていたり、あるいは採用活動を行っていたりと、盛りだくさんの内容です。その一角にアーセナルと呼ばれる会場があり、85以上のオープンソースツールの実演が行われました。ブリーフィングよりも発表者との距離が近く、内容について議論している風景も見られました。 DEF CONとは DEF CONもBlack Hat同様歴史あるイベントで、今回で27回を数えます。ただ色合いはBlack Hatとはまるで異なり、言うならば「ハッカーのお祭り」という雰囲気です。今年の会期は8月8日から11日までの4日間で、今年の会場はホテル4軒にまたがっていました。 内容はBlack Hat以上に多種多様で、大雑把にジャンル分けしても昼間はプレゼンテーション、コンテスト、ワークショップ、ツール・製品のデモなどが行われているほか、夜になると映画の上映会が始まったり音楽イベントが始まったりと賑やかです。特筆すべきイベントとしては、期中にDEF CON CTFの決勝戦が開催されることが挙げられます。CTF自体の説明はほかに譲りますが、世界最高峰の大会として名が知られており、毎年5月のオンライン予選を勝ち上がったチームが本戦に臨みます。 会場内にはビレッジという仕切られたエリアが各所にあり、ある特定のテーマに関する展示、プレゼンテーション、ワークショップが行われています。一例を挙げるとAI, Block Chain, Cloud, IoTなど技術分野や、Blue team, Red team, Social engineeringなどセキュリティ分野、変わり種ではBio Hacking, Car Hacking, Lock Pickなども見られました。興味深かったのはAviation Villageの一角でアメリカ国防総省のDefense Digital Service ( https://dds.mil ) という部局が人材を募集していた点で、DEF CONのようなカジュアルな場にも出展して人的リソースを確保しようとしているところに日本との違いを感じました。 会場を歩いていると、謎のQRコードが書かれたポスターが張られていたり(中身は謎のバイナリ)、いきなりクイズを渡してくる人がいたり、必死に何かCTFを解いている人がいたりと、本当にいろいろな人、物に出くわします。ただ散歩しているだけでも楽しいですが、訪れた際にはぜひ何かHackしてみるのをお勧めします。私は休憩所でCrypto & Privacy Villageで配られていたパズルを解いていたところ、隣の席にやってきたトルコ人の青年に「何をHackしてるの?」と声をかけられ、1時間ほどいっしょに解いてくれるという素敵な体験がありました。 ちなみにバッジですらハックできるそうです。組み込み方面で腕に覚えのある方、ぜひデバッグ機材をお持ちになってお越しください。 参加するには Black Hatは参加登録が必要です。早期割引があるので、参加すると決めたら早めに登録するのがよいでしょう。パスは何種類かありますが、ブリーフィングパス、またはブリーフィング&トレーニングパスをお勧めします。ビジネスパスは安価なものの、ビジネスホールにしか立ち入れません。 とりわけ、トレーニングを受けたい方はとにかく早く登録しましょう。席数がかなり限られているため、4月時点で売り切れ間近となっているコースも見られました。 https://www.blackhat.com/us-19/training/schedule/index.html DEF CONには早割などはありませんが、Black Hatの参加登録時に同時に購入できるのでそちらがお勧めです。その場合Black Hatの会期中に、 Black Hat会場内の カウンターでDEF CONバッジ(入場証)と引き換えることになります。DEF CONのみに参加したい場合は、会期中に会場の受付窓口で参加費を払えばOKです。 おすすめの歩き方 とにかくまずRegistrationを済ませる 参加登録のことではなく、現地での参加受付のことです。これを済ませないとどこの会場にも入れません。本人確認があるのでパスポートをお忘れなく。 Black HatのRegistrationではバッジ(入場証)のほかバックパックがもらえました。DEF CONのバッジを引き換えた(上述)際には、バッジ、ステッカー、ノートと会場案内の小冊子がもらえました。この会場案内の小冊子がWebサイトを見るよりもよほど良くまとまっていますので、引き換えが始まったら早めに入手しておくことをお勧めします。 スタッフに聞く Black Hat, DEF CONとも会場が広く、また案内も不十分なので、目的地がわからなくなったらスタッフに聞きましょう。どちらのイベントでもスタッフは同じTシャツを着ており、そこかしこにいます。 身軽な装いで Black Hat, DEF CONとも会場が大変広く、相当な距離を歩くことになります。動きやすい服装に履き慣れた靴で臨むことをお勧めします。ただ会場の冷房がけっこう強めなので、羽織り物が1枚あるとよいでしょう。またBlack Hatのトレーニングやビジネスホールを訪れる場合、けっこうな量の配布物をもらうことになるのでエコバッグがあると便利です。 Black Hatはアーセナルに注目 Black Hatでのブリーフィングの内容は (1) 後日スライドが公開される (2) セッションの録画が販売される――ものの、アーセナルの発表ではそのような手当てがありません。ブリーフィングとアーセナルは同時進行で行われているため、もしアーセナルに気になる内容があればそちらを優先することをお勧めします。Black Hatで発表された内容はDEF CONでも同じ内容で発表されることがあるので、DEF CONのスケジュールにも注目です。 DEF CONの無線LANに注意 DEF CONは会場で無線LANによるインターネット接続サービスを提供していますが、適切に暗号化されたSSID (DefCon) のほか、まったく暗号化されていないSSID (DefCon-Open) が飛んでいます。前者は安全に使えるものの、後者は何をされるか分からないので、接続したければそれ専用に「まっさらなラップトップ」を持参することをお勧めします。 会場では、DefConという名の「暗号化されていない」アクセスポイントを実際に観測しました。これはユーザーを騙して(暗号化されていると勘違いさせて)通信を横取りしようとするものと思われます。私も危うく接続しかけたので、多少気を引き締めねばと思いました。一部の危険な無線LANはPacket Capture VillageのWall of Sheepにつながっており、Webサービスやメールのユーザー名・パスワードを送信しようものならここで晒し上げられてしまいます(さすがにパスワードは一部がマスクされますが)。 最後に 次回は、Black Hatで見聞きしてきたテクニカルな内容を、同じチームの星野より紹介します。 なおBlack Hatのクルーが撮影した写真アルバムはこちらからご覧になれますので、併せてご覧ください。 https://www.flickr.com/photos/blackhatevents/albums/72157710161031186 Black Hat USA 2019 Closes Out Another Record-Breaking Event in Las Vegas ↩
こんにちは、技術開発部 セキュリティユニットの田中です。社内のセキュリティエンジニアのメンバーで、サイバーセキュリティ関係の話題を書いていきます。初回となる今回は「ラテラルフィッシング」についてお送りします。 ラテラルフィッシングとは? 皆さんは、最近ネットでも取り上げられるようになってきた、「ラテラルフィッシング」(Lateral Phishing)というセキュリティ脅威をご存知でしょうか? ラテラルとは横方向へ、を意味し、サイバー攻撃では、攻撃者が内部ネットワークに不正侵入後、感染を拡大する行為を「ラテラルムーブメント」(横方向への移動)と呼び、ご存知の方も多いと思います。 「ラテラルフィッシング」は、攻撃者が組織内のメールアカウントを何らかの手法で乗っ取り、その組織の正規アカウント(ドメイン)からフィッシングメールを送るものです。正規の内部アカウントからのメールなので、現在の攻撃検知の想定外のため、一般に検知が困難で、攻撃の実態もよくわかっていないのが現状でした。 ラテラルフィッシングの実態と対策に関する論文発表 この「ラテラルフィッシング」に対し、大規模なデータセットで実態を明らかにし、防御手法を提案・評価した、非常に質の高い研究論文発表が先月8/15に行われたので、本ブログで皆さんに紹介したいと思います。 セキュリティの学術系国際トップカンファレンスは、ゴルフ界やテニス界のように、4大メジャー大会が存在します。その1つが毎年USで夏に開催されるUSENIX Securityで、この難関カンファレンスに採択され(採択率16%, 2019)、かつ、Distinguished Paper Award Winnerに選ばれた優れた論文です。 ちなみに今年のUSENIX Securityは、28回目、サンタクララで開催され、何年ぶりかに日本人がファーストオーサの論文が採択されるなど話題になりました。 ラテラルフィッシングの実態は? Detecting and Characterizing Lateral Phishing at Scale[1] と題して、92組織の113Million(1.13億)ユーザのOffilce 365のメールを解析したところ、7つのうち1つの組織で「ラテラルフィッシング」が行われている実態が明らかにされました。92組織は、16業界からなり、多いものから、Real-estate, Technology, Education, Industrials, Healthで、データセットは十分な規模であると思われます。 実際、Office365への不正アクセスは各社SOCでも多く検出して、インシデント対応をしているということで、同様に信頼性が高いデータセットと言えます。 また、「ラテラルフィッシング」では、標的型攻撃で用いられる、標的を調査し、巧妙なメールを用いるケースは、全体の7%にすぎず、93%は、このドキュメントを見ておいて、このリンクをクリックして等、シンプルなものですが、信ぴょう性を高めるため、あのメール見てくれた?等催促したりと応答をすることも特徴です。 検知手法は? このようなメールを特定するのは、シンプルな機械学習で誤検知を少なく検知できるという内容です。特徴量としては以下の3つを使います。 Lure:メール内にphishyな単語を入れているか Exploit:メール内にレアな(通常ではないような)URLを入れているか Targeting:標的型のような特殊な偽装をしているか 実際に「ラテラルフィッシング」が起きた110インシデントのうち、同手法で実験を行ったところ、106インシデントを検知できたとのこと。110インシデントのうち49インシデントは、ユーザから報告が上がってこなかったもので、これを見つけられたのは実務的にも非常に効果が高いと言えます。またFalse Positiveは0.0004%と非常に低いという凄さです。 もちろん、セキュリティ業界はいたちごっこな点は否めないので、永続的にこの手法で検知できるという保証はありません。 まとめ まだ、情報が少ない、「ラテラルフィッシング」(Lateral Phishing)について紹介させていただきました。データセットでは、16業界をカバーしていたのですが、どの業界でこの攻撃が多いか等の情報はありませんでした。おそらく学術界の発表は、倫理問題も最近は気にする必要が背景にはあるからかもしれません。この点については、コマース界のBarracuda Networksが今後発表をすることも予想されます。また日本で「ラテラルフィッシング」が起きているのかについても、情報公開の限界もあり、なかなか実態がわからないのが現状です。 また、今回の論文発表は、Office365の大規模データから分析をしているということで、Office365のセキュリティ対策やインシデントへの備えも重要と言えます。 この論文がAwardを取ることができた背景には、4大メジャー大会の中でも特に、理論の完成度に加えてフィージビリティも重視する、USENIX Securityならではと思います。 92組織から1.13億のメールを入手するには、研究者だけの力ではなかなかできないので、企業とのコラボが必須になります。今回はUC BerkeleyとBarracuda Networksの産学連携ですが、USENIX Securityからは、この連携により優れた技術が生まれ、スピンオフしたセキュリティ系ベンチャー企業も多くあります。 学術系カンファレンスは集客力の高い商業系カンファレンス(例 Blackhat)と比べると、数%の集客規模ですが、また一味違う興味深さがあります。USENIX Security自体についても、機会がありましたら、紹介させていただきたいと思います。 参考文献 [1] Grant Ho and Asaf Cidon and Lior Gavish and Marco Schweighauser and Vern Paxson and Stefan Savage and Geoffrey M. Voelker and David Wagner. Detecting and Characterizing Lateral Phishing at Scale. In Proc. of 28th Usenix Security, 2019. https://www.usenix.org/system/files/sec19-ho.pdf