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はじめに デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室のT.Sです。 2026年7月、オーストラリア・メルボルンで開催されたSIGIR 2026(49th International ACM SIGIR Conference on Research and Development in Information Retrieval)とICTIR 2026(ACM Conference on Innovative Concepts and Theories in Information Retrieval)に参加してきました。学生時代に取り組んでいた研究の成果をICTIRで発表するとともに、SIGIRでは世界中の研究者や企業が発表する最新の研究に触れることができました。 今回の記事では、現地の雰囲気や印象に残った研究、そして実際に参加して感じたことを紹介します。 SIGIRとは? SIGIRは、情報検索(Information Retrieval: IR)分野を代表する国際会議の一つです。 検索エンジンやレコメンドシステム、RAG、LLMを用いた検索技術など、私たちが日常的に利用している情報サービスを支える最先端の研究成果が発表されます。 2026年はオーストラリア・メルボルンで開催され、会場には世界各国から多くの参加者が集まりました。会場には大学の研究者だけではなく、企業研究者も数多く参加しており、アカデミアと産業界が密接につながっていることを実感しました。 印象に残った発表 今回聴講した発表の中で、特に印象に残ったのがLinkedInによる Policy-Grounded Dynamic Facet Suggestions for Job Search という発表です。 求人検索では、「Data Scientist」や「Software Engineer」のような短い検索クエリが多く、検索キーワードだけからユーザーの本当の意図を理解することは簡単ではありません。 例えば、「AIエンジニア」という検索でも、 新卒なのか 経験者なのか 勤務地はどこなのか どの技術領域を求めているのか によって、ユーザーが求める求人は大きく異なります。 この発表では、検索ランキングモデルを改善するだけではなく、ユーザー自身が検索意図を具体化できる仕組みを導入していました。具体的には、検索窓の下にユーザーの特徴や入力した検索クエリに応じた動的なファセット(検索条件候補)を表示します。ユーザーが提示された条件を選択すると、その情報が検索条件へ追加され、より明確な検索意図で求人を探せるようになります。 私が特に興味深いと感じた点は、「検索システムがユーザーの意図を一方的に推測する」のではなく、「ユーザーとのインタラクションを通じて検索意図を明確化する」という考え方です。検索技術というとランキングモデルや検索アルゴリズムに注目しがちですが、良い検索体験を実現するためには、ユーザーがどのように情報を探すのかまで含めて設計することが重要だと感じました。求人サービスにおいては、ユーザーと企業のより良いマッチングを実現することが重要です。その観点でも、このような検索意図を引き出す仕組みは非常に参考になる取り組みだと感じました。 ICTIRでポスター発表 SIGIR開催後には、併催国際会議であるICTIRにも参加しました。私は、学生時代に取り組んだモデルマージを情報検索分野に応用する研究について、ポスター発表を行いました。 本研究では、各ドメイン向けに個別に学習したDense Retrieverをモデルマージによって統合することで、複数ドメインに対応可能な単一のDense Retrieverを構築できるか検証しました。 発表では、 モデルマージの有効性 Mixture of Expertsとの違い ドメイン数を増やした場合の性能変化 などについて議論を行いました。 自分の研究内容を英語で説明し、質問やコメントをいただきながら議論できたことはとても良い経験になりました。 メルボルンの街並み 学会期間中にはメルボルン市内も少し散策しました。 街中には歴史ある建築物と近代的な高層ビルが共存しており、とても魅力的な都市でした。 参加して感じたこと 今回で海外での研究発表は2回目でした。日本生まれ日本育ちの私にとって、英語で自分の研究内容を伝え、海外の研究者と議論することは決して簡単なことではありませんでした。それでも、自分の研究についてさまざまな視点から意見をいただいたり、世界中の研究者による最新の研究成果を直接聞いたりできたことは、非常に貴重な経験となりました。 またSIGIRでは、検索とLLMの融合がさらに加速していることを強く感じました。今回は、Deep Researchに関連する研究をはじめ、検索技術にAgentやReasoningを取り入れた研究が数多く発表されていました。情報検索の分野も新たな技術が登場するたびに形を変えていることを実感しました。 おわりに SIGIR・ICTIRへの参加は学生時代に取り組んだ研究の発表が主な目的でしたが、企業に勤めるデータサイエンティストとしても大きな学びになりました。世界中の研究者が取り組む課題や最新技術を直接知ることで、自分自身の視野が大きく広がったと感じています。今回得た知見を今後の業務に活かしながら、引き続き検索・推薦・生成AI分野の技術をキャッチアップしていきたいと思います。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
はじめまして。2026年度新卒として入社し、この夏からITディベロップメント1部 開発チーム 開発2課に配属されますF.Tです。 4月に入社してから約4か月間、みっちりと研修を受けてきました。振り返ると本当にあっという間で、それでいて濃密な期間でした。 そこでこの記事では、受講した新卒の一人として、この4か月で何を経験し、何を得たのかを率直にお伝えします。 研修の雰囲気が少しでも伝われば幸いです。 研修全体の流れ 研修は大きく次のステップで進んでいきました。 時期 研修内容 ~4月中旬 人事研修・デジ戦研修 ~5月末 IT/Web研修 ~6月上旬 デジ戦研修 ~6月中旬 職種別研修 6月中旬~7月末 開発演習(4スプリント+成果発表会) ※デジ戦 : デジタルテクノロジー戦略本部 人事研修・デジ戦研修 最初に受けたのは、職種を問わず新卒共通の人事研修・デジ戦研修です。 人事研修 人事研修では、ビジネスマナーやビジネスマインド、文書作成の基本など、社会人として当然身につけておくべきことを学びました。グループワークが多く、入社したてで緊張していましたが、同期と話すうちに自然と打ち解けていったのを覚えています。 なかでも、相談などの時間を取ってもらいたいときに使用する「お時間よろしいでしょうか」というクッション言葉は今となっては自然と口から出るほど身に付きました。 デジ戦研修 続くデジ戦研修では、講義やパネルディスカッション、座談会などを通してデジ戦の組織構造や各職種について説明を受け、組織と業務への理解を深めました。 また、相手に伝わるスライドを作成するためのデザイン研修や、顧客のニーズを捉えて価値を届けるマーケティングの研修を通じて、実践的な知識や考え方も学びました。 さらに、日々売上を生み出している営業社員が、商談において何を考え、どのようにお客さまと向き合っているのかを学ぶ機会もありました。実際の商談動画を視聴したほか、営業社員との座談会も開催していただき、営業という仕事への理解も深めることができました。 デジ戦研修の中で特に印象に残っているのがパネルディスカッションと2年目社員との座談会です。これらの研修を通して「配属後に自分がどんな仕事をするのか」の解像度がぐっと上がりました。 また、業務内容だけでなく私たち新卒へのメッセージもたくさんいただきました。 なかでも、「どんな仕事も伝わらないと意味がない」というメッセージはエンジニア職の私には強く印象に残りました。 どんなにたくさんコードを書こうと、すごい機能を実装しようと使う人にとっての使い方、メリットが伝わらないと意味がありません。 生成AIが普及しアウトプットが簡単に得られる時代に、伝えるという仕事はより一層大切になっていると感じました。 IT/Web研修 ここからはエンジニアとしての土台づくりです。と言いつつも、デジ戦ではエンジニア職であるかに関わらず全員がこの研修を受講します。全社横断のIT部門という特徴が表れた研修だという風に感じています。 研修では、セキュリティ、データベース、ネットワークといった基礎知識から、Python、SQL、HTML/CSS、JavaScript、そしてバックエンド開発(Python / Django)まで、幅広く学びました。 この研修の特徴は、まったくの初心者がいるということだと思います。経験者は初心者の方に教える中で自分の理解度を再認識し復習するという光景が周囲でたくさん見られました。一方初心者の方は、はじめて触れる概念に苦戦しつつもわからないことは周囲に質問し、すさまじいスピードで知識を身に付けていく姿が印象的でした。 職種別研修 職種別研修では、エンジニア・デザイナー・データサイエンティスト・マーケター・ガバナンスの5職種に分かれ、5日間の研修を受けました。 私が受けたエンジニア職研修では、ウォーターフォール開発を要件定義から総合テストまで一通り体験しました。クラスやオブジェクトの概念、UMLの作成には苦戦する場面もありましたが、チームで協力し一連の成果物を作り上げることができたときは達成感がありました。 短期間で上流から下流まで駆け抜けるのは大変でしたが、開発全体の流れを肌で理解できた貴重な機会でした。 開発演習 そして、研修の最後は約1か月にわたる開発演習を行いました。開発演習では、マイナビ転職・マイナビクリニックナビの2つのサービスで各2チームの計4チームに分かれ開発を行いました。 どのチームにも均等に各職種のメンバーが割り振られ各職種の強みを発揮し、協力しながらチーム開発を進めました。 また、今年度はデジ戦先輩社員のフィードバックに加え、各サービスを運営する事業部の方々からも定期的にフィードバックをいただく機会を用意していただきました。 各チーム、フィードバックの機会を有効に活用し、最終成果発表時には初期のものと比べ物にならないサービスを開発していました。 なお、開発演習の具体的な取り組み内容については、 こちらの記事 で詳しくご紹介しています。 振り返り 約4か月の研修を通して私が得たものは、大きく3つあります。 1つ目は私は伝えたではなく、伝わったと相手に言ってもらうことの大切さ、2つ目はエンジニアとしての基礎知識、そして最後がチームで開発をやり抜いた経験です。 特に開発演習では、技術力だけでなく、チームで議論し、フィードバックを受け止め、次に活かすという一連の流れを実体験をもとに覚えることができました。同期との仲もぐっと深まり、配属後も相談し合える心強い仲間ができたことは、何より大きな財産です。 ここでお伝えしたのはあくまで私自身の視点ですが、新卒一人ひとりがそれぞれ異なる学びを得ています。配属後は研修で得た学びを生かし、一日でも早く一人前になれるよう精進します。 最後に、新卒研修に関わってくださった皆さま、研修担当の方々、そして事業部・先輩社員の皆さまに、心より御礼申し上げます。研修で得たすべてを糧に、配属後も挑戦を続けていきます。
本記事について 本記事では、2026年度新入社員研修で実施された開発演習についてご紹介します。 今回の演習では、既存サービスのグロースをテーマに、サービスやユーザーが抱える課題を分析し、その解決につながる施策の企画・実装に取り組みました。 私たちのチームに与えられたテーマは、マイナビ転職のスカウト機能のUX改善です。 企業と求職者の双方にとってより価値のあるスカウト体験とは何かを考え、市場分析やユーザー分析をもとに施策を立案し、実際に動作するプロトタイプとして形にしました。 その結果、最終成果発表では1位を獲得することができました。 本記事では、私たちがどのような課題に着目し、どのようなプロセスで施策を形にしていったのか、またチーム開発を通じて得られた学びについてご紹介します。 なお、今回ご紹介する開発演習は2026年度新卒研修の一環として実施されたものです。研修全体の内容については、 こちらの記事 をご覧ください。 開発演習について 1. 演習概要 今回の開発演習では、既存サービスのユーザー体験や事業課題を分析し、サービスの成長につながる施策を企画・実装しました。 対象サービスごとにテーマが設定されており、参加者は職種混在のチームに分かれて開発を進めました。 対象サービス テーマ マイナビ転職 スカウト機能のUX改善 マイナビクリニックナビ サービスグロース また各サービスA・Bの2チームずつの計4チームに分かれて開発を行いました。 転職A 転職B クリニックA クリニックB 私たち「転職A」は、「マイナビ転職スカウト機能のUX改善」をテーマに取り組みました。 2. チーム体制 チームはエンジニア、デザイナー、マーケター、データサイエンティストなど、さまざまな職種で構成されていました。 市場調査や課題整理、UI設計、システム開発、データ分析など、それぞれの専門性を活かしながら開発を進めました。 一方で、企画やUXに関する重要な意思決定は職種に関係なく全員で議論しながら進めたことが特徴です。 我々の開発 1. 課題発見から施策立案まで 1-1 現状分析 施策を考える前に、まず採用市場や競合サービス、マイナビ転職の現状を分析しました。 私たちは以下のようなフレームワークを用いて現状を整理しました。 PEST分析 3C分析 SWOT分析 競合分析 1-2 ターゲットとペルソナの設定 その後、上記の分析結果をもとに、今回の施策で特に価値を届けたいユーザーを明確にしました。 スカウト機能には企業側と求職者側の双方が存在します。 すべてのユーザーを対象にすると、施策の目的や提供価値が曖昧になるため、分析結果をもとに、さらに具体的な利用者像としてペルソナを設定しました。 ペルソナを明確にしたことで、 誰の課題を解決するのか どのような価値を提供するのか をチーム全体で共通認識として持つことができました。 1-3 UX課題の特定 現状分析とペルソナ設計を進める中で、次のような課題が見えてきました。 企業側 候補者選定に多くの時間がかかる スカウト送信の判断負担が大きい 求職者側 自分に合ったスカウトだけを受け取りたい スカウトの大量送信に不信感を抱いている 私たちは、スカウトの数を増やすのではなく、「  採用企業にマッチする人材の有効応募数を最適化する  」をUX改善の方向性として設定しました。 1-4 施策の検討 課題解決に向けて、企業が候補者を探し、スカウトを送るまでの一連の体験を見直しました。 その結果、 候補者推薦機能 推薦理由の可視化 スカウト文面生成支援 を中心とした施策を企画しました。 また、システムが採用担当者に代わって判断するのではなく、採用担当者の意思決定を支援することをプロダクトの基本方針としました。 そのため、推薦結果だけでなく推薦理由も提示し、スカウト文面についても最終的な確認・編集を行える設計としました。 2 プロトタイプ開発 2-1 実装方針の決定  演習期間は限られているため、すべてのアイデアを実装することはできません。 そこで、 UX改善の中心となる機能か 企業と求職者の関連性を表現できるか ユーザー価値を伝えられるか 演習期間内に実装可能か という観点から優先順位を整理し、機能数を増やすことよりも、今回の施策で最も重要な体験を一連の流れでプロトタイプとして実装する機能を選定しました。 2-2 設計・実装 実装では、フロントエンド、バックエンド、AI・データ分析、UIデザインへ役割を分担しながら開発を進めました。 一方で、UXは特定の職種だけで作るものではありません。 画面、データ、AIによる候補者推薦、スカウト文面生成が一つの体験としてつながるよう、次の観点はチーム全体で確認しながら設計を進めました。 ユーザーが操作する順番 各画面で表示する情報 推薦理由の見せ方 スカウト文面の確認・編集方法 最終的に伝えたい価値 また、開発中には想定以上の工数や技術的な課題も発生しましたが、その都度チーム全体で状況を共有し、優先順位や実装範囲を見直しながら開発を進めました。 その結果、限られた期間の中でも、UX改善の核となる体験を形にすることを意識してプロトタイプを完成させました。 2-3 レビューを通じた改善 開発途中では、事業部およびデジタルテクノロジー戦略本部の先輩社員からレビューを受けました。 事業部からは、 ユーザー課題との整合性 サービスとしての価値 について助言をいただきました。 また、デジ戦からは、 技術的な実現可能性 システム設計の妥当性 についてフィードバックをいただきました。 いただいた意見をもとに改善を重ねることで、 企業と求職者双方の価値創造 において、より説得力のあるプロトタイプへとブラッシュアップすることができました。 最終成果発表 1. 発表内容 最終成果発表では、 採用市場や競合の分析 現状のスカウト機能の課題設定 デモンストレーション UX改善施策 UX改善で企業と求職者の体験がどう変わるのか 期待される効果 という流れで提案を行いました。 単なる機能紹介ではなく、 「なぜその機能が必要なのか」「ユーザー体験がどのように変わるのか」 を重視して発表を行いました。 2. 結果 その結果、私たちのチームは最終成果発表で1位を獲得することができました。 この結果は、機能の完成度だけではなく、課題分析から施策立案、レビューを通じた改善まで、一連のプロセスを丁寧に積み重ねた成果であると感じています。 チーム開発を通じて学んだこと 1. 属人化を防ぐことの重要性 今回の演習では、それぞれが専門性を活かして開発を進めることができた一方で、作業や知識が特定のメンバーに集中し、属人化する場面もありました。 また、バックログの活用や情報共有が十分ではなく、認識のずれやタスク漏れが発生することもありました。 振り返りを通じて、成果物を作るだけでなく、作業内容や意思決定の背景をチームで共有し、誰でも状況を把握できる状態を作ることの重要性を学びました。 2. 「伝える」ことの難しさ チーム開発では、自分の考えや作業内容を相手に分かりやすく伝えることの難しさを実感しました。 議論の中では多くのアイデアが生まれましたが、目的が曖昧なまま会話が長くなることや、説明不足によって認識にずれが生じることもありました。 どれだけ良い分析や実装をしても、相手に伝わらなければ価値は生まれません。目的を明確にした上で議論し、相手に伝わる形で共有することの大切さを学びました。 3. チームで成果を生み出す力 今回のチームは、異なる職種や経験を持つメンバーで構成されていました。 意見が分かれる場面もありましたが、活発な議論ができる雰囲気があり、お互いの得意分野で不足を補い合うことができました。 その結果、分析から企画、設計、実装、発表までをやり切り、最終成果発表で1位を獲得することができました。今回の経験を通じて、良い成果は個人ではなく、チームで作り上げるものだということを学びました。 まとめ 今回の開発演習では、市場分析から課題発見、施策立案、設計、実装、発表まで、実際のプロダクト開発に近いプロセスを経験することができました。 限られた期間の中で試行錯誤を繰り返しながら、チームで一つの価値を形にできたことは大きな財産です。 今回の学びを今後の業務にも活かし、より良いサービスづくりに貢献していきたいと思います。
法人ディベロップメント課のS・Sです。 マイナビBiz / LIVING の新規開発・保守運用を行なっております。 日々、インプットもしているし、実装もしている それでも、アウトプットの量や質が思うように伸びない 私自身、以前はそんな停滞感を持つことがありました。 今振り返ると、その原因の一つは、インプットして、やってみるところで止まっていたことだったのかなと思います。 そんな課題に対して、  「伝える」「教える」 を加えるようになってから、個人としてもチームとしても、アウトプットの量と質が少しずつ改善 してきた実感があります。 今回は、その実体験をもとに、 なぜ「伝える」「教える」がアウトプットの改善に効くのか について、まとめます。 こ️の記事内容をざっくりと一枚絵にしたので、こちらをご確認頂いた上で、読んでいただくとスムーズに読み進めていただけるかなと思います。 アウトプットの量や質が思うように上がらなかった理由 私の場合、結論はシンプルでした。 インプットはしているし、実際にやってみることもできているけれど、そこで止まっているから。 一見すると、これは、 「インプットだけで終わらず、ちゃんとアウトプットしている状態」 に感じますよね。 実際、私自身もそう思っていましたが、今思うと、この状態のアウトプットは自分の中だけで完結する、いわば、 一方通行のアウトプット だったんです。 もちろん、「やってみる」こと自体は、とても大切です。 ただ、それだけだと、 自分の理解の曖昧さに気づきにくい 情報整理が不十分なままでも進められてしまう 学びや知見が自分の中だけに留まりやすい という状態になりやすく、結果として、アウトプットの量も質も頭打ちになりやすいと感じました。 アウトプットをもう少し分解して捉えてみる そこで、私は「アウトプット」をもう少し細かく分けて考えるようにしてみました。 たとえば、アウトプットには少なくとも3種類あると思っています。 ※ 自分なりの解釈なので、広辞苑はもとより、人によって捉え方は変わるかもしれませんが、今回のテーマに合わせてご理解頂けますと幸いです。 やってみる 実際に手を動かして、成果物を生み出すことです。 実装する、検証する、設計してみる、などがこれにあたるかなと思います。 伝える 自分の知識や経験を、他者が理解できる形にして渡すことです。 口頭、テキスト問わず、チャット、記事、レビューコメント、口頭共有などが含まれます。 教える 相手が、自分と同じか、それに近いレベルで再現できるようにすることです。 単に情報を渡すだけでなく、相手が実際に使える状態まで支援することまでがポイントかなと思います。 この3つで見て、過去を振り返ると、以前の私は「1. やってみる」まではできていても、「2. 伝える」「3. 教える」が、あまり足りていませんでした。 しかし、この2つを意識して増やすようになってから、アウトプットの量と質の両方に変化が出てきたのかなと思います。 なぜ「伝える」「教える」アウトプットがいいのか 理由はいくつかあると思いますが、特に大きいと感じているのは、 伝えることで、自分の理解が整理されるから 誰かに伝えようとすると、下記を整理する必要が出てきます。 何が前提知識なのか どこが重要なのか なぜその実装や判断をしたのか どう説明すれば伝わるのか その中で、自分の中では分かったつもりでも、いざ言語化しようとすると、意外と曖昧な部分が見つかります。 つまり、 「伝える」は、他者のためであると同時に、自分の理解を整理し直すアクション でもあるのかなと思います。 教えることで、自分の理解不足や思い込みに気づけるから 教える場面では、相手から質問やフィードバックが、返ってきます。 これがかなり大きいです。 自分にとっては当たり前になっていることでも、相手からするとそうではありません。 その時に、下記のような 質問を受けることで、自分の理解の浅さや説明不足に気づく ことがあります。 なぜその設計にしたのか どこまでがフレームワークの責務で、どこからが自分たちの実装なのか なぜ TypeScript の型をそこまで厳密に付けるのか Next.js のこの書き方を選ぶ理由は何か これによって、自分の知識や考え方も、アップデートでき、さらに自身のやってみるアウトプット、伝える、教えるのアウトプットの質も向上できます。 チーム全体のアウトプット向上につながるから 「伝える」「教える」は、自分のためだけでなく、チームのアウトプット向上に繋がります。 たとえば、下記のような変化が起きやすくなります。 知識共有が進み、属人化が減る レビュー観点が揃いやすくなる 実装の背景共有が進む オンボーディングがしやすくなる 同じ失敗をチーム内で繰り返しにくくなる 個人の学びが、 チームに展開されるようになるので、結果として、PJ全体として出せるアウトプットの量と質が上がりやすく なります。 私が、実際に、「伝える」「教える」アウトプットをして感じたこと 「伝える」ことで感じたこと 「伝える」アウトプットをしてみた実感でいうと、今こうして記事を書いて伝えていること自体がまさにそうです。 自分の中ではなんとなく分かっていたことでも、文章にしようとすると、 自分は何に詰まっていたのか どこで変化が起きたのか 何が再現可能な学びなのか を整理しないと、筆が進みません。 また、記事として伝えようとすると、単に思ったことを書くのではなく、 読み手にとって分かりやすいか 読んだあとに行動につながるか 自分の経験が他の人にも応用できそうか という視点で見直すようになります。 (この記事も、自分なり、どうしたら伝わるか、プラスのアクションを起こしてもらえるかを考えながら書いています) このプロセスを通して、 自分の経験や判断が言語化され、再利用しやすい知見になっていく感覚があります。 それでいて、知見が共有されることで、 実装の背景が共有されやすくなる レビュー時の観点が揃いやすくなる チーム内で同じところでつまずきにくくなる といった意味でも、 組織やチームのアウトプット向上に少しはつながるのではないか と感じています。 「教える」ことで感じたこと 私は、フロントエンド寄りなので、バックエンド寄りの方に対して、フロントエンドの基礎や Next.js、TypeScript について共有したり、レクチャーしたりする機会がありました。 その中で強く感じたのは、 教えると、自分の理解の甘さがよく見える ということです。 自分の中では当たり前になっていたことでも、質問を受けると、意外とうまく説明できないことが多々ありました。 たとえば、 その実装方針を選ぶ理由は何か この型定義は何を防ぎたいのか コンポーネントを分ける基準は何か その書き方が保守しやすいのはなぜか といった質問に向き合うことで、「分かっているつもりだったこと」を改めて深掘りするきっかけになりました。 また、 教える中で情報を整理し直したり、説明を改善したりすることで、自分自身のアウトプットの質も上がっていきました 。 (いざ質問を受けると一緒に調べつつ改めて学習が深まることが多かったですね) さらに、教えた相手が同等、あるいはそれ以上の成果物を出してくれるようになると、チーム全体として出せるアウトプットの量も質も上がっていきます。 これは、個人で頑張るだけでは得づらい変化で、「教える」は、自分の成長とチームの成長を同時に進められる行動だと感じています。 「伝える」「教える」がチームにも有効なアウトプットである理由 社内のエンジニア組織という観点で見ても、「伝える」「教える」はかなり重要だと思っています。 なぜなら、 開発現場では、単に誰か一人が詳しいだけでは足りない場面が多いから です。 個人の知識や経験が共有されないままだと、 特定の人にしか分からない実装が増える レビューが人によってぶれやすくなる キャッチアップに時間がかかる 同じ調査や失敗が繰り返される といったようなことが起きやすくなります。 逆に、「伝える」「教える」がうまく回るようになると、下記のようになることで、結果として、開発全体の進み方が良くなります。 属人化が減る 背景込みで実装を理解しやすくなる 新しく入ったメンバーも学びやすくなる チーム内で共通言語が増える まずは、小さく始めてみる ここまで書いてきた通りですが、「伝える」「教える」は時間も労力もかかります。 なので、最初から大きくやろうとしなくてもよいと思っています。 例えば、以下のようなアクションなどが挙げられます。 学んだことを社内チャットに短く共有する 詰まったポイントと解決策をメモとして残す 口頭で説明した内容を、あとでテキストでも共有する 勉強会やペアプロの中で、自分が理解していることを言語化してみる 大切なのは、「やってみる」で終わらせず、他者に届く形にする、までアウトプットすること だと思います。 やり方も、ご自身が負担の少ないやり方で良いかなと思いますので、対面や通話で伝えるのが得意な方は、そうした場を活用すればよいと思いますし、口頭よりテキストの方が得意な方は、チャットや記事、ドキュメントで実践するのも良いと思います。 (ちなみに、私は、テキストが好きなので、テキストを積極的に活用しています。) まとめ 私自身、アウトプットの量や質については、まだまだ道半ばです。 しかし、以前より改善してきた実感があるのも事実です。 繰り返しになりますが、その中で強く感じているのは、 アウトプットは「やってみる」だけで終わらせず、「伝える」「教える」まで含めると効果的である ということです。 伝えることで、自分の理解が整理される 教えることで、自分の理解不足や思い込みに気づける その結果、個人だけでなくチーム全体のアウトプット向上にもつながる 短期的には少し手間に感じるかもしれません。 しかし、長い目で見ると、その積み重ねが個人にもチームにも効いてくると思っています。 アフリカの諺にもありますが、 「早く行きたいなら、ひとりで行け。遠くまで行きたいなら、みんなで行け。」 というものがありますが、まさにそれですね。 アウトプット先(チームや仲間)に向けることを意識することで、個人・チームのアウトプットを上げられて、長期的に、より大きなアウトプットが出せるようになると思います。 もし、インプットも実装もしているのに、なかなか伸び切らない感覚がある方がいれば、ぜひ「伝える」「教える」までをアウトプットに含めてみてはいかがでしょうか。 私もまだまだ途中なので、引き続き一緒に頑張れたらうれしいです。
Claude Designのプレビューで出てから約1ヶ月、ちゃんと使い込みました。 今回は、実際に使って見えてきた Claude Design の強み・弱みをまとめます。 ※プライベートで試してます(会社の利用は現時点ではNGです) 結論からいうと、 「一番強いAIプロトツールが決まった」わけではなく、用途によって使い分けるほうが良いな 、というのが実感です。 今回は、Claude Designをプロトタイピング/仕様決め/アイデア出し/ブレストといった 0→1寄りの場面 で1ヶ月ほど使ってみた所感を、Lovable / v0 / Figma Make / Base44 あたりと比較しながら整理してみます。 前提・スコープ 今日話すのはここです。 スコープ: プロトタイピング / 仕様決め / アイデア出し / ブレスト スコープ外:スライド作成、動画作成、汎用性の話 「プロトタイピング」に絞った話で、 「Claude Designでスライド作るのどうなの?」 「Claude Designで動画が作れるらしいけど」 みたいな話は割愛します。 プロトタイピングツールはどのように移り変わっていったか? 今回の使い分けとなる根底の話で、直近でAIのプロトタイピングツールは、進化し続けています。 ざっくり、AIでアプリ作る系ツールについても、振り返ってみましょう。 2023年末:v0登場 (Vercel)。「AIでアプリ作れるらしい」と話題に。最初の数週間で10万人待機リストに 2024年末:Lovable (元 GPT Engineer App)が "Lovable" にリブランド。フロントから裏側まで一気通貫で作れる方向で伸びてきた 2025年:Base44 台頭。認証・DB・ホスティングまでビルトインで、完成度の高さで評価されている  少しお値段高め...💸 2026年3月 :Figma Make kits(デザインシステム連携)が有料プラン向けに展開 2026年4月17日 :Claude Designが研究プレビューで登場 並べてみて思うのは、 「これが一番」ではなく、用途特化で枝分かれしている ということなんですよね。 なので今日の話も、「Claude Designが他より優れているか」ではなく、 「どこで使い分けるか」 の話になります。 Claude Design は、0→1や企画にめちゃくちゃ強い 長くなるので先に結論ですが、 Claude Design は「 0→1の探索と壁打ち 」に強い。「即・運用できるアプリ」を出したいときには、向かないという印象でした。 Claude側が想定しているのは、Claude Design で検討して、Claude Codeで作るといった感じなんだと思います。 もう少し深掘っていきます。 Claude Designとは まずは、そもそもClaude Designとは?というところからです。 Anthropic Labsが出した、 会話しながらプロト・モック・スライド・1枚資料を作る 機能 チャット + キャンバス の二画面構成で、いわば「 言葉でデザインする 」感じ 出せるもの:動くプロトタイプ / モック / スライド / 1枚資料 出ないもの :そのまま運用できる完動アプリ(実装に進むときはClaude Codeに引き継ぎ) ↓ Claude Designのチャット+キャンバス画面イメージ ポイントは、出力が ただの画像ではなく、編集可能な実体(artifact) として出てくるところ。HTMLやPPTX、PDF、Canvaにエクスポートしたり、Claude Codeに渡して実装に進めたりできます。 ここからは、1ヶ月使って感じた 強み3つ と 弱み を整理します。 強み① デザインシステムを組み込める これが一番大きいです。 Claude Design は、オンボーディングや会話の中で チームのコードベースやデザインファイルを読んで、ブランド固有のデザインシステムを内製してくれる 、というアプローチを取っています。 具体的には、 Figmaのスタイル / 既存コンポーネントのコードを投入できる それを以降のプロジェクトに ずっと適用してくれる 「うちのブランドはこういう思想」を、文章+実物で教え込める 何が嬉しいかというと、 ブランディングと思想を正確に反映できる こと。 「AIが作るそれっぽい綺麗UI」ではなく、 自社のテイストを保ったままプロトが出てくる ので、社内で見せるときの説得力が違うんですよね。 こんな感じでデザインシステムを入れることができる  ( OpenProps というデザインシステムを入れてみている) こんな感じで、TODOアプリを依頼すると、デザインシステムに則って作ってくれる (他のツールだとこれが意外と難しい) ↓デザインシステム内のラベル ↓のような感じでTODOリストのラベル部分に反映されていることがわかる ちなみに、UIキット対応は各ツールで進んでいる Figma Make も2026年3月から  Make kits  という形で、デザインシステム(npmパッケージ + Figma styles + ガイドライン)を組織単位で取り込めるようになっています。 Claude Designと似たようなことができますが、Figma Make だと npmパッケージまで作らないといけないってことが若干ハードル高いですね... Get started with Make kits 強み② 並行ブレスト体験(コンテキスト並行 × キャンバスで見渡す) これは Figma Make / Lovable と比較するとわかりやすいです。 「一本のコンテキストを最初から最後まで」の限界 Lovable や Figma Make を1本のプロジェクトでガッツリ使ってると、こうなりがちです。 最初に作ったコンテキストに、修正・修正・修正を重ねる 後半になるほど コンテキストが肥大化 して、修正が重くなる 「あの案、最初の方が良かったかも」と思っても 戻りにくい これは1本筋のフロー設計の宿命で、 修正が進むほどコストが上がる んですよね。 Claude Designは「コンテキストを並行に切れる」 Claude Designは、 コンテキスト(対話)を 1本ではなく何本も並行で持てる それぞれのアウトプットを キャンバス上に横並びで比較 できる 画面遷移ごと、フロー単位 で提案を出せる(個別の1画面だけじゃなく) これが「 ブレスト体験 」としてすごくテンポがいい。 「A案 / B案 / C案で出して、Aのこの部分とCのこの部分を組み合わせたい」みたいな、 実際の議論の流れ に近いことがツール側でできる。 データが蓄積していくのも地味に嬉しい 並行で切ったブレストの結果が 全部資産として残る ので、 「前にやったブレストのあの案、ちょっと似た要件のときに流用したい」 「過去のC案を出発点に、新案件を組み立てたい」 みたいな再利用ができます。Lovable や Figma Make の1本筋構造だと、 過去案を呼び出しにくい ので、ここは違いが出るところですね。 強み③ 双方向コメント / Editモード 地味ですが、この機能が修正のスピードに大きく貢献します。 軽微な文言修正(コピー / ラベル / 説明文など)は その場で直接編集できる 「ここのボタン文言だけ変えたい」を、わざわざプロンプトに投げ直さなくていい 「プロンプトに投げる → AIが再生成 → 確認」というループって、軽微な修正だとオーバースペックなんですよね。 直接自分の手で修正した方が早い場面はそれなりにあって、そこをちゃんと両立させているのが好印象でした。 「全部AIに任せる」じゃなくて、 人がやった方が速い部分は人がやれる 設計、というのが思想として一貫してる感じがします。 ↓こんな感じでプロパティーや文言をいじることができる 弱み ここはハッキリしてます。 即・運用できるアプリが欲しいときは苦手 です。 具体的には、 認証(ユーザー管理 / ログイン) 裏ロジック(API / DB / バッチ) 本番デプロイ環境 このあたりは Claude Design 単体では完結しません。 設計が終わったらClaude Codeに引き継いで実装 、という流れになります。 なので、 PMが企画を持ってきて、エンジニアが実装する :Claude Design → Claude Code この流れが強い 非エンジニアが1人で完結したい :Base44 / Lovable / v0 / Figma Make の方が向いている という棲み分けになります。 使い分けスペクトル ここまでの話を1枚にまとめると、こんな感じになります。 左 は「 捨てる案を作る 」フェーズ向け、 中央 は「 1案を作り込む 」フェーズ向け、 右 は「 運用まで持っていく 」フェーズ向け、みたいなかんじで自分は使い分けています。 じゃあ実務でどう使い分けるか 1ヶ月使った肌感だと、こんな順番が一番テンポが良かったです。 Claude Designで複数案を並行で出す (企画フェーズ) キャンバスで横並びにして、 チーム内で議論 方向性が決まったら、 Claude Designで深掘りした1案を整える Claude Codeに引き継いで実装 (ここで初めて運用を見据えた話になる) ポイントは、 「捨てる案」を作りやすい ことです。 「最初から1本筋で作り込む」だと、出した案がそのまま実装の出発点になってしまい、 捨てるコストが高い んですよね。Claude Designだと「3案出して、2案捨てる」がだいぶ気軽にできます。 これは0→1フェーズだとかなり嬉しいポイントです。 まとめ 伝えたかったこととしては、2点です。 ① AIプロトツールは「一番」ではなく「用途で使い分け」 ツールの選び方の軸が、 「 何でも一番速いやつ 」探し ↓ 「 やりたいフェーズに対して、設計思想が合うやつ 」探し に切り替わってきていると感じます。 それぞれ得意な場所が違うので、 自分の今のフェーズに合うものを選ぶ のが結果的には、効率よく良いものが作れるんじゃないかと思っています。 ② Claude Design は「0→1の探索と壁打ち」の入口として強い デザインシステムを正確に反映できる 複数案を並行で出して比較できる 軽微な修正は直接編集できる この3つが揃っているプロトツールは現状あまりないので、 企画フェーズの入口としての価値はかなり高い と思っています。 逆に、 運用フェーズに進むときは別ツール(Claude Codeなど)に渡す 、と割り切るのがコツです。1ツールで全部やろうとすると、結局上手くいきません... AIプロトツールがここまで増えてくると、もう「全部試して一番速いやつを使う」が成立しなくなってきていますね  この手のツールは、意外と差分あったりするので、何個か触ってみて、良い使い方・良いツールを探していくのがおすすめです! 最後までお読みいただきありがとうございました!
こんにちは、新卒3年目でビジネスイノベーション統括本部ITD1-3の堀川です。 愛用しているキーボードは GoForty v2のOrtho配列 です。 今回、私が普段の業務で使用しているTypeScriptをテーマにした大型カンファレンス『TSKaigi 2026』の参加レポートを書かせていただきました! 去年の参加レポート記事に引き続き、カンファレンスの様子や感想、魅力などを発信していきます TSKaigi2025で分かったTypeScriptの流行 ↑今年の愉快なTSKaigi参加メンバーたち カンファレンス概要 情報区分 カンファレンス詳細 イベント名 TSKaigi 2026 開催日 2026/05/22、2026/05/23 開催場所 ベルサール羽田 京急空港線羽田空港第3ターミナル駅から徒歩5分 ミッション 学び、繋がり、"型"を破ろう セッション感想 ここでは私が参加したセッションの中で、特に面白かったものを自分なりの理解を交えて紹介します セッション感想① 実践TanStack Start: 新規プロダクトを開発して確立した、サーバーとクライアント境界の設計パターン セッション概要 https://2026.tskaigi.org/talks/26 スピーカー Shimmy スライド資料 https://speakerdeck.com/kaminashi/practical-tanstack-start-server-client-boundary-patterns?slide=3 Next.js と同じ React 向けフルスタックフレームワークである  TanStack Start  に関するセッションです。まだ v1.0 未満でコミュニティや事例が少ない中、 実際に採用した新規プロダクトの設計知見 を聞ける貴重な内容でした。 loader と Server Functions の責務設計 TanStack Start を使う上で核心となるのが、この2つの責務をどう分けるかという問題です。 役割 loader ページ描画「前」に走る処理を書く場所 Server Functions クライアントから呼び出せるサーバー側の処理 Next.js ではこの2つの挙動がフレームワーク側であらかじめ決まっています。一方 TanStack Start は、どちらに何を書くかを 開発者自身が決める 設計です。 この違いは開発体験にも現れます。Next.js はキャッシュ挙動がフレームワーク内部で自動的に決まるため、「なぜデータが古いまま表示されるのか」を調べるために内部実装を読み込むことも少なくありません。TanStack Start はすべての挙動を自分たちのコードに明示する設計のため、 動作への理解を保ったまま開発できる というメリットがあります。 設計パターン:loader 編 loader 内の取得は最小限に留め、各コンポーネントが必要なデータを自分で取得する というアプローチです。 // loader では認証情報から tenantId だけを取り出すexport const Route = createFileRoute("/_authed/orders")({ loader: ({ context: { session } }) => ({ tenantId: session.tenantId }), component: OrdersPage,});// 各コンポーネントが useQuery で必要なデータを取得するfunction OrdersPage() { const { tenantId } = Route.useLoaderData(); const { data } = useSuspenseQuery(ordersQueryOptions(tenantId)); return ( <> <NotificationBadge /> {/* 子の中で useQuery */} <OrdersTable orders={data} /> <Recommendations /> {/* 子の中で useQuery */} </> );} // loader では認証情報から tenantId だけを取り出す export const Route = createFileRoute ( " /_authed/orders " )( { loader : ({ context : { session } }) => ( { tenantId : session . tenantId } ) , component : OrdersPage , } ) ; // 各コンポーネントが useQuery で必要なデータを取得する function OrdersPage () { const { tenantId } = Route . useLoaderData () ; const { data } = useSuspenseQuery ( ordersQueryOptions ( tenantId )) ; return ( <> < NotificationBadge /> { /* 子の中で useQuery */ } < OrdersTable orders ={ data } /> < Recommendations /> { /* 子の中で useQuery */ } </> ) ; } 設計パターン:Server Functions 編 ① 横断関心事は Middleware へ切り出す ログ出力や認証チェックなど、複数の Server Functions に共通する処理は handler に直接書かず、Middleware として分離します。 export const loggerMiddleware = createMiddleware({ type: "function" }).server( async ({ next, functionId }) => { const requestId = crypto.randomUUID(); logger.info({ requestId, functionId }, "handler:start"); return next({ context: { requestId } }); },); export const loggerMiddleware = createMiddleware ( { type : " function " } ) . server ( async ({ next , functionId }) => { const requestId = crypto . randomUUID () ; logger . info ( { requestId , functionId }, " handler:start " ) ; return next ( { context : { requestId } } ) ; }, ) ; ② handler にはロジックや I/O の詳細を直接書かない handler は「受け取って委譲する」だけにとどめ、実装の詳細は別の関数に任せます。 export const saveOrder = createServerFn({ method: "POST" }) .middleware([loggerMiddleware]) // 横断関心事 .inputValidator(saveOrderInputSchema) // 入力の検証 .handler(async ({ data }) => upsertOrder(data), // ロジックは別関数へ委譲 export const saveOrder = createServerFn ( { method : " POST " } ) . middleware ([loggerMiddleware]) // 横断関心事 . inputValidator (saveOrderInputSchema) // 入力の検証 . handler ( async ({ data }) => upsertOrder (data) , // ロジックは別関数へ委譲 この設計により責務が自然と分離され、人間にも AI にも読みやすいコードベースが実現できます。 まとめ もし TanStack Start を新規プロダクトへ導入するとしたら、Next.js との最大の違いは「フレームワークに動作を任せるか、自分たちで明示するか」という設計思想の差です。 使い分けの目安としては、SEOや高速な初期表示が求められるサービス、またはチームに Next.js の知見が豊富な場合は Next.js が無難です。一方、複雑なサーバー/クライアント間のデータフローを自分たちで制御したい場合や、コードベースの挙動を隅々まで把握したい場合は TanStack Start が向いているといえます。 Next.js に慣れ親しんでいるほど、最初は自由度の高さに戸惑うかもしれません。しかし今回紹介した設計パターンを最初から取り入れることで、コードベースの見通しを保ったまま開発をスタートできます。 「なぜこの挙動になるのか」を把握したまま開発したい新規プロダクトにおいて、TanStack Start は有力な選択肢になりそうです。 セッション感想② AI時代に考える、Branded Types で実現する堅牢な型付け セッション概要 https://2026.tskaigi.org/talks/62 スピーカー 池奥裕太 / @yuta-ike スライド資料 https://www.docswell.com/s/4136989/Z6NJ78-tskaigi2026#p1 TypeScript の中でもさらに厳格な型定義を行う Branded Types について、その意義と具体的な魅力をわかりやすく解説したセッションでした。 型チェックの意義 まず前提として、型チェックには4つのパターンがあります。 実装 型チェック 評価 正しい 通る 嬉しい 間違っている 通らない 正常 正しい 通らない よくある・辛い 間違っている 通る 一番避けたい 「実装が間違っているのに型チェックが通る」とは、たとえば次のようなケースです。 <em>// 足し算関数 (number + number → number)</em>function add(a: number, b: number): number { return 0; // 常に 0 を返す} < em > // 足し算関数 (number + number → number)</em> function add ( a : number , b : number ): number { return 0 ; // 常に 0 を返す } 足し算を期待しているのに常に  0  が返ってくる実装ですが、戻り値の型は  number  として正しいため、型チェックでは検知できません。 これは極端な例ですが、AI に実装を依頼した際に「パッと見は問題なさそうだが、よく読むと意図した処理になっていない」という経験をした方もいるのではないでしょうか。こうした問題に対処するために、より厳格な型定義が求められます。そこで有効なのが Branded Types です。 Branded Types とは 同じ構造を持ちながら意味合いの異なる型(例: User  と  Book )を区別するために、架空のプロパティ  __type  を付与して型を識別する手法です。 User  型を期待する引数に  Book  型を渡そうとすると、型チェックでエラーになります。 function createUser(user: User) { ... }const book: Book = { id: getUUID(), name: "吾輩はエンジニアである", date: new Date(2000, 0, 1),} as Book;createUser(book); // TypeError: Book 型を User 型に代入できない function createUser ( user : User ) { ... } const book : Book = { id : getUUID () , name : " 吾輩はエンジニアである " , date : new Date ( 2000 , 0 , 1 ) , } as Book ; createUser (book) ; // TypeError: Book 型を User 型に代入できない プロダクト開発における Branded Types の使いどころ セッションでは、Branded Types を効果的に活用するための方針として2つが紹介されていました。 ① ドメインモデルを区別する 変数名で区別できれば理想的ですが、AI が  FailedUploadingFileId  のような丁寧な命名を常にしてくれるとは限りません。せいぜい  FailedFileId  程度になることも多いでしょう。Branded Types と型チェックを組み合わせることで、その区別をコードレベルで担保できます。 ② 値の状態や属性を表現する たとえばバックエンドへ送る  string  型の値に対して、「型チェック済み」「ドメインチェック(記号を含まないなど)済み」という条件を本当に満たしているかどうかは、通常の型定義だけでは保証できません。Branded Types を使うことで、こうした「チェック済みの状態」を型として表現できます。 Branded Types によって型安全なコードを書くことで、コードの前後を読まなければ判断できなかった要素を、型定義を見るだけで把握できるようになります。 まとめ AI コーディングが普及した今、コードを書く速さよりも「AI が生成したコードを正しく検証できるか」が重要になっています。Branded Types が注目されている背景には、まさにこの変化があると考えています。 型定義を厳格にしておくことで、AI が生成したコードが意図通りかどうかを、コードを細かく読まなくても型チェックの段階で検知できるようになります。「関数の引数・戻り値の型を厳格に定義する」「副作用を持たせない」といった方針がレビューコスト削減につながる事例として挙がっている中で、Branded Types はこうした流れと特に相性の良いアプローチです。 「AI に実装を任せる機会が増えた」と感じている方ほど、導入を検討する価値があるといえるでしょう。 企業ブース 今年も1日目にかなりの数を回らせていただきました! 去年とは違い、スタンプラリーは企業名別に区切られておらず、どのブースに行っているかの進捗を忘れてしまうことがしばしばありました... (今年はラムネがとても多かったです。嬉しい) セッション感想に力を入れ過ぎて、文字数がかなり多くなってしまったので、今回は1社さんだけの紹介になります... テイラー株式会社 テイラー株式会社は、TSKaigiに参加されている企業の中で特に印象に残った会社です。TypeScriptの特徴的な事業活用事例を持つ会社で、その内容がとても興味深かったのでご紹介します。 具体的には、エンタープライズ向けの大規模なERPを10倍の速さで構築できる、世界初のヘッドレスERPプラットフォームを事業として提供しています。 会社ページ ERP(Enterprise Resource Planning)とは、企業の基幹業務(会計・在庫・人事・販売など)を一元管理するシステムのことで、MicrosoftやFreeeなどのサービスが有名です。 しかも、このプラットフォームは会社独自のReactアプリケーションフレームワークで開発されており、その保守運用はもちろん、専門エンジニアとして開発サポートも担っているとのことでした。 独自フレームワーク(app-shell)のリポジトリ 会社の事業として独自のフレームワークを開発するだけでなく、その開発サポート、つまりテックリード的なことも担っているというのは、エンジニアとして琴線に触れるものがありました。 TSKaigiに参加して 去年よりもAIの活用をからめたセッションもありましたが、それ以上に型定義を厳格にするBranded Typesや最近出てきたTanstack Startに関する内容が複数あったのが驚きでした。 特にBranded Typesに関してはAIに実装を任せることが多くなったからこそ、型チェックを通した品質の担保に注目されているのかな、と感じています。 去年に引き続き、セッションや企業ブースでTypeScriptやフロントエンドの流行を学ぶことができ、とても貴重な経験になりました! 業務はもちろんプライベートでの開発モチベにも繋がったので、これからも開発に励んでいきたい所存です。 おまけ 去年に引き続き、サプライ品がとても良かったので、社員証に付けさせていただいてます! 今年は先端がカラビナ(?)になっており、付けやすくなっていました。ありがとうございます。 また、1日目のオープニングが終わった直後、見覚えのあるキーボードを見かけてお声かけした際、Xで一方的に存じ上げてた某モテるWeztermの人とお話しすることができました! モテるターミナルにカスタマイズしよう(WezTerm) 特徴的なキーボードは名刺になります() ←Weztermの方のキーボード  私のキーボード→
はじめに ITD1部開発3課のO.Aです! 先日2日間にわたって開催された、TSKaigi2026に会社のメンバーと参加してきました。 TSKaigiとは 日本最大級 のTypeScriptをテーマとした技術カンファレンス。 TypeScriptに関する幅広いテーマを取り上げ、特定のライブラリやフレームワーク、フロントエンドやバックエンドなどの領域に限定せず、様々な分野のTypeScriptエンジニアの学びや活用事例を知ることができます。 今年で 3年目 になります。 ミッション 学び、繋がり、”型”を破ろう 公式サイト: https://2026.tskaigi.org/ イベント概要 日時 2026 5/22(Fri) - 5/23(Sat) 場所 ベルサール羽田空港 スケジュール 公式スケジュールは こちら 参加したセッション Day セッション名 登壇者 概要 1 tscからtsgoへ ── DenoのTypeScript基盤はどう変わったか maguro DenoがTypeScript基盤をtscからtsgoへ移行する過程と技術的変化について 1 業務に残された「よくない型」で考える「TypeScriptの難しさ」 Saji 実務で遭遇する不適切な型定義を題材に、TypeScriptの型設計の難しさと改善を考察 1 権限チェックの一貫性を型で守る TypeScript による多層防御 北川 直昭 型システムを活用して権限チェックの一貫性を保証し、多層防御を実現する設計パターン 1 型の深宇宙へ飛び込め ─ tscを遅くする記述パターンの全解剖 ─ dowod TypeScriptコンパイラを遅くする型記述パターンを網羅的に分析 1 決定論的な型チェックへ:Go 製コンパイラによる10倍速の裏側で --stableTypeOrdering から見える並列化への挑戦 えーたろー tsgoの並列化における型チェックの決定論性の課題と--stableTypeOrderingの意味 1 アンチパターンを避ける型駆動React最適化 Kazuya Serizawa 型情報を活用してReactのパフォーマンスアンチパターンを回避する手法 1 Stage 3 Decorators でできること / できないこと susisu TC39 Stage 3 Decoratorsの仕様で実現可能なこと・制約・実用パターンの整理 1 密結合なバックエンドから TypeScript のコードを生成する kemuridama バックエンドと密結合した環境からTypeScriptの型定義やクライアントコードを自動生成する手法 1 TypeSpecで繋ぐ複数プロダクトの型安全 — スキーマ共有による「型契約」の実践 mitsui TypeSpecを用いて複数プロダクト間でスキーマを共有し、型安全なAPI契約を実現する事例 1 TypeScriptの型はAIに届いているか? ― AIコーディングツール検証で見えた届き方の差 shotaro AIコーディングツールがTypeScriptの型情報をどの程度活用できているかの検証 1 Zod v4 Codec でスキーマに型変換を埋め込む REST API 設計 Ryutaro Yako Zod v4のCodec機能を使い、バリデーションと型変換をスキーマに統合するAPI設計 1 TS 7: How We Got There Jake Bailey TypeScript 7(tsgo)に至るまでの開発経緯。TypeScriptチームによるGo移植の技術的決断と道のり 2 制約と時代から読み解くTypeScriptコンパイラ設計史 Yoshiaki Togami TypeScriptコンパイラの設計がどのような制約・時代背景のもとで進化してきたかを読み解く 2 React の props は値の集合ではない — UI の状態を宣言するコンポーネント設計 nabeliwo propsを単なる値の集合ではなくUIの状態宣言として捉え直すコンポーネント設計論 2 型プラグインシステムの実装に使われるテクニック elecdeer TypeScriptの型システムを活用したプラグインアーキテクチャの実装テクニック 2 Auth.jsからBetter Authへの移行に見る「型とランタイム」の設計思想の変化 宇根昇汰 Auth.jsからBetter Authへの移行を通じて見える、型安全性とランタイム設計思想の違い 2 AI活用の格差をなくす:チーム全体のAI開発生産性を底上げする方法 中津川篤司 チーム内のAI活用スキル格差を解消し、全体の開発生産性を向上させるアプローチ 2 AI Agent に"攻略本"を渡したら、150フォームの移行が回り始めた話 高橋悟生 AIエージェントに移行ガイドを与えて150フォームの大規模移行を効率化した実践事例 2 AIコーディングエージェントの活用で、コードは静かに肥大化した —— 型・Lint・Skillsで挽回する10分 篠田 陽介 AIコーディングによるコード肥大化問題と、型・Lint・Skillsによる品質 維持の戦略 2 TypeScriptで実現する既存APIを活用したリモートMCPサーバー構築 鈴木翔大 TypeScriptで既存APIをラップしたリモートMCPサーバーを構築する方法 2 「バイトル」のTypeScriptリニューアル — 積み上がったレガシーとパフォーマンスに挑む現在地 横山 隼 大規模サービス「バイトル」のTypeScriptリニューアルにおけるレガシー対応とパフォーマンス改善 2 ts-morph でプロジェクト固有のアーキテクチャガードレールを作る msuto / Michimasa Suto ts-morphを使ってプロジェクト固有のアーキテクチャルールを自動検証する仕組みの構築 2 typescript-goで変わるリンターの世界 — Flintという第三の選択肢 Tamasho Tomoya tsgoの登場で変化するリンターエコシステムと、新たな選択肢「Flint」の紹介 2 Polymorphic Components パターンで作る、型安全でセマンティックな UI コンポーネント ryo Polymorphic Componentsパターンによる型安全かつセマンティックなUIコンポーネント設計 2 AI時代に考える、Branded Typesで実現する堅牢な型付け 池奥裕太/@yuta-ike AI時代においてBranded Typesが果たす役割と、堅牢な型付けの実践パターン 2 次世代リンターで探る、tsgo 時代における型認識カスタムルールの現実解 Yuta Takahashi tsgo時代に型認識カスタムルールをどう運用するか。Go バックエンドルール PoCと現実的な振り分け戦略 2 TypeScript7 - 非推奨設定から読む責務の変化 Ayu TypeScript 7で非推奨となった設定項目から読み解く、コンパイラの責務の変化 2 TypeScript Compiler はどのように未使用変数を検出しているのか? つねみ@tocomi TypeScriptコンパイラの未使用変数検出メカニズムの内部実装を解説 2 プロパティの順序で型推論が壊れる!? TS6.0 の修正から Context-Sensitivity の仕組みを追う おおいし (bicstone) プロパティ順序による型推論の不具合とTS6.0での修正を通じてContext-Sensitivityの仕組みを解説 2 OST (Open Space Technology) TSKaigi運営 参加者主導のオープンディスカッション形式セッション 以下、特に実践的だと思ったセッションや印象に残った出来事について書きます。 業務に残された「よくない型」で考える「TypeScriptの難しさ」 登壇者: Saji (サイボウズ株式会社 / フロントエンドエンジニア) 資料: https://speakerdeck.com/sajikix/ye-wu-nican-sareta-liang-kunaixing-dekao-eru-typescriptnonan-sisa 要約 TSによる失敗パターンにはパターンがある -> そのパターンこそが TSの難しさ => プロダクトのよくない型(any, asによるcast, @ts-ignoreで型チェック無視、雑な型ガード)をAIで探すとおおよそ3つのパターンに分けられ細かくわけると 7つ に分類できた 1. 動的な境界での型落ち 1. DOM Event/ catch (e) 2. unknownでasでキャストしてしまう 3. 文字列 -> Branded型 / リテラル型の限界 2. 動的な配列・Object変換 1. Array.filter / includes / isArrayの絞り込み 2. Object.fromEntries / Object.keys 3. unionの扱いの難しさ 1. 対応させたい値を別に組み立ててしまう 2. 引数のUnionから返り値を推論しづらい 解決策様々 helperや型ガードをちゃんとかく(かけるものは書くことをチーム(orAI)で規約に) typeとvalueなど本来1対1で対応している型はセットで生成し、d-unionが使えるようにする設計に overload関数でなんとかする etc… リントで規約化したり、ガイドラインにチェックリストなど明記し、AIに同じ妥協を再生産させないことや定期的な棚卸しをする(させる)ことが運用面で大事! 感想 会場で頷いている人が多いと司会の方も言われていましたが、確かにあるあると思いましたし、こうして、改めて明示的にパターン列挙されると数もこんなもので、みんながハマるポイントって同じなんだなという気持ちになりました。 改善策の大半は、ヘルパー関数、型ガード、overloadを開発者それぞれが意識して書いて担保する必要があるというのは昔から変わらない気がしますが、AI協業を考えるとより仕組み化させることの重要性を意識させられました。 unionの難しい型解決に関してはバージョンアップでより便利になると嬉しいですね…。 アンチパターンを避ける型駆動React最適化 登壇者: Kazuya Serizawa (株式会社PeopleX) 資料: https://speakerdeck.com/seriseri/tskaigi-2026-antipatanwobi-keruxing-qu-dong-reactzui-shi-hua 要約 ReactCompilerはこれまで人間が手動で行なってきた最適化(不要な再レンダリングを防ぐためのメモ化)を肩代わりしてくれる。 => コンパイラの仕組みを読み解き、より最適化されやすいコードを書くことが今後重要。 最適化されるか否かは 純粋性が証明できるか によって決まる。 最適化されるコードは結果として読みやすく、テストしやすく、壊れにくい。 ReactCompilerの中身を読み解くと、 React Compilerは何が何に依存するかの依存グラフとして読む。 依存グラフを使って、ReactiveScopeの概念を構築し、値の流れと再計算のキャッシュが必要な単位見ている。 依存構造でReactiveScopeを自動で発見すること => 我々がやること: コンパイラが依存構造を発見できる書き方をする(=純粋に書く) 純粋関数の条件 決定的であること(同じ入力に対して常に同じ出力を返す) 関数の外側に副作用(観測可能な可能性を一切与えない)がないこと <コードレビューでの上記のチェック観点> 1. 外部スコープの値を書き換えていないか 2. Propsや引数を破壊していないか 3. レンダー中に外の世界に値を渡していないか(ログ、API、DOM操作etc) アンチパターン コンパイラに諦められる4パターン(B >> C > AとDはベテランがよくふむ?) A. 副作用の混入(uuid, Date.now()…)-> hook, イベントハンドラに渡すのが正解 B. ミュータブル操作(sortは破壊的メソッド)-> スプレッド構文で一度コピーして展開する C. 参照不安定(境界を超える毎回new) D. 非決定的な依存(外部の可変参照 これらは型駆動で 仕組み化 して間違ったコードを書けなくすることが大事 Readonly でミュータブル操作を"書けなく"する 型で禁止すればコンパイラの検出を待たない 破壊的操作を思考から取り除く(型が思考のデフォルトを変える) Branded type と Pure <T> で純粋契約を型化 型でカバーしきれない部分(関数の振る舞いなど)はlinter(Biome, Oxc..)で守る。 => 型は 値と形 、lintは 振る舞いと規約 の安全性を守る 大規模プロジェクトの設計指針 副作用を持つ層(Effects)・純粋層(Domain)・UIを物理的に分ける 上記はコンパイラが最適化しやすい設計のため、設計の動機付けがより強くなった。 ~チームに残すルール~ ・副作用は専用フック/サービスに追い出す ・ドメイン関数はPureを強制 ・UIは純粋層の値を渡すだけ ・メモ化は書かない、書かせない←1番大事(lintでuseMemo/useCallback禁止) 感想 ReactCompiler、信じてるからな。(手動メモ、消します__) 「ReactCompilerの気持ちになって考えてみる」というセリフを別のセッションでも聞きましたし、今回のセッション内容でより、react19から登場したReactCompilerによってこれまで手動で行ってきたパフォーマンスチューニングから解放され綺麗なコードをかく意味合いが転換されたことを実感しました。 コンパイラのために純粋性を保つことが結果的に良い設計・良いコードにつながると言う視点は非常に納得感があり、業務ですぐ使える具体的なチェック観点やチームルールも多く紹介されており、大変勉強になりました。 その他 ランチ 今年もランチに出るお弁当の種類が日毎3種類くらい出ていて大変豪華でした。 鶏めし御膳人気すぎて一瞬でなくなっていた…。 スポンサーブース 今年は全部で77社のスポンサーがついているそうです(すごい) クイズやくじ引きなどを行なっているブースがあったり、初出展のブース企業の事業内容について聞いたり、AI導入やトレンドについて話したり普段こういった機会は中々ないので、大変刺激になりました。 ブーススタンプラリー 20個集めて抽選に参加!だったので回ってみましたが結果は参加賞(缶バッチ) エンジニアの願いが書かれた短冊 営業シミュレーションを体験する社内メンバー ソフトバンクのsatto事業開発本部 の エンジニアタイプ診断 皆さんもやってみてください。(自分は コードの預言者 でした。) 当日企画 昨年にはなかったセッション以外の企画も盛り沢山でした! ネイル スポンサーブースの片隅にネイルコーナーが。 TSカラーの青で頼んでいる男性がいたり、爪磨きだけ等もできるようだったので結構盛況していました。ネイリストさんに聞いてみるとこういったイベント出張はやはり珍しいとのことでしたが、GitHubやAWSイベントでもネイル企画があったらしいので最近流行りなんでしょうか? 自分はTSの水色に冒険する勇気出ず、普通にかわいいネイルをしてもらいました…^^; マッサージ マッサージも常に待ち列が。 マッサージ師さんが常駐されており、遠方から来ている人などはリフレッシュできて良さそうでした。 公式頒布物 今年は参加特典としてTシャツだけでなく、参加者1人1枚NFCカードが貰えました。 (最近名刺がわりにしている人もたまに見かけるのですが、専用アプリで、自分のサイトURLなど登録しておくとスマホなどでカード読み取ればさっとリンク先に飛べるようになるものです) OSTなどのエンジニア交流で即役に立ち、記念品・実用性両面兼ね備えたナイスな特典でよかったです。 参加してみて 今年で3年目となるTSKaigiですが、昨年に引き続き参加してみて、連年で参加したイベントも初めてなのもあり、昨年と比較してさまざまな面で大きな変化を感じることができたイベントだったと思います。 チケットが即完するスピード感に始まり、協賛スポンサーの増加、企画が様々増えていることなども実際に現地へ足を運んで昨年よりもレベルアップしているのを感じました。 内容に関しては、昨年は突如到来したAIバイブコーディングの波や、開催直前に出たtsgo previewがセンセーショナルな話題として圧倒されていたのが懐かしいですが、昨年は突如到来したAIバイブコーディングの波や、開催直前に出たtsgo previewがセンセーショナルな話題として圧倒されていたのが懐かしいですが、AIを活用することは前提として扱われていて、1年という短い期間でありながら、この1年の進歩がいかに怒涛であったかを実感しました。 基調講演では、TypeScriptコンパイラのGo移植を主導したMicrosoftのJake Bailey氏が登壇され、TypeScriptコンパイラをGoに移植する1年半の取り組みについてお話しされました。移植戦略の中でお話しされていた、約1万5,000個のスナップショットテストと差分ファジングによって「振る舞いを変えずに移植する」開発スピードと安全性を担保した手法が印象的であったのと、公式リリースされたtsgoによるライブでのコンパイル速度比較デモ(VS Codeで125秒→10秒、約12倍)も披露されました。 同時に、複数のセッション内容が同じテーマについて触れられていた(ReactCompiler, BrandedTypes...)のも特徴的で、エコシステムのデファクトスタンダードな話題としてわかりやすい年だったように思います。 OSTでは、外部エンジニアとこれからのキャリアや技術選定の悩みについて話したりなどしましたが、カンファレンスとしては他のコミュニティよりまだまだ若いので、着実に成長・輪を広げているTSコミュニティに引き続き注目、参加していきたいと思いました。 セッションの内容も実務に活かせそうな内容のものも多かったので、今回得た知見を業務に取り入れながら今後もキャッチアップしていきたいと思います。 今回の参加レポートが、TypeScriptを学びたい方やTSKaigiに興味があるけど参加したことがない方など、少しでもTypeScript に触れるきっかけになれば嬉しいです。 ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
はじめに デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 AIソリューション部 データサイエンス1課のN.Rです。 2026年4月22日から24日にかけてラスベガスで開催された  Google Cloud Next '26  に参加してきました! 本記事では、今年のNext で注目を集めたテーマのひとつである 「Gemini Enterprise Agent Platform」  について紹介します。 Google Cloud Next '26 ってどんなイベント? Google Cloud Next は、Google Cloud が主催する年次テックカンファレンスです。世界中のエンジニアや企業関係者が集まり、クラウドの最新動向や新しいプロダクト・技術が発表される一大イベントとして知られています。 イベントの幕開けを飾る Keynote では、Google のリーダー陣による重要な発表や大規模なデモが行われ、会場は大盛り上がりでした! 今年は 2026年4月22日〜24日 の3日間、ラスベガスの Mandalay Bay Convention Center で開催され、 今年のテーマは 「The Agentic Era(エージェント時代)」。AI が「会話するツール」から「自律的に行動するエージェント」へと進化したことを象徴するイベント でした。 3日間のプログラム構成 各自聞きたい講演を事前に予約して、いろんな情報収集することができます。 Next は単なる講演イベントではなく、多様な形式のプログラムで構成されています。 プログラム 概要 Keynote イベントの方向性を決める基調講演です。CEO Thomas Kurian 氏による Opening Keynote と、エンジニア向けの Developer Keynote を含む計3本が行われました。新プロダクトの発表や大規模デモが披露される、まさにイベントの「顔」です。 Spotlight 特定テーマを深掘りする中規模セッションになります! Breakout Session AI・データ・セキュリティ・インフラなど幅広いテーマをカバーし、Q&A で登壇者に直接質問もできます。 Workshop ハンズオン形式の実践型セッションです。Googler やパートナー企業の開発者から直接指導を受けながら手を動かせます。人気なので、予約が取れないです! Discussion 少人数のラウンドテーブル形式です。参加者同士で特定テーマについて議論する感じです。 Solution Talk あらかじめ設定された課題に対して Googler が解決策を順を追って解説するセッション。実践的なアーキテクチャの参考になります。 Lightning Talk Developer Theater で行われる約20分の短時間デモ。最新トピックをサクッとキャッチアップできます。 Expo スポンサー・パートナー企業が出展する展示エリアです。最新プロダクトのライブデモを体験したり、エキスパートに直接相談できます。 Keynote はオンラインでもライブ配信されますが、Workshop で Googler に直接質問したり、Expo で最新デモに触れたり、Discussion で他の参加者と議論できるのは 現地参加ならではです。 私は、Workshopに一番参加したかったのですが、予約がとれず、Keynote、Spotlight 、Breakout Sessionをメインに参加してました! 今回は、Keynoteで発表された、 Gemini Enterprise Agent Platformについて紹介します! Gemini Enterprise Agent Platform とは 従来の  Vertex AI  から名称変更され、エージェント開発者向けの統合支援プラットフォームとして生まれ変わりました。 まさか名称変更されるとは、気に入っていたので少し寂しかったです。。。 Agent Platform は以下の  4つの柱  で構成されています。 柱 役割 主なサービス Build エージェントの開発 ADK / Agent Studio / MCP Scale エージェントの実行・スケール Agent Runtime Govern 認証・アクセス制御 Agent Registry / Agent Gateway Optimize 監視・可観測性 Agent Observability 開発から運用まで、エージェントのライフサイクル全体をカバーする構成です。 Vertex AIの時は、MLモデルも扱う感じでしたが、一気にエージェントのツールに振り切った印象を受けました! エージェント開発の選択肢 — ADK と Agent Studio エージェントの開発手法は  コードベース  と  ローコード  の2種類が用意されています。 Agent Studio(ローコード) Agent Platform 上の UI で開発できるローコードツールです。 自然言語で入力するだけでエージェントを開発 できるようになりました! 作成したエージェントのコードも見れるので、コードを書く人にとってもありがたい仕様になっております。 現在プレビュー版で、機能が後日追加な部分がありますが、これからの機能追加に期待です! Agent Development Kit(コードベース) Python・Java・Go・TypeScript の  4言語  に対応し、詳細なカスタマイズが可能な開発キットです。 本格的にAIエージェントを開発するなら、ADK ** の方が優れています。 今回、 ADK 2.0** がベータ版でリリースされました。2.0からグラフベースのエージェント設計ができるようになり、条件分岐などに対応可能になりました。現場でエージェントを扱うためには必要な構造です! エージェントの実行基盤 — Agent Runtime エージェントの実行環境は  3種類  用意されています。 実行環境 特徴 適用シーン Agent Runtime エージェント特化のマネージド環境。最大3,000エージェント同時実行、最大7日間の長期実行、Memory Bank標準搭載 本番運用・大規模デプロイ Cloud Run コンテナベースの汎用実行環境 カスタムランタイムでの柔軟なデプロイ GKE Kubernetes基盤。GPU対応やカスタムネットワーク構成が可能 大規模オーケストレーション 中でも  Agent Runtime  は、最大3,000エージェント同時実行、最大7日間の長期実行と、長時間稼働もできる環境になっており、現場でエージェントを稼働させるための環境といった印象を受けました! また、セッション管理・Memory Bank等のメモリ系も標準搭載されている点はすごく驚きました。エージェント専用のDBとかを別で作らなくていいのは、手間が省けますね。 Memory Bank — エージェントの長期記憶 個人的に、今回のイベントで  最も注目した機能  が Memory Bank です。 セッション機能との違い セッション機能と何が違うのかというと、用途も少し違いますが、 セッションが短期記憶とMemoryBankが長期記憶のイメージでした! 比較項目 セッション機能 Memory Bank 記憶の範囲 単一セッション内の会話のみ セッション横断で永続的に保持 保持期間 セッション終了時に消失 長期的に保持・蓄積 主な用途 会話中の文脈維持 ユーザーの好み・ビジネスルールの学習 デモで見た活用例 Next の会場では、 服のレコメンドエージェント  のデモが印象的でした。 ユーザーの好みの色や嫌いな色を Memory Bank に保存することで、次回以降は何も説明しなくても、好みが反映されたレコメンドが自動で生成されていました。 これは  パーソナライズ AI エージェント  実現の鍵になる機能だと感じます。 Govern & Optimize — エージェントの統合管理 エージェントを本番運用するうえで欠かせない、 セキュリティ・ガバナンス・可観測性を統合した管理基盤も発表されました。 機能 特徴 ステータス Agent Registry エージェント・MCPサーバー・ツールの統合カタログ Preview Agent Gateway トラフィックや権限、アクセス制御 Preview Agent Observability エージェントの挙動の可視化・追跡 Preview 認証・登録・通信制御からパフォーマンス監視まで、包括的な運用管理が実現できる構成になっています。 エージェントの本番運用となると、運用構成や、監視の仕組みが重要になってくるので、ここら辺の機能については、社内でも知見を深めていきたいですね! まとめ 今年の Google Cloud Next は「AIエージェントを現場へ」というメッセージが 全体を貫いており、開発・実行・管理の各層で具体的なツールが揃ってきた印象です。 特に印象的だったのが、Memory Bank によるパーソナライズの可能性です。 デモでは、ユーザーの好みをエージェントが継続的に記憶し、次回以降の提案に自然に反映する様子が紹介されていました。単発の会話にとどまらず、パーソナライズした提案ができるような仕組みは、興味が湧きました! 一方で、こうしたエージェントを実際のプロダクトとして運用していくためには、開発だけでなく運用面の設計が重要になります。エージェントが業務の中核に入り込んでいくほど、これらの運用基盤の重要性はさらに高まっていきます。だからこそ、単に新しい機能として捉えるのではなく、実運用を見据えた技術として理解を深めていく必要があると感じました。 今後は、こうした運用構成や監視の仕組みについても社内で知見を蓄積しながら、どのように自社サービスへ適用できるかを具体的に検討していきたいと考えています! 来年行く人へ 講演を聞くのも楽しいですが、手を動かすのも楽しいと思うので、ぜひWorkshopに参加して欲しいです。また、講演を予約せずに、Expoを見て回り、今回発表された機能を間近で見れるブースがあり、社員に近い距離で質問できるのでこれもイベントの楽しみ方の選択肢の一つだなと思いました! ぜひ、来年のイベント参加の参考にしてください。 初めてラスベガスに訪れたのですが、やはり印象的なのが華やかな街並みでした! 今回の滞在中に訪れた有名な「ベラージオ」では、噴水ショーを見ることができました。 昼間はカンファレンスで最先端のテクノロジーに触れ、夜はこうしたエンターテインメントを体験できるのも、ラスベガス開催ならではの魅力だと感じました! 最後までお読みいただき、ありがとうございました!
はじめに  就職ITソリューション1課のM.Yです。  本記事では開発の実務経験がないまま上流工程の業務を担当することについての自分の考えを述べています。自分自身も(配属時から数えると)まだ3年も経験していない身で恐縮ですが、自分自身の振り返りも兼ねております。  なお、本記事についてはあくまで個人的な考えによるもので所属部署・PJの方針ではないことをご承知おきください。  想定読者  ・新卒入社や異動などをきっかけに、開発経験がないまま上流工程を担当することになった方  ・開発経験が浅い状態で、要求整理や要件定義、関係者との調整を担うことになった方  ・開発経験はあるものの、上流工程を経験するのが初めての方  筆者の経歴  ~2023年3月:学生時代情報工学を専攻  2023年4月:卒業後マイナビ新卒入社  2023年7月:現所属部署の前身となる部署に配属  2023年10月:デジ戦に部署ごと異動  現在に至る 担当業務  新卒就活サイト「マイナビ20XX」開発担当  ・社内外の関係者との調整業務  ・新規機能の要求整理・要件定義(要求定義書の作成など)  ・基本設計レビュー  ・企業専用画面デザイン制作ディレクション  ・外部連携システムとのテスト進行や各種調整業務    ..etc 開発実務経験がない新卒上流担当の置かれた状況  「開発実務経験がないまま上流工程を担当する」と聞いて、難しそうだと感じる方もいるかもしれません。  私自身も、配属当初は「本当に役割をこなせるのか」「内容を理解した上で要求・要件検討ができるのか」と不安を感じていました。  結論からというと「本人の努力次第でどうにかなりはするが、ハードルは高い」と言わざるを得ません。  まずは私自身がぶつかった、上流工程を担当するにあたってどういったハードルがあるのかについて述べたいと思います。  技術理解が浅い状態で要求・要件定義をしなければならない  インターンシップ等で就業経験のある方以外は、基本的に製造工程を経験しないまま現在の職務に就く形になり様々な壁にぶつかると思います。  私の場合、学生時代情報工学を専攻していましたし趣味でプログラムを書くくらいのことはしていましたが、実務レベルの技術理解がありませんでした。  実際に自分が困ったのは大きく下記の3つです。  技術選定の根拠となる前提知識や運用時の経験がないことにより、それらを想定した要求・要件検討が難しい  テスト設計時や障害発生時に押さえるべき「勘所」がわからず適切なテスト設計ができない  「勘所」がつかめておらず障害発生時に原因特定までに時間がかかってしまう  当社の場合は開発ベンダーさんに委託していたり、内製チームの皆さんに技術面のプロセスをお任せする場面も多く、承認などは上長やPM層が担うことが多いです。  そうした環境に加え、自分の場合は業務手順がある程度整っていたことや、先輩方のサポートを受けられる環境だったため、今となっては実務の中で少しずつ理解を深めていくことができました。  しかし配属当時は、先輩方にサポートいただきながらも、製造工程を経験されている方と比べると明確に理解度に差がある状態で業務に臨む形となってしまっていました。  しかしながら要件定義時の際にはある一定の理解度は求められます。事業部門に内容を理解した上で提案・説明する必要があったり、ベンダーさんとの要件定義を進めていく際にも、その内容が非機能要件も含めて当社側の要求を満たしているか等を判断する必要があるため、理解度が不足していると業務遂行に支障が出ます。  また、障害発生時には実際に手を動かすのがベンダーさんや内製部門の方であっても最終的に上流担当が内容を理解した上で対処・報告などをする必要があるため、そういった観点でも少しずつで良いので担当システムでどういった技術が採用されているかやシステム構成など、最低限技術理解を深められるように努力する必要があります。  さらに精神的な面で言うと、開発経験を積んできたというバックボーンがないままベンダーさんや事業部の担当者の方と(見かけ上は)ある程度対等にやり取りしなければならないというところも地味にきついです。  配属された当時の自分の場合、会議中事業部の方に「〇〇って技術的に可能なんですか?」と質問された際に、たとえ技術的に正しい知識を持っていて回答できる状態にあったとしても確信を持てず、なんとか「△△という方法で可能です」と回答するという経験がよくありました。  もちろん上長のバックアップのもとで対応しているため、仮に自分の認識が不十分でもフォローしていただける環境ではありました。  ただ、当時は技術的な内容を自信を持って説明することに難しさを感じる場面も多く、周囲の支援を受けながら少しずつ伝え方や整理の仕方を身につけていきました。 あくまで私の経験ではありますが、ここまで述べたように新卒で上流工程を担当する以上、最初のうちはこうした場面を避けるのは難しいと思います。  ビジネススキルが身についていない状態での調整業務  どんな職種にも言えることではあるのですが、ビジネススキルが身についていない状態で社内外のステークホルダーとのやり取りをしないといけないため最初は大変だと思います。  案件によっては職位の高い方との会議のファシリテーションなど新卒目線では中々つらい業務もあったりします。  (相手方は優しく見守ってくれる方が大半なので実はそこまで気にしなくても良いかも)  この問題は新卒であれば誰しも経験することなので気にしすぎも良くないですが、問題はそんな状態で要件定義などが絡む会議に参加したり、メールやチケットでのやり取りを行う必要があるということです。  曲がりなりにもそのPJを担当するということは当然自分自身が矢面に立って相手とやり取りする場面も多くなります。特に社外の方とやり取りする場合はこちらが経験が浅いということは関係ない訳ですから、可能な限り適切なやり取りが求められます。  自分の場合は、ビジネス会話・文書のスキルが十分でない中、「伝えるべき内容」「やりとりする相手ごとに適した伝え方」などを考えながら話す・書く必要があったため最初は苦労した覚えがあります。  幸い私は会議などで矢面に立ちやり取りすること自体は緊張はほとんど感じないタイプでしたが、前述の経験不足からくる不安や失礼な物言いをしていないかというところで緊張してしまうこともしばしばありました。  どう乗り越えるべきか  ここまですごく脅すような文章を書いてしまって申し訳ないのですが、自分が乗り越えるためにしたことを共有したいと思います。人によって対処の仕方は異なるかもしれませんが、自分が実際にやってきたことをそのままお伝えします。  技術理解の浅さに対してのアプローチ  私の場合、所属部署には他社でさまざまな経験を積まれた方が多く、技術面ではそうした経験豊富な方々に相談しながら理解を深めてきました。ただ、わからないことを分からないままにはしないようにしています。  例えば、ベンダーさんとの会議で知らない単語が出てきたら裏で検索したり、後で資料を読んでみたりなどしています。また、配属当時は「会議中にわからない単語を10個以上はメモして後で調べるか質問する」といったこともしていました。  幸い自分は情報工学の基礎知識はあり調べればある程度の概念は理解できるため、今では要件検討や運用に最低限必要なレベルではそれほど困ってはいませんが、配属当時は右も左もわからずで、「何が分からないかも分からない」という状態だったので前述したように部署の先輩や上長に質問することで何とかついていくようにはしていました。  また、インシデント対応についても積極的に拾うようにしていました。  所属部署では専門の運用チームが存在するため、基本的にはその方々に検知も含め1次対応などをお任せしてしまうことが多いのですが、開発チームも全く対応しないということはなく検知した人が拾ってそのまま対応、または運用チームに引き継ぐといったこともそこそこあります。  特に自身が担当した改修や担当領域に関連するインシデントついては担当者が対応した方がスムーズですし、規模や影響が大きいインシデントの場合は担当など関係なく早期の対応が求められるためこのような形態になっているのですが、その方針に則る形で自分なりに成長できるような取り組みを行うようにしていました。  もちろん配属当初は「自分の担当」と言えるものはほとんどなかったですし、周りの方がインシデント対応されていても何をしているのかさっぱりだったのですが、その中でもできることとして、  メールやチケットにて事業部などから問い合わせがあった場合に拾ってインシデント対応用の全体チャットに投げる(検知)  当該インシデントに関連する担当者が誰か調べてお繋ぎする( 地味に重要 ) 先輩方が対応している間にたとえ役にたたなくとも自分なりに設計書などを参照し調査してみる  検知から対応までの流れを見て学習する  といったことを実践していました。  これにより、インシデント対応業務の理解が深まるのはもちろん、副次効果として「運用側の気持ち」や「仕様の把握」、「何が原因で障害が発生するのか」など、要件定義にもつながる知見を得ることができます。  (自分自身も最近やっとそれらが身になってきたかも…?と感じるくらいのレベルですが…) ビジネススキル不足に対してのアプローチ  こちらについては正直上流担当かどうかはあまり関係ないのですが、社内外含めステークホルダーが多い環境でどのように乗り越えていったかも含めお伝えできればと思います。  前提として、事業会社側の上流担当はたいていの場合「事業部門の担当者の方」「ベンダーなどの委託先」「社内の内製部門の方々」とやり取りすることがほとんどです。  実際に私の場合、社内の人間以外とは事業会社側の担当者としてやり取りすることが多いです。  一方で、そうした環境では、経験が浅いうちは無知ゆえに相手との関係性や適切な距離感を十分に理解しきれないままやり取りしてしまうことで失礼な言動をしてしまっていないかを気にすることもありました。  ただ、そもそもきちんとした文章を書いたり相手に伝わる話し方ができないと、相手に失礼かどうか以前に上流工程担当としての業務進行に支障が出ます。もちろん言葉遣いなどは新卒研修などで学んだりしているため問題ないと思いますが、実務に入ってみると一般的なビジネスマナーの他にも覚えることはたくさんあり、相手によってコミュニケーションの方法を切り替えたり伝える内容を調整することを身に着けるなど中々研修だけでは学びきれないことも必要になってきます。  あるいはビジネス用語を知らないことで、会議で周りが何を言ってるのかわからないなんてことあったりします。  例えば私の場合、「トルツメ(取ってつめる)」という単語が分からず先輩に聞いたりしていました。(今思うと恥ずかしい) こういった用語は今となっては当たり前に使うものですが、今思えばこういったビジネスシーンで多用される用語を研修で学んだりはしていなかったなと思います。しかも要件定義の場では「トルツメ」という用語はかなり出てくるため知らないとそこそこ困っていただろうことを考えると地味に重要かもしれません。  こういった状況で、文体が不自然で相手に伝わりづらい文章を書いてしまったり、喋り慣れていないために会議で発言に詰まったりしていましたが、その中で私が取り組んだこととしては、  とにかく先輩方のコミュニケーション(文章・口頭問わず)を観察し、真似る  組織構造を理解し、どの組織が何を担っているのかを知っておく(特に事業部側) 分からない単語があれば調べてそれでもわからなければ恥ずかしがらずに周りに聞く(社内用語か一般用語かも確認する) 最初のうちは文章を書くにも、会議で喋るにもしっかりと準備をする(先輩への推敲依頼、会議の練習など) アサーティブコミュニケーションを学ぶ  といったことを実践していました。  とにかく真似る、質問する、準備することを念頭に置いて業務に臨むことで業務に必要な知識を得ることや仕事の型を学ぶことはもちろん、「先輩と同じやり方でやる」「質問して疑問点を無くす」「準備をしてコミュニケーションへの不安をなくす」ことで精神的にも健全な状態で業務に臨めたかなと思います。  ちなみに、アサーティブコミュニケーションとはどんな立場の人とも敬意を持ったうえで対等に接するためのコミュニケーション手法で、上流工程業務では特に重要なスキルだと個人的には考えています。  職務上様々な立場の方とやり取りすることが多く、社内外問わず職位の高い方やベテランの方など、若手からすると接し方が難しい方とも合意をとってPJを推進することが求められることもあります。  立場や経験の違いによって遠慮しすぎたり、逆に一方的な伝え方になってしまったりすると、業務遂行に支障が出ることもあります。だからこそ、相手を尊重しながら必要なことを適切に伝える力を身につけることは、とても大切だと思っています。  相手に伝わりやすい文章の書き方や話し方なども学ぶことができるので、そういった面でも非常に役に立つと思います。  まとめ  自分が配属当時に苦労した経験をもとに、同じような立場の方に少しでも参考になればとここまで書きましたがいかがでしたでしょうか。  今回ご紹介したアプローチについては個別具体的な内容も含まれておりますが、一貫して重要だと私が考えるのは「分からないことはすぐに調べる・質問する」「先輩方のやり方を観察・真似をする」ということです。  自分だけで抱え込みすぎようとするとつらくなりますし、上手く行きづらいと思っています。自分なりにやってみることも大切ですが、まずは先輩方に色々聞いてみる、真似するということをやってみた上で自分なりに考えながら業務を進めてみると仕事の覚えも早いですし、課題解決もしやすいのかなと思います。自分も今回の記事を書くにあたって初心に帰って業務に向き合おうと思いました。(そもそもまだまだ若輩の身ですが…) 以上、ここまでお読みいただきありがとうございました。 
このシリーズでは、当社のデジタルテクノロジー戦略本部(デジ戦)に所属する社員が、「なぜ当社を選んだのか」「入社して何を感じたのか」を率直にお届けします。入社前の期待や不安、入社後のギャップや魅力を通じて、働く環境を具体的にイメージしていただける内容です。 ■執筆者プロフィール職業:PdM社会人歴:9年目(※2026年現在)マイナビ歴:1年目(※2026年現在)所属組織:デジタルテクノロジー戦略本部前職:経営コンサル、教育系スタートアップ、フリーランス/起業など ■執筆者プロフィール 職業:PdM 社会人歴:9年目(※2026年現在) マイナビ歴:1年目(※2026年現在) 所属組織:デジタルテクノロジー戦略本部 前職:経営コンサル、教育系スタートアップ、フリーランス/起業など はじめに PdMやサービス/UXデザイナー等、サービス/プロダクトづくりに携わり、次の一歩を考えている方のキャリア検討の一助になればと思い、本記事を書いています。 プロフィールとこれまでのキャリア 現在は、マイナビのデジタルを横断する組織であるデジタルテクノロジー戦略本部(以下、デジ戦)にて、各種プロダクトのプロダクトマネジメントを担当しています。 これまでのキャリアとしては、コンサルティング会社やスタートアップで、ビジネス戦略からサービス/UXデザインまでの領域を中心に仕事をしてきました もともと、学生時代に国際開発や移民教育を学んでいたこともあり、 生まれた国や環境に依らず、人がその人らしく幸せに生きる仕組みを創る をテーマに、 教育やヘルスケアなど、人の人生に深く関わる領域(個人的には「ライフエクスペリエンス」と呼んでいます)のサービス/プロダクトに関わってきました。 転職を考えたきっかけと自分のキャリアの軸 転職を考えたのは、30代に入り、 自分の得意や興味が明確になってきたタイミングで、 もっと自分を活かして働きたい と思ったことが大きかったです。 20代は夢中になれるものを探し続け、目の前の仕事にひたすら取り組んできました。 その中でようやく前述したテーマに加え、自分の 好き= サービス/プロダクトの全体構想からユーザー体験まで一気通貫で設計する 得意= 複数ステークホルダーを巻き込み、全体を交通整理しながら、チームで共創する が見えてきました。 転職前の直近は個人で働くことが多かったですが、 自分の特性を、より活かせる環境で働きたいと考え、 環境を変えることを決意しました。 転職活動で重視していたこと 転職活動では、主に以下の3点を軸にしていました。 自分の専門性(サービス/プロダクト創り)を活かし、伸ばせること 人のライフエクスペリエンスに関わるサービス/プロダクトに携われること 中長期で腰を据え、サステイナブルに仕事ができること 具体的には、HR/教育/ヘルスケア領域の事業会社・スタートアップや、サービスデザイン/UX領域のコンサルティング会社等を検討していました。 マイナビに決めた理由 最終的にマイナビに決めた理由は、大きく3つあります。 1.プロダクトマネジメントに専門的に取り組める デジ戦はデジタルの専門組織であり、PdM業務にどっぷり浸かることができます。そのため、これまで自分が培ってきた専門性を活かせると感じました。また、自己研鑽のための研修、資格取得、PdM間のナレッジ共有が推奨されており、持続的に力を伸ばしていけることも魅力的に感じました。 2.人のライフエクスペリエンスに深く関わるサービス/プロダクトがたくさんある マイナビは新卒の就職活動サイトのイメージが強いかもしれないですが、実は学生から社会人まで、人の人生の様々な局面に携わるサービス/プロダクトをBtoC/BtoB共に多数展開しています。自分のテーマである「人のライフエクスペリエンス」に対して、複数のサービス/プロダクトを通してアプローチできることに魅力を感じました。 3.生活と両立しながら柔軟に働ける環境 マイナビにはリモートワークや時差出勤など柔軟な働き方が可能で、メリハリを持って働ける環境があります。家庭と両立して働かれている方も多く、自分の今後のライフステージの変化も踏まえ、長期の目線で、良いコンディションで働くリズムを整えやすいと感じました。 上記に加えて、 マイナビの パーパス「一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。」と自分のテーマにつながり を感じたこと 選考を通じてお話させて頂いたチームの方が、柔らかく対話させて頂ける方たちばかりで、 「この人たちとなら、一緒にサービス/プロダクト創りができそう」 と思えたこと が最終的な決め手になりました。 入社前に感じていた不安 一方で、入社前にはいくつか不安もありました。 大きな事業会社のカルチャーに馴染めるか これまでの0→1中心の経験から、既存事業の改善・伸長にも貢献できるか 外部パートナーを含めた大規模なプロダクトマネジメントに適応できるか キャリア初期の転職とは異なり、何年か経験を重ねたからこそ 自分と会社が本当にフィットするか は気になるところではありました。 入社してみて感じたこと 会社・業務ともに徐々に慣れていっている最中ではありますが、 感じていた不安は解消されつつあるなと感じています。 まず、心配していたカルチャー面に関しては、 中途でも丁寧なオンボーディング があり、会社の事業内容や各部の取り組みをキャッチアップできる 特にデジ戦は、中途や異動など 多様なバックグラウンドを持つメンバー が集まっているため、自分自身の多様なバックグラウンドも受け入れてもらえる 経験・ポジションとのフィットについても、 サービス/プロダクトの種類もフェーズも多様 であるため、なにかしら自分の強みを活かせるプロジェクトがある デジ戦の組織自体も若く、 挑戦できる余白が多い と感じています。 また、入社して印象的だったのは、自社のプロダクト/サービスに対して、 日本の社会インフラ としての自負を持っている方が多いことです。学生から社会人、企業の方まで、日本全国の方々に長期的にご利用頂いているプロダクト/サービスを展開する、マイナビならではの視点だと感じました。 現在の業務と今後チャレンジしていきたいこと 現在は新卒採用領域の企業向けプロダクト等、複数サービス/プロダクトに携わらせて頂いています。事業部や海外の開発会社等、複数ステークホルダーの方と連携しながら仕事を進める機会が多く、 望んでいたチャレンジができている と感じています。 今後は、1つ1つの担当サービス/プロダクトでの経験を積みながら、 複数サービス/プロダクトを横断し、人の人生のあらゆるタッチポイントで、 その人が自分らしく生きられる仕組みをつくることに挑戦していきたい と考えています。 そしてこの挑戦は、既にユーザー様が多数いて、社内の開発・販売リソースがあるからこそできる挑戦だとも感じています。 これまで様々な環境に身を置いてきた自分だからこそ、 物事を大きく変える挑戦ができる時機はそうそう来ない ことも身に染みているので、 変化を生み出すことに挑戦できている今この瞬間を、後悔しないように仕事をしていきたいです。 最後に ここまでお読みいただき、ありがとうございました。 人にはそれぞれ大切にしたいものがあり、キャリアのかたちも様々だと思います。 読んでくださったあなたのキャリア、人生がよりよいものになることを祈っております。 ご興味を持っていただけた方は、是非お気軽にご連絡ください^^ 採用情報について デジ戦では、現在一緒に働くメンバーを募集しています。 詳細な仕事内容や募集職種、働く環境については、 採用ページ をご確認ください。
はじめに ITD2-2-3のI.Hです。今回、RubyKaigi 2026 in 函館に参加する機会をいただきました。 RubyKaigiは、Ruby本体やエコシステムに関する最新の知見が集まる技術カンファレンスです。 今回の参加を通して、Rubyそのものについて学べたのはもちろん、他社エンジニアとの交流やスポンサーイベントでのLT登壇など、普段の業務だけでは得られない多くの経験をすることができました。 この記事では、Rubyに関する知見の共有だけでなく、技術イベントに参加すること自体の意味や価値についてもあわせてまとめました。 Day0(イベント前日) 函館に前日入り 場所が北海道の函館と言うことで、当日出発では間に合わないため前日の夜に出発しました。 空港に到着すると、空港の至る所にRubyKaigiの看板や垂れ幕がありました。 また、路面電車の車内外にもRubyKaigiの看板が。町おこしさながらの盛り上がりでした。 空港で明らかにrubyistの方(第一rubyist)を見かけたので、タクシーに相乗りしました。 有名なラーメン屋さんで降りるとのことだったので、一緒に食べながら技術の話やお互いの会社の制度・AIツールの導入状況などに花を咲かせました。 Day1 会場へ 会場は、JR函館駅から市電で30分ほどの場所にある「 函館サーモン・まるなまアリーナ/ホール 」でした。命名権を地元の水産会社が取得されたらしく、函館感全開の良い会場名とロゴになってました。 チェックインすると、首から掛けるストラップと名札をいただきました。 会場で「どこの会社の方ですか?」と度々聞かれるので弊社のロゴを手書き。 なんとか伝わりました。 基調講演 The Journey of Box Building 発表資料はこちら 初日の講演は、rubyコミッターでもある田籠 聡さんの基調講演から始まりました。 内容は、2025年12月25日にリリースされた  Ruby4.0.0  の新機能の一つである、 Ruby::Box  についてでした。 Ruby Boxはクラス等の定義の分離/隔離のための機能を提供する、実験的機能です。 実験的な機能として位置付けられているとのことでしたが、安全にコードの分離ができるようになる点は業務にも活かせそうでした。 Exploring RuboCop with MCP 発表資料はこちら Keynote以外の公演は基本的に大ホール・小ホール・サブアリーナで行われ、同時刻に開催される講演に同時に参加することはできないため、タイムスケジュールと発表内容を見て選ぶ形式でした。 英語での講演も多く、同時翻訳アプリで聴くことにも挑戦しましたが、やはり日本語の講演の方が理解しやすく、自然と日本語の講演を選ぶことが多かったです。 そんな中で、初日の午後に参加した伊藤浩一さんの RuboCop  x MCPの話が印象に残りました。 RuboCopは人間や他のプログラムによってトリガーされていました。AI時代においては、AIエージェントが新たなトリガーとして登場しました。本講演では、生成型AIとリンターおよびフォーマッターを組み合わせる実践的な方法について議論します。 決定性がLinterとしての価値だった中で、非決定性を持つLLMを組み合わせることでどんな価値が創出できるのか(又は失われるのか)という試行錯誤の話が面白く、こういったイベントに参加して直接コミッターの方のお話を聞く醍醐味だと感じました。 Day2 基調講演 Twenty Years of JRuby 2日目は20年以上 JRuby (Java仮想マシン上で動作するRubyの処理系)を開発している、Charles Nutterさんの基調講演から始まりました。 内容はJRuby が誕生してからの20周年の振り返りと、JRuby 10.1 のリリースについてでした。 業務を含めこれまでCRuby(C言語で実装されたRubyの処理系)しか触ったことがなかったのですが、JRubyやMRubyのような別の処理系にも興味が湧きました。 Practical TypeProf: Lessons from Analyzing Optcarrot 発表資料はこちら 2日目は TypeProf 開発者の 遠藤侑介さん の講演が印象に残りました。 メインの話は、TypeProfを実際に適用してみた事例です。題材に選ばれたのは、発表者自身が開発したRubyで書かれたNES(ファミコン)のエミュレータで、約6000 行の複雑なコードに TypeProf を適用したところ600個以上のエラーが出たとのことです。 対応としては、型推論結果に強く影響する箇所にRBSを書くことと、TypeProf 側の誤認識の根本原因を直すことの2方向から進められ、最終的には Ruby 55行+RBS 67行、合計122行の変更でゼロエラーに到達したとのことでした。SteepやSorbetと比べても、既存コードへの変更量がかなり少ないという結果でした。 終盤では、AI コーディングエージェントが普及する中でTypeProfをどう位置づけるのか、という問いも提示されていました。エディタ支援を主目的としてきたツールが、AI 時代にどんな価値を持てるのかという点についても言及されていました。 Day2の交流会 2日目の夜は、Drink Upに参加し、LT枠が空いていたので発表しました。 3日目のRubyKaigiがより面白く聞けるようにと思い、Rubyが実行されるプロセスをParserの話からGCの話まで、一通りまとめてみました。 資料は marp  + Opus4.6で作成 Day3 Lightning-Fast Method Calls with Ruby 4.1 ZJIT 発表資料はこちら RubyKaigi最終日は、 国分崇志 さんのZJITの講演が印象に残りました。 注目度の高い ZJIT ですが、今回の発表では特にメソッド呼び出しの高速化に焦点が当てられていました。 Rubyでは依然としてメソッド呼び出しのオーバーヘッドが大きく(動的型付けだから仕方ないが)、YJIT によって改善が進んできた現在でも、なお大きなボトルネックとして残っているそうです。ZJIT ではこの処理の最適化が大きなテーマになっており、バックトレースや例外処理、ローカル変数アクセスに必要なメタデータをどう保持しつつ、無駄なメモリライトを減らすかが論点になっていました。 そこで紹介されていたのがLightweight Framesでした。これは、メソッド呼び出し時に必要なフレーム情報を最初からすべてメモリに書き込むのではなく、必要になるまで遅延させ、まずは最小限の情報だけを持つことでコストを下げるアプローチです。 Rubyの柔軟な書き心地は維持しつつ、高速に動くようにしていく取り組みをしていただいてる事に感謝です Matz Keynote もちろん最後は、Rubyを作った「 まつもと ゆきひろ 」さん(Matz)の基調講演でした。 ここ半年くらいは自分でコードを書かずに、ほぼ全てAIに書かせるという縛りを自らに課しているとのことでした。コードレビューやプロンプトを細かく制御できるからこそできる事だと思いますが、実務の現場でもAIエージェントは欠かせない存在になってきているのではないでしょうか。 そんな中で大きなトピックは、新しいRubyのAOTコンパイラ「 Spinel 」の発表です。RubyコードをC言語に変換してからコンパイルすることで、ネイティブバイナリを生成するという試みで、すぐに業務レベルで役立てられるものではなさそうですが、インタプリタ言語×AOTコンパイルという発想と開発過程が興味深かったです。(Rubyは動的機能が多いので、機械語にできる=高速化ではないことに注意してください) まとめ RubyKaigiに行って良かったと思う1番のポイントは、Rubyやプログラミングが大好きな人達の「熱」を感じられたことでした。普段「仕事」としてプログラミングをしていると商業的な観点で価値を測り測かられる癖がついてしまって、楽しいとか知的探求という側面を忘れていたなぁと思いました。 また、現地での他社のエンジニアとの交流も刺激的でした。今まで自分がマイナビ色に染まっている自覚はありませんでしたが、他社のエンジニアと交流すると明らかに各社個性というか雰囲気があって、たまには視野を広げるためにも交流して新しい知見を持ち帰ってくる必要があると感じました。
法人ディベロップメント課の S・Sです。 マイナビBiz / LIVING の新規開発・保守運用を行なっております。 今回は、下記のような、私と同じような不安をお持ちの方に向けて、書いています。 「エンジニアの仕事は、いつかAIに取って変わられるのでは?という淡い不安が、実際の業務内でAIエージェント利用が定着化してきて、いよいよ現実味を帯びて焦っている」 「かといって、 実際にAIエージェントの有能さも肌感覚で感じているので、この大波にどのように立ち向かったらいいのかが分からない ...」 はっきり言って、誰しもが、AIエージェントの普及、そしてその先に、どんな未来が来るかが100%分かる人はいないかなと思います。 が、あくまで個人的に、こんな向き合い方をしたらいいのでは?ということをカンタンにまとめて、前向きな気持ちで、今できることを進めていけたらいいなと思っています。 この記事で、 少しでもAI社会におけるキャリアの不安が和ぎ、精神衛生や業務パフォーマンス、あわよくば、その先の未来でも生き抜けるエンジニアに向かって、ナノマイクロレベルにでもなれば幸い です。 今回は、サクッとカンタンめにまとめていますが、さらに概要をつかんでいただくために、1枚絵を用意しましたので、お忙しい方はこちらをチラ見していただけたらと思います。 ここから先は、上記の概要を少しずつ補足していきます。 AIの強み弱み分析 まず、AI との向き合い方を考える上で、そもそも、AIの特徴を理解しなければ、向き合い用がありません。 なので、完璧に見えるAIの強み弱み分析をカンタンにしておきます。 AI の強み ざっくりと下記が、AI の強みかなと思っています。 大量のデータからのパターン発見 認知作業が高速で行える 70点前後のクオリティのアウトプットを高速で出せる 大量のデータからのパターン発見 AI は、渡したデータの文字列や数値、組み合わせ等を高速で処理ができ、パターン発見を高速で行えるのが強みだと思います。 人手で莫大なデータからパターンを見つけるのは至難の技なので、ここはもうAIには到底叶わない領域 ですね。 認知作業が高速で行える 1つ目と被る部分でもありますが、認知作業、つまり、 大量のデータから本質や構造を把握し、整理することが得意 です。 「このコードの資料の内容を要約して」 と依頼すると、あっという間に、本質を抽出して、人間の理解できる形でアウトプットしてもらえた経験は少なくないのかなと思います。 70点前後のクオリティのアウトプットを高速で出せる 主に、前述の2つの強みを駆使して、与えられたデータ、プロンプトを元に、ざっくり70点前後のクオリティのアウトプットが高速に出せます。 人が、 0 → 1 を生み出すのにはものすごいエネルギーと時間を要しますので、AI はここを凌駕してきている のかなと思います。 AI の弱み 境界条件や例外ケースに弱い 生成物の結果に責任を取れない データ、プロンプト依存が大きい 境界条件や例外ケースに弱い 細かい条件分岐や例外ケースを考慮してのアウトプットが苦手な傾向にあります。 人であれば、文脈や背景、ドメイン知識、経験を踏まえて適切に対応できますが、ここは 正確に細かく指示出しをしてあげないと抜け漏れが発生 します。 それでいて、 あたかも完璧なように、振る舞ってくる、かつ、アンカリング効果によって、境界条件や例外ケースを見過ごしたまま、成果物を完成させてしまう懸念 があります。 参考:  アンカリング効果とは?意味や活用シーンをわかりやすく解説 生成物の結果に責任を取れない 当たり前ですが、人が作ろうがAIが作ろうが、 最終成果物の責任は、企業や個人が負います 。 AI に「不具合の責任を取れ!」といった所で、プロンプト上で「申し訳ありませんでした。以後このようなことは....(ごにょごにょ)」という文字列が返ってくるだけですからね。。 データ、プロンプト依存が大きい AI はよく「 増幅器 」と言われることが多いです。 この通りで、インプットするデータの量・質、プロンプトによる指示出しの質に依存します。 つまり、 こちら側から良いインプットをしなければ、出てくる成果物も微妙になってしまう ということですね。 あくまで人が与えるものの質ありき 、ということかと思います。 AI との向き合い方 一言でまとめると、 ・AI の強みは最大限活用して、弱みの部分は、人間の強みを強化して補完するのが良い と考えます。 AI を最大限活用 AI の強みを活用し、下記を主に対応できると良いかなと思います。 大量の情報の整理 パターンで対応できる業務(手作業だと時間かかるもの) 設計書や実装などの叩き台作成 大量の情報の整理 大量の情報整理は、AI の得意領域です。 人が行うとエネルギーも時間も大量に使ってしまうので、AI に任せてしまうのが良さそう です。 与えるデータの質やプロンプトを正確に行いながら、その上で、過不足をチェックし合いながら共創することで良い成果物を出せるかなと思います。 パターンで対応できる業務(手作業だと時間かかるもの) パターン化された業務や作業は、AI は得意です。 ルールや例外、誤作動を防ぐプロンプトで制御しつつ、AI に任せてしまうのが良いかと思います。 設計書や実装などの叩き台作成 AIは、ざっくりと70点のクオリティを高速で出すのが得意です。 なので、 初期段階の設計書や実装の叩き台をお願いする のがいいかなと思います。 その上で、必要に応じてプロンプトで細かな指示出しをしたり、自身で思考・作業を行うことで、70点→ 100点を目指すのが良いかなと思います。 AI に勝る能力開発 AI を活用しつつ、人間として、どう立ち回るかについては、主に下記かなと考えます。 生身の良質な情報を蓄積していく セキュリティ、コンプライアンス/法律、倫理観を向上させる 技術的なアップデート情報のキャッチアップ(これまで通り) 生身の良質な情報を蓄積していく(一番重要) AIに依頼するにも、自らが作業をするにも、 大元のオリジンである「わたし」に、良質なインプットを蓄えるのが重要 だと考えています。 物事の良し悪しや生身で感じる感情や感覚、パターン化できない複雑で曖昧なもの、インターネットには出回っていないような1次情報などなど。 こういったものが、AIには補完できない部分かなと思います。 良し悪しですが、あえて人間としての至らなさや揺らぎがかえって良い成果物や味のあるもの、人間の心に響くものが作れる のではないのかなと思っています。 セキュリティ、コンプライアンス/法律、倫理観を向上させる AIの弱みでも書きましたが、 AIは、責任を取れません 。 一方で、アウトプットの数は増えるし、作業過程の一部をAIに任せてしまうことによるリスクは増えます。 さらに、悪意のある人が、AI を使った脆弱性をついてくるリスクも高まります。 (既に、Claude Mythos(クロード・ミュトス)は、世の中の大量の脆弱性を発見できるようです) それでも、 最終的には、人が責任を取ります。 なので、これまでよりも、さらに、セキュリティやコンプライアンス・法律・倫理観の向上が必要になります。 ここは、技術者としても技術力アップと併せて必須のスキルとして、知識/経験を深めていきたいですね。 技術的なアップデート情報のキャッチアップ(これまで通り) AI で出された成果物を最終確認する人として、 アウトプットが正しいのか、パフォーマンスや保守性を考えて最適なのか、を判断するために、技術的なアップデートは必要 です。 エンジニアには当たり前かもしれませんが、引き続き、いや、これまで以上にアップデートの質を高めていくべきだと考えます。 まとめ AI および、AIエージェントの発達で、アプリケーション開発の効率が劇的に上がっているのは嬉しい反面、セキュリティリスクや人間としての立ち回りについての課題が生まれてきていると感じています。 とはいえ、 悲観しているだけでは何も現状は変わらないので、想像力を働かせ続け、AIの力は借りつつも、人たる能力を高め続けて、AI と共存して良いものを生み出し続けていきたい と思います。 今回は、あくまでサッと思い浮かんだことをまとめてみましたが、もっと広く深く考え続けられるテーマかなと思いますので、日々考え、行動を止めずにいきたいですね。
はじめに 私たちが開発している GIJILOG(社員向け会議議事録生成AIサービス)では、Teams の会議を録音・文字起こしし、議事録を自動生成する機能を提供しています。 この機能を実装するにあたり、Microsoft Graph API を使って Teams の会議データをアプリと連携させる必要がありました。 その開発の中で、Graph API まわりでいくつかハマりどころがありました。本記事ではその経験をもとに、認証フローの設計・クエリパラメータの制約・データ構造の特性という3つのテーマについて整理しています。 Graph API 固有の話だけでなく、OAuth 2.0 + PKCE の実装パターンや OData クエリの扱いは他サービスとの連携でも活かせる内容だと思うので、ぜひ参考にしてみてください。 採用方式 GIJILOG は Next.js をベースとした BFF(Backend For Frontend)構成で構築しています。ユーザーの Microsoft アカウントと連携し、アクセストークンをサーバー側で安全に管理するため、以下の認証方式を採用しました。 OAuth 2.0 Authorization Code Flow + PKCE 外部サービスの API を呼び出すためのアクセストークンをユーザー委任で取得します。 PKCE(Proof Key for Code Exchange)は、BFF 構成での認可コードフローにおいて 認可コード横取り攻撃を防ぐために推奨されているセキュリティ拡張です。 認証フロー BFF 側エンドポイントの役割 エンドポイント 役割 GET /api/{service}/authorize PKCE パラメータ生成 → 認証 URL を返す GET /api/{service}/callback state 検証 → トークン交換 → Cookie 保存 → リダイレクト GET /api/{service}/session Cookie の有無で認証状態( authenticated: boolean )を返す プロバイダ管理画面での事前設定 callback エンドポイントの URL は、 プロバイダの管理画面にリダイレクト URI として事前登録 しておく必要があります。 未登録の URI へのリダイレクトはプロバイダ側で拒否されてしまうので注意してください。 Microsoft Graph API の場合は Azure Portal のアプリ登録画面(認証 > リダイレクト URI)で設定できます。 環境(開発・ステージング・本番)ごとに異なる URL を使う場合は、すべての環境の URI を登録しておきましょう。 Graph API クエリパラメータ Graph API は OData クエリオプションをサポートしていますが、 エンドポイントごとにサポートされるパラメータが異なります 。 未サポートのパラメータを使うとエラーになるため、各エンドポイントの対応状況を事前に確認しておくのがおすすめです。 カレンダーイベント一覧( GET /v1.0/me/events ) クエリパラメータ 対応 内容 $filter ✔ start/dateTime ge '...' and start/dateTime lt '...' で期間指定 $select ✔ 取得フィールドを限定 (例: id, subject, start, end, onlineMeeting, isOnlineMeeting) $orderby ✔ start/dateTime desc で開始日時の降順ソート $top ✔ 取得件数の上限指定。デフォルト10件。 1週間分を取りこぼさないよう 200件 に設定しています オンライン会議一覧( GET /v1.0/me/onlineMeetings ) クエリパラメータ 対応 内容 $filter ✔ joinWebUrl eq '...' で会議 URL を指定して絞り込み $top ✖ このエンドポイントでは使用不可 トランスクリプト一覧( GET /v1.0/me/onlineMeetings/{id}/transcripts ) ※トランスクリプト=会議の文字起こしデータ クエリパラメータ 対応 内容 $filter ✔ createdDateTime ge ... で取得範囲を絞り込み $top ✔ デフォルト10件、 上限100件 。 定例会議等で同一 URL にトランスクリプトが蓄積されることを考慮して 上限値の100件に設定しています トランスクリプトコンテンツ ( GET /v1.0/me/onlineMeetings/{id}/transcripts/{id}/content ) クエリパラメータ 対応 内容 $format ✔ レスポンスの形式を指定。 text/vtt を指定することで VTT 形式のテキストを取得できます データ構造と関連 Outlook のスケジュールイベント・オンライン会議・トランスクリプトは別々のリソースとして管理されており、それぞれ異なる API エンドポイントから取得します。 関連のポイント CalendarEvent → OnlineMeeting : 直接の外部キーは存在せず、 joinUrl (CalendarEvent)と joinWebUrl (OnlineMeeting)の値が一致することで紐付きます CalendarEvent と OnlineMeeting は多対1 : 定例開催や会議の複製で作成されたイベントは同じ会議 URL を共有するため、複数の CalendarEvent が1つの OnlineMeeting を指すことがあります OnlineMeeting → Transcript は1対多 : 録音の停止・再開によって複数の Transcript が生成されます CalendarEvent と Transcript は直接紐付いていない : Transcript の特定には、CalendarEvent のスケジュール時間と Transcript の録音時間のオーバーラップで判定する必要があります 問題:トランスクリプトの特定が困難になるケース CalendarEvent から Transcript を直接たどれない構造上、Outlook 内で下図のような状況が起こり得ます。 具体的なOutlook側のスケジュールだとこんな感じです   ← 要約データが表示される会議          要約データが表示されない会議 →     同一の会議 URL(OnlineMeeting)を使い回している場合、スケジュール時間内に複数の Transcript が存在することがあります。この場合、どの Transcript が対象かをオーバーラップの判定だけでは一意に特定できませんでした。 対応策:ユーザーによるトランスクリプト選択 前述の問題に対する根本的な解決として、現在ユーザーが手動でトランスクリプトを選択できる機能を実装中です。 具体的には、Teams 会議の参加 URL をもとに該当する OnlineMeeting に紐付くトランスクリプトの一覧を取得し、録音日時と長さをユーザーに提示します。ユーザーは一覧から連携したいトランスクリプトを選択することで、自動判定では特定できなかったケースにも対応できるようになります。 おわりに Graph API を使った Teams 連携を実装してみて、ドキュメントだけでは見えにくい挙動がいくつかありました。クエリパラメータのエンドポイントごとの制約や、イベント・オンライン会議・トランスクリプトが疎結合な構造になっている点はその典型で、上記のような対応策も含め、実際に手を動かして初めてわかることが多いと感じました。 同様の連携を検討している方のお役に立てれば嬉しいです。
Claude Codeで仕様書を書くようになって、初稿の作成時間は劇的に短くなりました。 しかしながら、運用してみると、 リリースまでのリードタイム全体はほとんど変わっていない ことに気づきました。 今回は、「初稿は速くなったのにリードタイムが減らない」現象がなぜ起きるのか、自分の現場での観察をもとに整理してみます。 体感は爆速、でも実は遅い 正直、具体値を測っているわけではないんですが、 「仕様作成までは、爆速でおわる、仕様調整に時間がかかる」 といった実感があります。 ↓イメージ 「AIで爆速になった!」という体感はあるんですが、それは初稿フェーズの話だけだったんですよね。 AIの品質はこれからも上がっていくと思いますが、それは初稿フェーズをさらに効率化するだけ。 合意形成フェーズに手を入れない限りリードタイム全体は変わりません 。むしろ初稿が速くなるほど、合意形成の比重がボトルネックとして目立ってきます。 原因は2つあった リードタイムが減らない理由は、2つに整理できました。 ① 意思決定が二重に走るフロー構造 レビューの意思決定が二重化されていて、両方の合意を取らないと前に進めない、というやつです。 (大き目の企業あるあるですね) 多くの組織で同じはずで、純粋なエンジニアリングの速さでは削れない領域なので、今回は深追いしません。 できる限り、フィードバックから修正のループを回すことを主題として話します ② レビューフォーマットの不一致 ← 今回の本題のため大切 これが地味だけど致命的でした。 AIが書くフォーマット =  Markdow (git差分が取れて、Claude Codeが直接編集できる、AI親和的) 既存の意思決定フォーマット =  Excel (AIが直接触れない、非AI親和的) このフォーマットの違いが、二重構造をボトルネックに変えてしまっていました。 「最初のレビューはMarkdownで完結できるはず」なのに... 初期レビューだけならMarkdownで完結できるはず 、それなのに、なぜか毎回Excelに変換している運用が多い。 なぜか。答えはシンプルで、 下流のレビューフォーマットがExcelで固定されているから です。どうせ最終的にExcel化するなら最初から変換しよう、という運用が定着してしまっているんじゃないかと思います... つまり、エクセルに変換することが前提になっていること自体が、 上流のAI親和性まで殺している 構造でした。下流のフォーマットが、上流のワークフロー全体を規定してしまっています。 問題は、 ワークフローの設計  そのものにあります。 症状:Excel への片方向変換問題 このフォーマット不一致が具体的に何を引き起こすか。 「片方向変換問題のつらみ」とこの記事の中では定義しましょうか。 ↓ Markdown → Excel 片方向変換問題のつらみ  流れはこんな感じです。 Claude Codeで仕様書をMarkdownで書く 下流に渡すために、Excelに変換する Excel上で内部レビューも下流レビューも全部やる Excel上で手書きで修正する 気がつくと、Excelが事実上の最新版になっている 問題は、 Excel上の手動修正をMarkdownに戻す方法がない (あるいは超面倒)ということ。セルに書き込まれたメモを、関連セルとの整合性を取りながら構造化されたMarkdownに反映するなんて、やってられません... 結果として、 改修ループからAIが外れます 。せっかくClaude Codeで書いたmdは古いまま放置されて、次の改修サイクルも結局Excel上で手動でやることに。 つまり、AIで初稿を作るメリットが  「初稿の1回しか効かない」 構造になってしまっていたんですね。これがリードタイムを減らせない本当の理由でした。 ↓ 合意形成の時間は変わってない,,, 理想のループを定義してみる じゃあどうあるべきか。理想のループを定義してみます。 ↓ AIもレビュアーも1つループに納めたい 4ステップで完結する形です。 AIで生成・修正する :Claude CodeでMarkdownのまま書く レビュアーにシームレスに共有する :Excelに変換せず、Markdownのまま読める形で レビュアーがコメントを返す :理想は直接編集も可能 AIがコメントを取り込んで反映する :Markdownの上で完結する そして1に戻る、というループです。 ここで決定的に大事なのは、 正本はずっとMarkdown(git)であり続ける ということ。図のとおり、一度もExcelに転記しません。 この前提が崩れた瞬間に、さっきの「片方向変換問題」に戻ってしまいます。Markdownを正本として保ち続けることが、AI改修ループを生かすための必要条件です。 「これって理想論じゃないですか?」と思う方もいるかもしれませんが、実装手段はこのあと詳細を詰めていきます。 ループを実現する3つの優先度 理想のループを実現するための要件を、3つの優先度に分解してみました。 優先度1:Markdownに寄せる これは譲れない最初の制約です。 Claude Code(AIエージェント)が直接触れる形式じゃないと、改修ループにAIを組み込めない 。 逆にこれさえ満たせれば、ツールは後から選び直せます。 これを諦めると「初稿だけAI、残り全部手動」の現状から抜け出せないので、これが一番重要です。 優先度2:レビュアーにシームレスに共有 + コメントしてもらう これを満たさないと、共有のたびにExcel化が発生してしまいます。 機能要件はざっくり3つ。 MarkdownとMermaid図がきれいに表示できる ページ単位 or ブロック単位でコメントできる 理想的にはインラインコメント(行単位の指摘)も可能 ここが本記事の本丸です。 実現方法としては、 表示だけなら 、静的サイトジェネレータでいけますね。Docusaurusを使えば見た目も整います。 コメント機能 は、BackLogのAPIやMCPで自動で転記して、そこでフィードバックしてもらうことがいいでしょうか。 ※社内のセキュリティー上、IPを制限した上で、社内公開する必要や特定のSassに頼らないといけないこともあるはず 優先度3:レビュアー側が直接編集できる これが一番難しい優先度です。コメントを返してもらうだけでなく、軽い文言修正はレビュアー側で直接やってもらいたい、というケース。 満たそうとすると、 双方向 git sync (自動同期)  ができる仕組みが必要になります。Web UIで編集 → 自動でgitに反映、という流れ。 具体的にはGitBook級の有料ドキュメント管理ツールが該当します。企業単位で導入すると、月額数百ドル規模の大きさにはなってしまいますが...(  https://www.gitbook.com/  ) 全部満たさなくていい ここで大事なのは、 3つを全部満たさなくていい ということ。 1(マークダウン正本)だけで十分 → 今のGitHubで終わる(無料) 2(共有とコメント)まで必要 → 静的サイト + BackLog等に手動アップロード(低コスト) 3(双方向修正と同期)まで必要 → 有料の専用ツール(要投資) 組織の現状と必要度に応じて、どこまで満たすかを決めればOKです。すべての組織が3を目指す必要はないと思っています。 問題解決のための個人的結論 2までを綺麗に再現するとなっても、 GitHubのシームレスな連携 + コメント機能 + アクセス制限 の機能を持ったサービスはなさそうでした… 唯一対応できる、gitbookはめちゃくちゃ高いです… (小規模のチームでも、全員に権限を付与するとなると、年に数十万はかかりそうでした...) それなら実装してしまえばよいのではないか、といった気持ちにはなっています。 以前であれば、これだけでお金をとれるようなサービスだったかと思いますが、このくらいの要件ならギリギリ内製できそうですかね  ↓cluadeにデザインしてみてもらいました まとめ 今回伝えたかったこととしては、2点です。 ① ツールが現在のAIを組み込んだフローに対応できているのかを考える 現状、意思決定フローにおいて、AIの良さがなくなっている可能性があります。 あらためて、現在のプロジェクトの意思決定構造や、設計フローを見直す必要があると考えています。 また、理想を定義した上で、社内で使えるならどの課題まで改善するか、ということをあらためて考えてみると面白いかもしれません。 ② 最も守るべきは「正本がMarkdownであり続けること」 これさえ守れれば、ツールはいつでも乗り換えられます。逆にこれを諦めると、AI改修ループが切れて、初稿の速さしか享受できない世界線に戻ります。 そしてMarkdown正本化は、レビュアー側にとっても「最新版がどれか分からない」「Excelに散らばったコメントを追えない」みたいな問題が消えるので、関係者全員にとってメリットのある話だと思っています。 AI時代のドキュメント問題は、ツール選定の話ではなく、 正本のフォーマットをどう守るか、今の組織の中で、開発フローをどう設計するか を根本的に考えなすことが大切だと思いました。
はじめに:AIに 取って代わられる 恐怖よりも、エンジニアとして学ぶべきことの多さに恐怖している 4月で、エンジニアとして4年目に突入しました。まだまだ、エンジニアとして未熟だと痛感する毎日でございます。私は、プロダクト開発に関わる傍ら、AIを組織に導入したりその後の活用を推進するプロジェクトにも属していました。 プロジェクトの進行で必要な知識をつけるために、AIモデルプロバイダーが発信する知識や、LT会・カンファレンス・社外の事例の記事を調べています。その中で感じているのは、エンジニアとして学ぶべきことの多さです。AIについて調査すればするほど、取って代わられる恐怖よりも、「これからエンジニアとしてこんなに学ばないといけないのか…?」と学ぶべきことの多さに戦慄しています。 2026年4月22日(水)に Sansan株式会社Eight主催のテックリードカンファレンス に参加しました。本記事では、そこで感じたことを、それを増強するための書籍・動画で発信されている知識と組み合わせてお伝えしようと思います。 左: 和田 卓人氏(タワーズ・クエスト株式会社 取締役社長) 右: 佐藤 治夫氏(株式会社ビープラウド 代表取締役社長) なお、本記事は 4ヶ月前に書いた記事(AI時代も変わらない、ソフトウェア開発の基礎) の続きという位置付けでもあります。基礎の重要性を改めて確認し、より具体的な「ではどうするか」に踏み込んでいく内容です。 TL;DR(この記事のまとめ) 「AIに取って代わられる恐怖」や「AI爆速開発の焦り」への対応は、分からないことを放置せず基礎をコツコツ学び続けること。 AIは「簡単さ(Easy)」を極限まで高めたが、システムを「シンプル(Simple)」にしてはくれない。複雑性を切り分け制御できるのは、ドメインや技術を深く理解している人間の役割である。 「1人でAIと爆速開発」というリソース効率の罠から抜け出し、モブプログラミングや Agent Skills による「チームでの意思決定と暗黙知の言語化」へ向かう。 AIエージェントとの関わり方:物的生産性から離れ、対象物を深く理解する カンファレンスでハッとさせられたのは、和田卓人氏の「 AIによる物的生産性に血眼になっているのではないか? 」という問いかけでした。 AIによってコードの記述スピードは劇的に上がりましたが、だからこそ「誰もいらないものを高速に作っても意味がない」状態になっています。和田氏は講演の中で、AIの登場によってプロトタイプを用いた価値の検証が容易になり、「 価値探索とプログラミングがかなり紐づいてきた 」と語っていました。コードを速く書くことではなく、対象物を深く理解し「何を作るか」を探索することに、エンジニアの主眼は移りつつあります。 この「 スピード(簡単さ)に溺れず、理解を優先する 」という姿勢の重要性は、世界的なソフトウェアエンジニアリングの潮流とも完全に一致しています。Netflix のエンジニア Jake Nations 氏による講演「 The Infinite Software Crisis 」では、次のように指摘されていました。 簡単(Easy)はシンプル(Simple)を意味しない。簡単とはシステムに素早く追加できることであり、シンプルとは自分のやった仕事を理解できることだ。簡単を選ぶたびに、私たちは「今のスピード」と引き換えに「後々の複雑さ」を選んでいる。AIは簡単さを極限まで高めたが、シンプルさを生み出すわけではない。 何を作るかを理解し設計することの難しさは、どのツールも排除できません。 また、「 Software Fundamentals Matter More Than Ever 」という講演でも、次のように語られていました。 「コードは安い」という言説は誤りである。悪いコードは今まで以上にコストが高い。変更しにくいコードベースは AI の恩恵を受けられない。 これは私が4ヶ月前に書いた記事でも触れた DORA レポートの「AI は増幅機」という主張と重なります。良いコードベースであるほど恩恵を受けやすく、悪いコードベースであるほど機能不全が拡大する。基礎の重要性は、AI 登場後にむしろ高まっています。 この点について、『ソフトウェアエンジニアガイドブック』(Gergely Orosz 著)の日本語版特別付録インタビュー(p.557)でも、次のように語られていました。 「問題は、経験の少ないエンジニアがAIに『主導権を握らせ』、AIが何をしているのか理解しないまま仕事を全部任せてみたくなるように誘惑されることです。したがって、『AIと共に学び続け、思考をAIに外注しないエンジニア』への需要は増加するものの、その供給はおそらく減少します!奇妙な時代が訪れることでしょう」 理解を放棄してAIに主導権を渡さない姿勢こそが、これからのエンジニアの価値を左右しそうです。 では、AIに主導権を渡さず、自分たちの理解を保ちながら開発するにはどうすればいいのか?  その具体的な対策として和田氏が推奨していたのが、 Test First でやる場所と、Red-Green-Refactor のように小さなサイクルで回す場所を分ける  ことでした。 エージェントに任せても良いと判断した領域では、ざっくりとした Test First で問題ない。一方で、人間がリアルタイムにレビューして品質を担保したい領域では、Diff(差分)の小さい TDD のステップを強制する方がよい。これは、人間が何千行ものファイルを一気にレビューして理解するのは現実的ではないからです。 AIの爆速な出力に流されず、人間の認知負荷を意図的に下げるために、理解できる範囲に留める仕組みとして、非常に納得感がありました。 開発速度の見直し:モブプログラミングの再評価とリソース効率の罠 AIの登場により、コーディング工程は劇的に短縮されたように感じる場面が多くなったのではないでしょうか。しかし、Tech Lead Conference 2026 でのSansan株式会社(笹川裕人氏)のセッションでも指摘されていたように、開発プロセス全体のボトルネックは「コーディング」から「レビューやテスト」へと移動しています。 かつてGitHubが普及した頃、「1人1ブランチで開発できる=リソース効率100%」という発想が、プルリクのレビュー待ちというボトルネックを生みました。今、「コーディングエージェントをN列並列で動かす」という発想も、全く同じパターンにはまる危険性があります。 真のボトルネックは、コードを書くことではなく、人間側の判断・レビュー能力です 。 この点について、和田卓人氏は別の対談動画( AI疲れとジュニアエンジニア育成、モブプログラミングの役割 )で、次のように語っています。 コーディングエージェントによって、実行責任はエージェントへ、説明責任・品質保証は人間へ、という役割分担になっていく。テックリードが担っていた判断の負荷が全員に降りてきた。 AIが多様な要求に対して提案を返してくる中で、その判断を一人で全部こなすのは現実的ではありません。そこで和田氏が推奨していたのが、 モブプロの実施 です。 AI によってコード生成は十分に速くなっていたとしたら、人間はペアやモブを組む余裕があるはずです。複数人でエージェントと関わり、即時に判断していく。この判断を複数人ですることで、知識移転(教育)も行える可能性について言及していました。 そして、この「リソース効率からフロー効率への転換」と「教育」の重要性は、別の動画( シニアのゲームに巻き込まれるな )でも触れられています。 「AIで1日のプルリク量が何倍に」「数日で個人開発アプリを完成」という SNS 投稿に踊らされてはいけない。シニアには元々の積み上げがあるため同じ土俵では勝てない、という主張は、私としては耳が痛い話でした。 圧倒的な積み上げがあるシニアエンジニアと同じ土俵で戦おうとすれば、経験の少ないエンジニアは疲弊し、学びの機会を失います。私も、特に言われたわけではないですが、物的生産性にとらわれて、AIにコード生成させたりレビューさせて、そのまま使うみたいなことがありました。これを、意図的にやっているというより、誰からも要求されていないのに、無理して成果を出そうとしていたなと反省しています。物的生産性を多少下げてでもモブプログラミングの場にジュニアを巻き込み、「チームとしての判断力」と「教育」を両立する構造を作ることが、AI時代には不可欠ではないかと考えています。 開発プロセス:変わらないものと、Agent Skills による専門知識の言語化 AI時代になっても、チーム開発のプロセス全てがひっくり返るわけではありません。Sansan株式会社(笹川裕人氏)のセッションでも、「スクラム等のプロセスの本質(経験的に起きる課題への対処法)は変わらない」とはっきり言語化されていました。 一方で大きく変わるのは、AIという新しいメンバーへの指示の出し方です。合同会社Have Fun Tech代表の曽根武友氏は、「 AI時代における具体と抽象の往復 - 日常にチャンスがある 」というセッションの中で次のように語っていました。 AIへの指示も、結局は人間同士のコミュニケーションと同じ原理。「いい感じにして」が伝わらないのは、プロンプトの抽象度と相手(AI)の抽象度が一致していないから。 具体化には知識が必要であり、相手のドメインで話すにはそのドメインの知識が要る。 この「『いい感じに』という抽象的な指示を具体的な手順に変換するための知識」の重要性は、Anthropicの講演「 Don't Build Agents, Build Skills Instead 」でも強く主張されています。エージェントという曖昧な存在にすべてを丸投げするのではなく、特定のタスクを遂行するための「Skills(専門知識のパッケージ)」を構築すべきだというのです。 AIに的確な指示を出すための「Agent Skills」の整備は、単なるツールの設定ではありません。 チーム内の暗黙知を言語化し、共有知にしていくプロセスそのもの なのです。 国内の企業では、すでにこの「個人の暗黙知から組織の共有知へ」という取り組みが始まっています。 株式会社タイミーでは、「 Agent Harness Group 」という組織を立ち上げ、「個のAI活用」から「組織のAI駆動開発(AI-DLC)実践」へと協業を推進しています。また株式会社LayerXでは、モバイルチームで「 Claude Code Subagents祭 」と題した社内イベントを開催し、属人化しがちなAIへの指示やプロンプトをチームの共有知へと昇華させています。 私自身が推進しているAIエージェント活用においても、ここが最大のポイントになると感じました。単にAIツールを導入するだけで終わらせるのではなく、 Agent Skillsという機能を、AIというメンバーに暗黙知を伝える手段や、組織のベストプラクティスを誰もが簡単に再現できる方法として利用するための仕組みを作っていきたい と考えています。それこそが、AI時代における組織の長期的な競争力の源泉になるはずです。 学習:焦らず、理解を放置しない AIエージェントがコードを爆速で生成してくれる時代において、私たちが個人として取り組むべき最も重要なアクションは、「分からないところを放っておかない」という基本的な学習姿勢です。 Tech Lead Conference 2026でのセッションを通じて、登壇者三者の主張が見事に一致していたのが、この「継続的な学習の重要性」でした。和田卓人氏は、学習について次のように語っていました。 新人は、焦らずに学んでいく必要がある。自分がわからないところを放っておかずにやっていく必要がある。質を下げればスピードが上がるわけではない。トレードオフなのは教育である。質とスピードを担保させるために、教育することが必要になる。 曽根武友氏も、AI が発展しても変わらないこととして「 抽象と具体の往復スキル、ドメイン知識、継続的な学習 」を挙げていました。仕事の形は変われど、この往復の精度を上げることが本質である、と。 さらに、Sansan株式会社 のセッションでも、エンジニアのキャリアパスについて語られていたところで、「 仕事の総量は変わらない——AI で効率化されても別の仕事が生まれる。継続的な学習の必要性は変わらない 」という言葉がありました。この三者の主張は完全に一致しています。 『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』の著者であるミノ駆動氏も、AI時代に漠然とした不安を抱えるエンジニアに対して、動画( AI時代に“伸びる人・終わる人”の決定的な差 )で次のように指摘しています。 漠然と不安に思っている人は、技術を学んでスキルアップすることが不安の解消に繋がっていると思えていないのではないか。不安を覚えるのなら勉強しましょう。 ミノ駆動氏は、AIは「ネット上の学習内容の平均」に収束する傾向があるため、設計的に問題のある構造でも技術知識がなければ素通りしてしまうと語っています。 AIが60〜70点のものしか出せないのは、指示する人間の基礎力(問題を見抜く力)が足りていないから でもあるのです。 また、ファインディ株式会社の高橋氏の動画( ジュニア育成と組織学習 )では、AI時代のエンジニア評価について、次のような組織側の変化が語られていました。 機能を何個作ったかっていうよりも、何を学んだかをアピールする時代になってきている。 これは個人の姿勢だけでなく、組織側にも問われることです。アウトプットの量だけを評価指標にすると、生成AIでいくらでも量産できてしまい、本当の力が見えなくなります。「何を学んだか」を評価し、基礎力を高め続ける仕組みを持っているかが、これからの人材育成の分かれ目になります。 最後に、和田卓人氏が別の対談動画の結びで語った、若手エンジニアに向けた言葉を引用します。 自分の能力をコツコツ上げていくことが、自分の競争力を上げていくことにそのままより大きく繋がる時代になってきたと思ってください。…(中略)… 焦らずにコツコツやっていけばいい。希望を持つ上でのコツは、人と比べないことです。比べるのは過去の自分です。 SNSを見れば、AIを使って爆速で開発している人がいくらでも目に入ります。しかし、そこで焦って理解を放棄するのではなく、自分の分からないところを放置せずにコツコツと基礎を積み上げていく。それこそが、AI時代を生き抜くための最強の生存戦略なのだと、改めて心に刻みたいと思います。 まとめ:教育とフロー効率を両立する3つの方向性 4つの観点を通じて感じたのは、ひとつの共通したメッセージでした。 AI は「理解の代替」ではなく「理解の加速器」として使う。 そのために、私たちが明日から取れる具体的なアクションは、以下の3つに整理できると考えています。 1. 物的生産性に流されず、対象への「理解」を深める姿勢と仕組み化 AIによる爆速なコード生成に流されず、「自分が理解できないもの」を放置しないことが第一歩です。分からない概念があればAIに説明させて基礎をコツコツ積み上げる「個人の学習姿勢」を持つと同時に、Test First でざっくり任せる領域と、Diffの小さいTDDのサイクルで回す領域を分け、人間の認知負荷を意図的に下げる「開発の仕組み」を取り入れること。アウトプットの量ではなく、「何を学び、どう理解したか」を重視する姿勢が問われます。 2. モブプログラミングによる判断とレビューの分散 一人がエージェントと対話して爆速で開発するリソース効率の罠から抜け出し、複数人のチームで専門性を持ち寄りながら判断するモデルへ。チームにジュニアが参加することで意思決定の OJT にもなる——教育とフロー効率の両立策として、今後試していきたい方法論です。 3. Agent Skills による組織のベストプラクティスの再現 「いい感じに」という抽象的な指示を具体的な手順に変換する Agent Skills は、単なるツールの設定ではありません。 チームのベストプラクティスを「AIという新しいメンバー」に伝える手段 として捉え直す必要があります。 実際に、株式会社タイミー では「 Agent Harness Group 」を立ち上げて AI との協業を組織的に推進していますし、株式会社LayerX では「 SubAgent 勉強会 」という知識共有の場を作っています。誰もが組織のベストプラクティスを簡単に再現できる仕組みを、社内でも作っていきたいと考えています。 おわりに AI にとってかわられる恐怖よりも、学ぶべきことの多さに恐怖している——というのは、裏返せば「学べば学ぶほど武器になる」ということでもあります。Tech Lead Conference 2026 で登壇者たちが口を揃えて言っていたのは、「 基礎知識を持つ人間がこれまで以上に価値を持つ 」ということでした。 特に4年目という、中途半端な立ち位置にいる自分にとって、和田卓人氏の「焦らずコツコツ自分の能力を上げていけば、それがそのまま競争力につながる時代になってきた」という言葉は、強い励みになりました。 焦らず、分からないところを放っておかず、基礎をコツコツ積み上げていく。その上で、AI を理解の加速器として使う。それがAI時代にエンジニアとして今後も活躍するための必要な考えかもしれません。 最後まで読んでいただきありがとうございました。
アナリティクス推進課の新井です。当課は、マイナビ全社のデータ活用/BI活用推進のため、TableauやPower BIのビジネス部門への導入支援、ツール利用サポートを行っています。 はじめに マイナビでは、BIツールの運用においてTableauを使う部門とPower BIを使う部門の両方が存在します。利用者には利用者の要望や都合があるため、アナリティクス推進課として利用するBIツールを制限していません。従って、BIツール活用の推進を行う当課としては、TableauとPower BIのどちらのツールに対しても知見を持つことが求められます。世間一般のビジネスデータ活用シーンからすると少数派の環境だと思いますが、なかなかおもしろい経験が得られます。 私がBIツールを使い始めたのはTableauが先でしたが、現在はPower BIを併用し始めてから時間も経ち、一定の知見がたまってきた感覚があります。また当社の本格的なBIツール導入もTableauの方が先でしたが、後発のPower BI利用者も増えてきており、どちらのツールに対しても導入支援や問い合わせ対応を行っています。このようにTableauとPower BIの両ツールを併用していると、Power BIを使っているときに「Tableauだったら○○の機能でできるからあっちの方が使いやすいな…」と感じたり、またその逆も起こり得ます。そこで今回は、実際に両ツールを使いながら私が感じた「UX(ユーザー体験)における大きな印象の違い」を1つご紹介します。なお本記事では、 BIツールを利用する上でのテクニックに関する話は出てきません! (すみません) Tableauを利用したデータ加工~ビジュアライズ Tableauにおけるデータ加工はTableau Desktopでも行うことが可能ですが、複雑な加工や大規模な処理を行う場合はTableau Prep Builderを使う方が効率的です。両ツールは役割分担・住み分けが明確であり、 基本的に、データの加工はPrep、ビジュアライズはDesktopで行ってくださいというTableau(Salesforce社)からのメッセージを感じます 。 常にPrepとDesktopの両方を起動させておく必要はありませんが、状況によっては両方起動させなければならないこともあり、その場合両ツールを稼働させる分メモリも使うのでPCの動作が重いと感じることもあります。加えて「 両ツール間を行ったり来たりしなければならない 」という心理的な負荷も少し感じます(これは個人差もあると思いますが)。 以下の画面は、Prepで作成中のフローにおいて、フローの途中時点でデータがどうなっているか確認しようとしているところですが、ポップアップメニューに「Tableau Desktopでプレビュー」と表示されています。ここをクリックすると、Tableau Desktopが起動し、フローの途中時点のデータがDesktopで読み込まれた状態になります。そのままグラフ化などの検証を行うことが可能です。 ボタンなどのUIの原則として「クリック後に何が起こるか分からない曖昧な表現のテキスト、説明文を記載すべきではない」という考え方がありますが、この「Tableau Desktopでプレビュー」という記載は、クリック後に何が起きるかが分かりやすく、親切な表現であると言えます。 Power BIを利用したデータ加工~ビジュアライズ 一方、Power BIを使ってビジュアライズを行う場合、その前段階となるデータ加工はPower BI Desktop内の「データの変換」機能で行うことができます。この機能を使って大元のデータソースを読み込み、変換・加工処理を行い、Power BI内に読み込んでいきます。読み込み完了後にモデルビューで複数テーブル間のリレーションをはることもできますが、リレーションはあくまで論理結合であり、簡易的な関係性を持たせるに留まります。物理的な結合を行う場合は、「データの変換」機能の中で行うことができます。このあたりの概念は、Tableauに似ていると感じます。 …ということで、ここまで読んだ方は「Power BIはデータ加工とビジュアライズが1つのツールの中で完結するんだ」という印象を受けると思うのですが、実はこれは100%正確ではなく、「データの変換」は実は Power Queryエディターという別のツールが起動し、その中で行われます 。 以下のキャプチャのとおり、データの変換はPower BI Desktopのウィンドウ内で行われる機能ではなく、新しいウィンドウが開かれそちらで行われるもので、そのウィンドウにPower Queryエディターと明記されています。 UI/UXの違いから勝手に推察する、Microsoftの設計思想 「なんだ、じゃあ結局TableauとPower BIのどちらも、データ加工用ツールとビジュアライズ用のツールを使い分ける必要があるってことね」と思った方が多いと思います。それは正しいです。ただ私は、Microsoftには「 ユーザーにデータ加工ツールとビジュアライズツールの2つを別々に使っていると感じさせないUI/UX設計をしよう 」という狙いがあるのではないかと推察しています。 たとえば、Power BI Desktopでデータ加工をしようとしたときにクリックするのは、前述のとおり「データの変換」ボタンです。これはオリジナルである英語版も同様の表現で、「Transform Data」となっています。 日本版 英語版 UIの原則を考えると、この部分のテキストは前述のTableauパートで挙げた例のように「Power Queryでデータを変換する」であってもいいはずで、多少冗長ですがPower Queryエディターが起動することを教えてあげた方が親切であるとも考えられます。他社製品ではないのだから製品名を伏せる必要もありません。ただ、あえてなのかそうでないのかは分かりませんが、Power BIのUIはそのようになっていません。 加えて、Power BIで利用する目的でPower Queryエディターを起動するときの導線は、Power BI Desktopの「データの変換」ボタンであり、単体で起動することはありません。Tableauにおいては、プレビュー目的でTableau PrepからTableau Desktopを起動することもできますが、基本的にはPCのメニューや保存したワークブック/フローのファイルからTableau Desktop、Prepを個別に起動することが多く、両ツールを併用している感覚が強いです。 Power Queryエディターの起動導線がPower BI Desktop内にあることは、Power QueryがPower BI内の一機能であるかのように感じさせることにつながり、両ツールをシームレスに扱える印象を強めていると感じます 。 またそもそもの話ですが、Power QueryエディターはツールとしてはPower BIとは別であるものの、Power BIをインストールするときに同時にインストールされます。ユーザーに後から追加でインストールさせる選択肢をはじめから用意しておらず、ユーザーからすると 別のツールがインストールされたということすら気づきません 。 おわりに 本記事で書いたとおり、TableauもPower BIも、データ加工ツールとビジュアライズツールの2つを起動し使い分けているということに変わりはありません。記事に書いたことをもって両ツールに優劣をつける意図もありませんし、こんないち側面だけをもって優劣をつけることは不可能です。 ただ、UI/UX面では両ツールに大きな違いが垣間見え、その結果私個人が受けた印象も大きく異なっているのは、とても興味深いと感じています。プロダクトのUI/UX設計って大事だなと思いました。 とはいえ、何も考えずに適当な表現を当てただけという可能性も十分にありえますけどね…。真相は一体…!!
法人ディベロップメント課のS.Sです。 マイナビBiz / LIVING の新規開発・保守運用を行なっております。 この記事では、現在、私が関わっている、とあるPJ で、Techtus さまとの協業(オフショア開発)により、PJ を進める中での経験や気づきについて、ご共有できればと思います。(※ PJ は、現在進行中です) オフショア開発事情について気になる オフショア開発の難しい点や良い点について知りたい 経験を踏まえて、次回オフショア開発を進めるならどうしたいか という方には、お力添えになれる記事かと思います。 参照: Techtus とは オフショア開発の3つの良さ 1、開発速度が本当に早い! 協業で開発を進めて頂いた Techtus さまの開発チームの開発速度は非常に早く、こちら側で元々想定していたスケジュールから、1ヶ月以上巻きで進めてもらうことができました。 今回、実装して頂いた開発者は、2名体制でしたが、2画面/日ペースでPR レビュー依頼が届き、レビューコメントへの対応も基本的に 即時返信・対応で、滞りなくスムーズに進んだ 印象でした。 2、にも書いていますが、 技術的なレベルも高く、技術的な詰まりなども、ほぼなく進めて頂けたのも開発速度が早い 理由なのかなと思っております。 2、開発チームの技術力が高い! 本PJでは、Next.js(v15) による開発を進めているのですが、新しい機能活用、技術/SEO提案などが、頻繁に飛び交いながら、PJ が進んでおります。 迅速に、依頼画面を作って頂くだけに止まらずに、 積極的に技術的な付加価値を提供頂き、ともにブラッシュアップして開発を進めていけた のも非常に感謝でした。 3、言語の壁なく、素早く問題解決が進められるスムーズな連携! オフショア開発をする、となった時に最初に思い浮かんだのが言語の壁でした。 しかし、Techtus さまでは、 コミュニケーター(マイナビと Techtus エンジニア間で日本語 / ベトナム語 でやり取りしてくださる人)がいるため、言葉の壁を感じず、いつもの開発のように進めることができました。 また、コードレビュー時には、お互いに英語でのやり取りが可能でしたので、ここも言葉で悩むことなくスムーズに進められた印象でした。 私自身、英語力に関しては簡単な英語の読解ができるくらいのレベルで伝えることには不安がありましたが、今は Google 翻訳があるので、そんなツールも活用しつつ、特にストレスなく対応できました。 やり取りを進めていく内に自然と、Google 翻訳に頼る頻度は減っていくので、さらにスムーズになった印象でした。 (副次的なものですが、初見PRレビュータイミングでは、訳さずに読解することで、英語力が少し上がるのもよかったです。(次は、ベトナム語にもチャレンジしてみたいな。)) オフショア開発で工夫した3つの点 1、ファーストレスポンスを最速で行う オフショア開発では、開発している場所・時間が物理的に違います。 そのため、お互いに相手方の状況が見えません。 したがって、 分からない状態での「待ち」が相当なストレスを生み、開発パフォーマンスに悪影響を与えてしまいます。 なので、普段の開発よりも増して、ファーストレスポンス速度を早めるように意識しました。 これによって、お互いに、分からない状態での「待ち」を作らないことで、互いにノンストレスかつ、滞り少なくトントンと開発を進めることができたのかなと思います。 2、前提を含めた丁寧な説明 オフショア開発では、相手方は、初めて向き合うサービスであることがほとんどです。 自分たちが思っている当たり前や前提がほぼ 0 のため、なるべく丁寧に、前提説明をする ように努めました。 開発を進める中での質問やレビュー時には、 「こうこう、こういう理由で、こんな実装してほしい」 などを 具体的かつ論理的に伝えることで、納得感を持って開発を進めてもらえた のかなと思います。 ※ ここは、工夫した点でも、あり改善余地ありの点でもあるので、そちらに記載します 3、視覚的情報(+数値)を用いた意思共有 言葉の壁はありませんでしたが、開発文化やニュアンス、表現、受け止め方の違いは、あったかなと感じました。 そんな違いを問題にしないために、視覚的情報を用いるように工夫しました。 この手法を用いることで、 見たそのもの、そのままは、どこの誰が見ても基本的には同じように捉えることができます。 数字についても同様です。 なので、視覚的情報と、数値を用いることで、認識ズレを減らせたのかなと思います。 言葉のみの場合: タイトル: タイトルの位置を気持ち下げて、全体としていい感じに中央っぽく見えるようにしてください。 メール欄 メールの入力欄は、今より少し大きめにして、押しやすそうな印象に寄せてください。 パス欄 パスワードの入力欄も、メール欄と同じくらいのサイズ感に整えてください。 ボタン ボタンは角をもう少し丸くして、入力欄との間隔もちょっと広めに調整してください。 視覚的情報を用いた場合: 圧倒的に、後者の方がズレなく伝わることが体感できます。 オフショア開発で苦労した3つの点 1、仕様を認識ズレなく理解してもらうこと 先ほどの工夫の箇所でも書きましたが、 前提や背景知識が違うので、こちら側の当たり前は、相手方の当たり前ではなかった です。 特に、開発初期は、レビュータイミングで、認識がズレていたり、こちら側で当たり前としてしまっていたことが、相手方の当たり前ではないことでやり直しが発生してしまうこともありました。 早めに気づいて改善することで軌道修正はできましたが、当初は苦労しました。 2、開発環境の共有 完全な自チームの場合であれば、AWSを含む各種アカウントの共有がなされている、かつ物理的に近い距離で開発ができ、環境共有に困ることは、ほぼありません。 しかし、 オフショア開発の場合は、各種アカウントの全てではなく、必要なものかつ、共有できるものが限られる中で対応を進めていく 必要がありました。 そのため、開発の進め始めに、あちらの local では動いているが、こちらの local では動かない、というようなタイミングがありました。(Github, Docker 利用をしていたのでベースの共有化はできてはいるものの。。) 3、開発手法や進め方の足並みを揃えること 当初、開発文化が異なるチーム同士で開発を進める中で、 どんな手法を用いて どんな粒度で どんなルールでやっていくか という所の認識合わせが困難でした。 事前に、キックオフ会の実施や、ドキュメントを作成して、足並みが揃うよう努めましたが、やはり、前提や背景、文化が違うもの同士で協業をするというのもあり、 「あ、この観点や考え方もドキュメントに追加しないとな」 というものがボロボロと出てきた印象がありました。 PJ を進める業務を行いつつ、こういった基礎の部分を同時修正していくことに苦労 しました。(もっと早めの段階の問題出しが重要だなと) ただし、ここを軌道修正したことで、様子見やすれ違い頻度も減り、スムーズにPJ が進むようになった印象がありました。 次回、オフショア開発をする時に、気をつけたい3つのポイント 最後に、ここまでの経験を踏まえて、次回、オフショア開発を進める際に、気をつけたいポイントをまとめたいと思います。 1、最初に、開発手法や進め方・ドメイン知識の共有の時間をしっかり取る 今回は、キックオフ(全体のスケジュール感や対応範囲の認識合わせ)に加えて、開発者向けドキュメントを作成し、共有することで、最初の認識合わせを終えました。 しかし、これでは、軌道修正タイミングが遅れてしまうなと反省しています。 最初に、 開発者の認識合わせの時間をしっかりと確保し、その中でこちら側、あちら側のそれぞれの認識を理解しあって、足りないものに気づき補うことで、開発スタートとともに素早くスタートダッシュを切れるようになる と思いました。 早めに問題を浮き彫りにした方が、全体として効率・改善速度は早められますからね。 2、スプリント単位での依頼チケットの丁寧な概要説明と時間の確保 スプリント単位ごとに、チケット依頼タイミングに、概要説明の時間をしっかりと確保し、認識合わせを密にしていきたい です。 このようなやり方は、一見、工数がかかってしまうように感じてしまいますが、これにより、手戻りやスムーズなレビュー・マージができるようになるかと思いました。 チケット内容に、概要記載が前提なので、ある程度打ち合わせを繰り返す中で、OKなものはサクサク進めていけます。 そのため、 最初の最初は、工数かかる体感はあるかもしれないですが、段々とその負荷は減り、認識ズレもなくなるので、全体で見たら、最適な進め方 なのかなと思います。 このようなイメージです。 3、検証環境の対応順序を早めにする 上記の通りですが、次回以降は、local でベースの環境構築ができたら、すぐに、検証環境の準備を進めていくようにしたいです。 デジ戦側・Techtus 側・事業部側が、共通して同じ環境で確認ができる検証環境を先んじて作っておくことで、同じ目線で動作確認や修正を前倒しで進めていくことができるため です。 検証環境の構築は、インフラメンバーへ構築依頼が必要になるため、始めにそう決めておかないといけない部分だと思っており(いきなり依頼は物理的に難しい)、次回、スケジューリングを立てるタイミングで必須で早めの設定と依頼を進めていきたいと思いました。 最後に ここまで、振り返ってみて感じたことの一言でまとめると、 共通認識を早めに、丁寧に、細かくアクションを取ることが重要 ということかなと思いました。 オフショア開発に限らずですが、より文化や背景、物理的な距離、ドメイン知識の違いなどがどうしてもある中で、 早め早めに、「共通認識」を持つ機会を能動的に作っていくことで、そのズレを無くし、スムーズなPJ 進行ができる のかなと思います。 こうして、文章で書いているとすごく当たり前ではあると思うのですが、 当たり前だからこそ、いざやるタイミングで抜けてしまいがち なので、未来の自分が新PJ スタートタイミングでこの記事を見て、戒めようと思います。
はじめに AWS CDK(Cloud Development Kit)を使って、異なるAWSアカウント間(クロスアカウント)でリソースをデプロイする方法を解説します。 対象読者 :AWSちょっとわかるレベル 所要時間 :約60〜90分 実行環境 :Windows PowerShell このハンズオンで学べること CDKプロジェクトの初期化とスタック構成 cdk bootstrap  の仕組みと役割 クロスアカウントデプロイに必要なIAM設定 --cloudformation-execution-policies  による最小権限の実現 cdk destroy  を使ったリソースの後片付け アカウント構成 本ハンズオンでは2つのAWSアカウントを使用します。 事前準備 必要なツール Node.js(v18以上推奨) AWS CDK CLI( npm install -g aws-cdk ) AWS CLI v2 PowerShell AWSプロファイルの設定 本ハンズオンでは以下の2つのプロファイルを使用します。 プロファイル名 対象アカウント 用途 test-111111111111 アカウントA(111111111111) デプロイ先の操作 test-A アカウントB(222222222222)のIAMユーザー CDKデプロイの実行元 ~/.aws/credentials  および  ~/.aws/config  に各プロファイルを設定しておいてください。 Step 1:CDKプロジェクトの作成 プロジェクトディレクトリの作成 mkdir C:\github\cdk-cross mkdir C:\github\cdk - cross cd C:\github\cdk-cross cd C:\github\cdk - cross CDKアプリの初期化 cdk init app --language typescript cdk init app -- language typescript 実行すると以下のようなプロジェクト構成が生成されます。 cdk-cross/├── bin/│ └── cdk-cross.ts # エントリーポイント├── lib/│ └── cdk-cross-stack.ts # スタック定義├── cdk.json # CDK設定ファイル└── package.json cdk-cross/ ├── bin/ │ └── cdk-cross.ts # エントリーポイント ├── lib/ │ └── cdk-cross-stack.ts # スタック定義 ├── cdk.json # CDK設定ファイル └── package.json Note : git config  の設定がない場合、 Unable to initialize git repository  という警告が出ますが、ハンズオンの進行には影響ありません。 Step 2:スタックの実装 エントリーポイントの編集 bin/cdk-cross.ts  を以下のように編集します。デプロイ先のアカウントIDとリージョンを明示的に指定します。 import * as cdk from 'aws-cdk-lib';import { CdkCrossStack } from '../lib/cdk-cross-stack';const app = new cdk.App();new CdkCrossStack(app, 'CdkCrossStack', { env: { account: "111111111111", <em>// デプロイ先アカウントA</em> region: "ap-northeast-1" }}); import * as cdk from ' aws-cdk-lib ' ; import { CdkCrossStack } from ' ../lib/cdk-cross-stack ' ; const app = new cdk . App () ; new CdkCrossStack ( app , ' CdkCrossStack ' , { env : { account : " 111111111111 " , <em> // デプロイ先アカウントA</em> region : " ap-northeast-1 " } } ) ; ポイント :クロスアカウントデプロイでは  env  の  account  と  region  を 必ず明示 する必要があります。省略すると CDK が環境を解決できずエラーになります。 スタック定義の編集 lib/cdk-cross-stack.ts  を以下のように編集します。今回はシンプルなS3バケットを1つ作成します。 import * as cdk from 'aws-cdk-lib';import { Bucket } from 'aws-cdk-lib/aws-s3';export class CdkCrossStack extends cdk.Stack { constructor(scope: Construct, id: string, props?: cdk.StackProps) { super(scope, id, props); new Bucket(this, 'TestBucket', { removalPolicy: cdk.RemovalPolicy.DESTROY, autoDeleteObjects: true }); }} import * as cdk from ' aws-cdk-lib ' ; import { Bucket } from ' aws-cdk-lib/aws-s3 ' ; export class CdkCrossStack extends cdk . Stack { constructor ( scope : Construct , id : string , props ?: cdk . StackProps ) { super ( scope , id , props ) ; new Bucket ( this , ' TestBucket ' , { removalPolicy : cdk . RemovalPolicy . DESTROY , autoDeleteObjects : true } ) ; } } removalPolicy: DESTROY : cdk destroy  実行時にバケットを削除する設定 autoDeleteObjects: true :バケット内にオブジェクトが残っていても削除できるようにする設定(ハンズオン向けの設定です。本番環境では慎重に検討してください) CloudFormationテンプレートの確認 実際にデプロイする前に、CDKが生成するCloudFormationテンプレートを確認しましょう。 cdk synth cdk synth S3バケット・バケットポリシー・Lambda関数(autoDeleteObjects用)・IAMロールが出力されれば成功です。 Step 3:bootstrap(1回目) bootstrapとは CDKでデプロイを行うには、事前に対象アカウント・リージョンに CDKToolkit というCloudFormationスタックを作成する必要があります。これを  cdk bootstrap  と呼びます。 bootstrapのメリット デプロイの自動化 :アセット(Lambda ZIPやDockerイメージ)のアップロード先(S3・ECR)が自動で用意されるため、手動でバケットやリポジトリを作成する必要がない IAMロールの一元管理 :デプロイに必要なIAMロールがまとめて作成・管理されるため、個別にロールを設定する手間が省ける クロスアカウント対応 : --trust  オプションで他アカウントからのデプロイを安全に許可できる 権限の最小化 : --cloudformation-execution-policies  でCloudFormationが使う権限を絞り込める 冪等性 (何度実行しても同じ結果になる性質):すでにbootstrap済みの環境に再実行しても、差分のみUpdateとして適用されるため安全に再実行できる bootstrapはアカウントとリージョンに紐づく bootstrapは  「AWSアカウント × リージョン」の組み合わせごとに1回実行 する必要があります。 アカウントAの  ap-northeast-1  にデプロイ →  aws://111111111111/ap-northeast-1  にbootstrap アカウントAの  us-east-1  にもデプロイしたい →  aws://111111111111/us-east-1  に 別途 bootstrap アカウントBの  ap-northeast-1  にもデプロイしたい →  aws://222222222222/ap-northeast-1  に 別途 bootstrap 同じアカウントでも リージョンが異なれば別のbootstrapが必要 です。 bootstrapで作成されるリソース bootstrapによって以下のリソースが作成されます。 S3バケット (StagingBucket):デプロイ用アセットの保存場所 ECRリポジトリ :Dockerイメージのアセット保存場所 IAMロール群 :CDKがデプロイ操作を行うための各種ロール DeploymentActionRole :デプロイ操作を担うロール CloudFormationExecutionRole :CloudFormationがリソースを作成する際に使うロール FilePublishingRole  /  ImagePublishingRole :アセットをS3/ECRにアップロードするロール LookupRole :コンテキスト情報の参照に使うロール 組織のIAMポリシー制限がある場合 組織(AWS Organizations)のSCP(Service Control Policy)やセキュリティポリシーによって、 各種リソースの作成が制限されている環境 では、bootstrapをそのまま実行できないケースがあります。 その場合は以下のいずれかの対応を取ります。 既存のbootstrap済み環境を使う :組織の管理者がすでにCDKToolkitをセットアップしている場合は、そのまま利用する(追加のbootstrapは不要) 別途ロールを手動作成して利用する :セキュリティチームが承認した最小権限のIAMロールを事前に作成し、 --role-arn  オプションでCDKに指定する cdk deploy ` --role-arn arn:aws:iam::111111111111:role/MyCustomDeployRole ` --profile test-111111111111 cdk deploy ` -- role - arn arn:aws:iam:: 111111111111 :role / MyCustomDeployRole ` -- profile test-111111111111 アカウントAにbootstrapを実行(1回目) 確認ポイント :デプロイ先アカウントにすでに  CDKToolkit  という名前のCloudFormationスタックが存在する場合は、bootstrapは 実行済み です。その場合は本Stepをスキップしてください。 まずはシンプルにアカウントAへbootstrapします。 cdk bootstrap aws://111111111111/ap-northeast-1 ` --profile test-111111111111 cdk bootstrap aws: // 111111111111 / ap - northeast - 1 ` -- profile test-111111111111 成功すると  ✅ Environment aws://111111111111/ap-northeast-1 bootstrapped.  と表示されます。 Step 4:アカウントAへのデプロイ(同一アカウント) まず、アカウントAのプロファイルで直接デプロイできることを確認します。 cdk deploy --profile test-111111111111 cdk deploy -- profile test-111111111111 IAMの変更内容が表示されるので確認し、 y  を入力します。 Do you wish to deploy these changes (y/n)? y Do you wish to deploy these changes ( y / n ) ? y ✅ CdkCrossStack  と表示されればデプロイ成功です。 Step 5:クロスアカウントデプロイの試行(失敗) 次に、アカウントB( test-A  プロファイル)からデプロイを試みます。 cdk deploy --profile test-A cdk deploy -- profile test-A 以下のエラーが発生します。 Could not assume role in target account using current credentials(which are for account 222222222222)User: arn:aws:iam::222222222222:user/test1 is not authorized to perform:sts:AssumeRole on resource:arn:aws:iam::111111111111:role/cdk-hnb659fds-deploy-role-111111111111-ap-northeast-1 Could not assume role in target account using current credentials ( which are for account 222222222222 ) User: arn:aws:iam:: 222222222222 :user / test1 is not authorized to perform: sts:AssumeRole on resource: arn:aws:iam:: 111111111111 :role / cdk - hnb659fds - deploy-role - 111111111111 - ap - northeast - 1 Note :エラーメッセージ中の  cdk-hnb659fds  はCDK bootstrapが生成するデフォルトの qualifier(識別子) です。 cdk bootstrap --qualifier <任意の値>  で変更可能なため、組織の設定によっては異なる文字列になる場合があります。 本ハンズオンではデフォルト値( hnb659fds )を使用します。 なぜ失敗するのか CDKのクロスアカウントデプロイでは、操作元アカウントBのユーザーが、デプロイ先アカウントAの  DeploymentActionRole  を  AssumeRole(一時的に引き受ける)  することでデプロイを行います。 しかし現時点では、 アカウントAの  DeploymentActionRole  がアカウントBからのAssumeRoleを 許可していない アカウントBの  test1  ユーザーが  sts:AssumeRole  を実行する 権限を持っていない この2つを解決する必要があります。 Step 6:最小権限ポリシーの作成 --cloudformation-execution-policies  とは cdk bootstrap  の  --cloudformation-execution-policies  オプションは、 CloudFormationがリソースを作成・更新・削除する際に使用するIAMポリシー を指定するものです。 デフォルト(AdministratorAccess)の問題点 指定しない場合は  AdministratorAccess (全権限)が使われます。これには以下のリスクがあります。 CDKスタックのコードに誤りがあった場合、 意図しないリソースを削除・変更 してしまう可能性がある 最小権限の原則(Principle of Least Privilege)に反する 組織のセキュリティポリシーに違反するケースがある 最小権限ポリシーを使うべき理由 CloudFormationが操作できるリソースを スタックで必要なものだけ に限定できる 万が一のミスや不正アクセス時の 被害範囲を最小化 できる 組織のコンプライアンス要件を満たしやすくなる 今回のスタックで必要な権限は以下の3つです。 S3 :バケットの作成・削除・ポリシー設定 IAM :Lambda実行ロールの作成・削除・ポリシーアタッチ Lambda :autoDeleteObjects用Lambda関数の作成・削除 ポリシーJSONの作成 @"{ "Version": "2012-10-17", "Statement": [ { "Effect": "Allow", "Action": ["s3:*"], "Resource": "*" }, { "Effect": "Allow", "Action": [ "iam:PassRole", "iam:CreateRole", "iam:DeleteRole", "iam:AttachRolePolicy", "iam:DetachRolePolicy" ], "Resource": "*" }, { "Effect": "Allow", "Action": ["lambda:*"], "Resource": "*" } ]}"@ | Set-Content cdk-minimal-policy.json @ " { " Version " : " 2012-10-17 " , " Statement " : [ { " Effect " : " Allow " , " Action " : [ " s 3 :* " ], " Resource " : " * " }, { " Effect " : " Allow " , " Action " : [ " iam:PassRole " , " iam:CreateRole " , " iam:DeleteRole " , " iam:AttachRolePolicy " , " iam:DetachRolePolicy " ], " Resource " : " * " }, { " Effect " : " Allow " , " Action " : [ " lambda:* " ], " Resource " : " * " } ] } " @ | Set-Content cdk-minimal-policy.json ポリシーをアカウントAに作成 aws iam create-policy ` --policy-name CdkMinimalPolicy ` --policy-document file://cdk-minimal-policy.json ` --profile test-111111111111 aws iam create - policy ` -- policy - name CdkMinimalPolicy ` -- policy - document file: // cdk - minimal - policy.json ` -- profile test-111111111111 作成されたポリシーのARN( arn:aws:iam::111111111111:policy/CdkMinimalPolicy )を控えておきます。 Step 7:bootstrap(2回目)―クロスアカウント対応 なぜ2回bootstrapするのか 1回目のbootstrapは「CDKToolkitを作成する」ための最低限の実行でした。この時点では: --trust  未指定 → アカウントBからのAssumeRoleが 許可されていない --cloudformation-execution-policies  未指定 →  AdministratorAccess  が使われている 2回目のbootstrapでは、これらを正しく設定し直します。CDKToolkitスタックは Updateとして適用 されるため、既存リソースを削除せずに設定を変更できます。 Tips :最初からクロスアカウントデプロイを想定している場合は、1回目のbootstrapから  --trust  と  --cloudformation-execution-policies  を指定することで、2回に分ける必要はありません。 クロスアカウント対応のbootstrapを実行 cdk bootstrap aws://111111111111/ap-northeast-1 ` --profile test-111111111111 ` --trust 222222222222 ` --cloudformation-execution-policies arn:aws:iam::111111111111:policy/CdkMinimalPolicy cdk bootstrap aws: // 111111111111 / ap - northeast - 1 ` -- profile test-111111111111 ` -- trust 222222222222 ` -- cloudformation - execution - policies arn:aws:iam:: 111111111111 :policy / CdkMinimalPolicy 各オプションの意味: オプション 意味 --trust 222222222222 アカウントB(222222222222)からのAssumeRoleを許可する --cloudformation-execution-policies CloudFormationが使うIAMポリシーをAdministratorAccessから最小権限に変更する ✅ Environment aws://111111111111/ap-northeast-1 bootstrapped.  と表示されれば成功です。 補足 :bootstrap再実行によって  CloudFormationExecutionRole  に紐づくポリシーが  AdministratorAccess  から  CdkMinimalPolicy  に切り替わります。 ただし、Step 4でデプロイ済みの  CdkCrossStack  に対して新ポリシーが適用されるのは、 次回  cdk deploy  を実行したタイミング です。 既存スタックのリソース自体はそのまま維持されます。 DeploymentActionRoleの信頼ポリシーを確認 bootstrap後、 DeploymentActionRole  の信頼ポリシーにアカウントBが追加されていることを確認します。 aws iam get-role ` --role-name cdk-hnb659fds-deploy-role-111111111111-ap-northeast-1 ` --query "Role.AssumeRolePolicyDocument" ` --profile test-111111111111 ` --no-cli-pager aws iam get-role ` -- role - name cdk - hnb659fds - deploy-role - 111111111111 - ap - northeast - 1 ` -- query " Role.AssumeRolePolicyDocument " ` -- profile test-111111111111 ` -- no - cli - pager レスポンスにアカウントB( arn:aws:iam::222222222222:root )の  sts:AssumeRole  が含まれていれば正しく設定されています。 Step 8:アカウントBのIAMユーザーにAssumeRole権限を付与 アカウントAのロールを引き受けられるようになりましたが、アカウントBの  test1  ユーザー自身にも  sts:AssumeRole  の権限が必要です。 インラインポリシーのJSONを作成 @"{ "Version": "2012-10-17", "Statement": [ { "Effect": "Allow", "Action": "sts:AssumeRole", "Resource": "arn:aws:iam::111111111111:role/cdk-hnb659fds-deploy-role-111111111111-ap-northeast-1" } ]}"@ | Set-Content assume-role.json @ " { " Version " : " 2012-10-17 " , " Statement " : [ { " Effect " : " Allow " , " Action " : " sts:AssumeRole " , " Resource " : " arn:aws:iam:: 111111111111 :role/cdk-hnb 659 fds-deploy-role -111111111111 -ap-northeast -1 " } ] } " @ | Set-Content assume-role.json test1ユーザーにポリシーをアタッチ aws iam put-user-policy ` --user-name test1 ` --policy-name AllowAssumeCdkDeployRole ` --policy-document file://assume-role.json ` --profile test-A aws iam put - user - policy ` -- user - name test1 ` -- policy - name AllowAssumeCdkDeployRole ` -- policy - document file: // assume - role.json ` -- profile test-A Step 9:AssumeRoleの動作確認 デプロイ前に、実際にAssumeRoleが成功するかを確認します。 aws sts assume-role ` --role-arn arn:aws:iam::111111111111:role/cdk-hnb659fds-deploy-role-111111111111-ap-northeast-1 ` --role-session-name test ` --profile test-A aws sts assume - role ` -- role - arn arn:aws:iam:: 111111111111 :role / cdk - hnb659fds - deploy-role - 111111111111 - ap - northeast - 1 ` -- role - session - name test ` -- profile test-A 以下のように一時クレデンシャルが返れば成功です。 { "Credentials": { "AccessKeyId": "ASIAXXXXXXXXXXXXXXXX", "SecretAccessKey": "****", "SessionToken": "****", "Expiration": "2026-03-24T19:05:06+00:00" }, "AssumedRoleUser": { "AssumedRoleId": "AROAXXXXXXXXXXXXXXXXX:test", "Arn": "arn:aws:sts::111111111111:assumed-role/cdk-hnb659fds-deploy-role-111111111111-ap-northeast-1/test" }} { " Credentials " : { " AccessKeyId " : " ASIAXXXXXXXXXXXXXXXX " , " SecretAccessKey " : " **** " , " SessionToken " : " **** " , " Expiration " : " 2026-03-24T19:05:06+00:00 " }, " AssumedRoleUser " : { " AssumedRoleId " : " AROAXXXXXXXXXXXXXXXXX:test " , " Arn " : " arn:aws:sts::111111111111:assumed-role/cdk-hnb659fds-deploy-role-111111111111-ap-northeast-1/test " } } Step 10:クロスアカウントデプロイの実行 再度アカウントBからアカウントAへのクロスアカウントデプロイを実行します。 cdk deploy --profile test-A cdk deploy -- profile test-A ✅ CdkCrossStack (no changes)  と表示されれば成功です。(Step 4で既にデプロイ済みのため変更なしと表示されます) Step 11:後片付け [!WARNING] この手順は  本ハンズオン用に作成した検証環境を前提 としています。 業務システムや他の CDK プロジェクトでも同一アカウント・リージョンで CDK を利用している場合、以下の操作を実行すると 他のスタックやデプロイ処理に影響を与える可能性 があります。 cdk destroy  によるリソース削除 CDKToolkit スタック(bootstrap 環境)の削除 IAM ユーザー/ポリシー/アクセスキーの削除 検証環境以外で実施する場合は、 削除対象が本ハンズオンで作成したものに限定されていること を 事前に十分確認したうえで実行してください。 スタックの削除 クロスアカウント操作の確認ができたら、作成したリソースを削除します。 cdk destroy --profile test-A cdk destroy -- profile test-A Are you sure you want to delete: CdkCrossStack (y/n)?  に  y  を入力します。 ✅ CdkCrossStack: destroyed  と表示されれば削除完了です。 スタックが削除されたことを確認 aws cloudformation describe-stacks ` --stack-name CdkCrossStack ` --profile test-111111111111 aws cloudformation describe - stacks ` -- stack - name CdkCrossStack ` -- profile test-111111111111 Stack with id CdkCrossStack does not exist  というエラーが返れば正しく削除されています。 CDKToolkitスタックの削除 aws cloudformation delete-stack ` --stack-name CDKToolkit ` --profile test-111111111111 aws cloudformation delete - stack ` -- stack - name CDKToolkit ` -- profile test-111111111111 test1ユーザーのインラインポリシーを削除 aws iam delete-user-policy ` --user-name test1 ` --policy-name AllowAssumeCdkDeployRole ` --profile test-A aws iam delete - user - policy ` -- user - name test1 ` -- policy - name AllowAssumeCdkDeployRole ` -- profile test-A test1ユーザーのアクセスキーを削除 まずキーIDを確認します。 aws iam list-access-keys --user-name test1 --profile test-A aws iam list - access - keys -- user - name test1 -- profile test-A 確認したキーIDを指定して削除します。 aws iam delete-access-key ` --user-name test1 ` --access-key-id AKIAXXXXXXXXXXXXXXXX ` --profile test-A aws iam delete - access - key ` -- user - name test1 ` -- access - key - id AKIAXXXXXXXXXXXXXXXX ` -- profile test-A AWSプロファイルの削除 エディタで  test-111111111111  および  test-A  のセクションを削除して保存します。 削除後のプロファイル確認 aws configure list-profiles aws configure list - profiles 削除したプロファイルが表示されなければ完了です。 まとめ cdk bootstrap  は アカウントとリージョンの組み合わせごと に実行が必要 すでにbootstrap済みの環境では 再実行不要 。既存のCDKToolkitをそのまま利用する 組織のIAMポリシー制限がある場合は、 別途ロールを手動作成 して  --role-arn  で指定する cdk bootstrap --trust  でデプロイ先アカウントが操作元アカウントを 信頼する 設定を行う --cloudformation-execution-policies  で  AdministratorAccess を避け最小権限 を使う 操作元アカウントのIAMユーザーにも  sts:AssumeRole  権限 が必要 bin/*.ts  の  env.account  は 必ず明示的に指定 する 参考資料 AWS CDK ブートストラップ AWS CDK で使用する環境をブートストラップする
はじめに 普段の業務で、TypeScript, Ruby, PHPを使ってアプリケーション開発をしているY.Mです。 携わっているプロジェクトの保守運用を行なっていく中で、AWS側でパフォーマンス向上や負荷対策などを検討する機会も増えてきて、これを機にAWSサービスを包括的に学習できるSAA-C03試験を受けようと思いました。 昨日、AWS SAA-C03試験(ソリューションアーキテクト試験)を受験してきました! 当日中に結果が返ってきて無事合格していました。 結果は 1,000点中  773点 (720点以上で合格) でした。 すごい余裕合格!ってわけではなく、残り2週間ぐらいで点数をグンと伸ばしてなんとか合格って感じだったので、そのプロセスを共有できればと思います。 試験形式 65問 130分(うち50問が採点対象) 択一問題・複数選択問題(記述問題はなし) 720点以上で合格(1,000点満点) 出題される65問のうち、50問が採点対象で15問がダミー問題ってのが他の試験と特色が違いますよね...w 【得点率40%スタート】試験4週間前(試験前時点) 当時の自分の実力 基本サービスの図解でのイメージを理解している状態(参考URLは こちら  ) 実務では、CloudWatch, CI/CD自動化, System Managerなどシステムの保守運用で触れている状態(自らの構築・設計経験はなし) 結果 Udemyの  SAA-C03版模擬試験①  を使って、最初の実力を計測しました。 感触 勉強する前は、実務で保守運用で使う数サービスを触っているだけで、自らのアーキテクチャの設計・構築はほとんどありませんでした(ハンズオンでちょっとだけ構築した経験あるくらい)。 その状態でどのくらいで取れるかな〜って受けたら、 そもそも知らないAWSサービス多すぎ(AWS SageMaker, EFS, Direct Connect...) 漠然と知っていて中身を知らないサービスも多すぎ(VPCエンドポイント, セキュリティグループの設定方法) 知っているサービスも深すぎ(S3のストレージタイプ多すぎ) って感じで、得点率が  41%  と合格には程遠いなあと遠い目になりました。 ググって他の受験者の体験記を参考にしてみて、3〜4週間後に、 得点率80%(800点)  を目指そうと目標を立てました。 【絶望の44%】試験3週間前(参考書1冊走破時点) 使用教材 AWS認定資格試験テキスト AWS認定ソリューションアーキテクト - アソシエイト 改訂第3版 (AWS認定資格試験テキスト) 学習内容 教材に載っているのAWSサービスをイメージで暗記( こちら  の拡張版イメージ) S3, EC2などの頻出そうな単語は特徴まで暗記 結果 Udemyの  SAA-C03版模擬試験②  を使って、模擬試験を受けてみました。 感触 大体1週間くらいで参考書を1周しました。 勉強前時点よりもほとんど伸びてなくて、嘘だろ...と思いました。得点率まさかの 44% .... 一通り頻出で出るサービスは抑えたはずなので、大体60%は取れているだろう...とは思ったんですが、とんでもない過信をしていたようです。他の同様の試験も受けてみたんですが、案の定40%台だったので、点数がほとんど伸びていないことを痛感しました。 この結果を受けて、平日の夜もAWS勉強に捧げた時間はなんだったんだ...と1日くらい立ち直れなかったです笑 【一縷の望み】試験1週間前(Udemy動画視聴完了時点) 使用教材 【SAA-C03版】AWS認定ソリューションアーキテクト アソシエイト試験:短期突破講座(300問の演習問題) 学習内容 上記動画で見直す(基礎サービス・合格点到達に必須のサービス) 動画を見ながら、用語・用語詳細・サービス特徴・紛らわしい用語の違い をスプレッドシートにまとめて、自作問題を作成 自作問題・Udemy小テストを使ってアウトプット 動画で出てこない場合は、テキストで補完 結果 Udemyを使って、2回分模擬試験を実施してみました。 SAA-C03版模擬試験③ SAA-C03版模擬試験④ 感触 そもそもテキストだけだと僕の場合歯が立たないと思ったので、動画形式で学べるUdemyを使って、大体2週間くらいでUdemyを1周しました。 参考書を1周して点数が伸びなかったのは、 サービスを全体像で理解するだけでは点数に直結しない そもそもサービスの特徴の大半を抑えられていない シナリオにおいて、技術的な違いを問われた時に、絞りきれない問題が多すぎた といった感じで、用語理解からさらに1段階, 2段階踏み込めていなかったのが敗因だなと感じました。 そのため、Udemyでサービスの全容を掴みつつ、とにかくサービスの特徴(ECS/EKSの特徴, Amazon Kinesisの特徴 など...)、違い(ネットワークACLとセキュリティグループの違い...)などをスプレッドシートにまとめて、簡易的な問題を作成して、通勤時間の電車などで確認していました。 その結果、模擬試験のテストを受けて初めて合格点に届いた試験が現れました(まだまだギリギリですが...)。得点率も平均  64%  まで上がって、少し安心したのですが、試験まで1週間なのであと最低でも10%はあげないといけません。 正直気持ちに余裕はあまりなかったかな...って感じでした。 【合格が見えてきた】試験1日前(模擬試験完了時点) 使用教材 【SAA-C03版】AWS認定ソリューションアーキテクト アソシエイト試験:短期突破講座(300問の演習問題) 学習内容 上記動画で見直す(高得点を狙うサービス) 小テストの復習 結果 試験前日に3回分模試を解きました。 本番レベル模試① 本番レベル模試③ SAA-C03版模擬試験⑥ 感触 最後の1週間は、比較的アウトプット重視で勉強していました。 自分は問題解くことが割と好きなタイプなので、この期間の勉強は結構楽しかったです。 得点率も着々と上がってきて、平均で得点率  74%  まで上がっていました。 自分が予想するAWSのスコアに換算すると  766点  、試験前日になってようやく合格点に届いていそうな感じがしました。 ▼予想スコア換算方法 SAA-C03は、100〜1000点の得点が付与 → 900点分の点数レンジ式:100 + 0.74 * 900 = 766 ※実際のテストでは、すべての設問が採点対象でないことや設問ごとに点数が異なる(らしい)ので、一概に言えないですが目安としてこのくらいって感じで見積もりました。 【あれ手応え何処へ...】本番(受験当日) 試験直後は、「あれ...手応えあんまない...」って感じになりました。 感覚的には、自信あった問題・怪しい問題含めて、もしかしたら40問正解( 100 + 40 / 65 * 900 = 653点 )ぐらいもあり得るな...って不安になってました、、良くて700点かも...って感じにもなってました。あれ?落ちた??って思いましたw 試験を受けて約6時間後に結果のメールが届いたんですが、そこに「 Congratulations! 」と書いてあって、嬉しさよりも、え??見間違えじゃない??って感じで疑いの目をかけてしまっていました。 実際のスコアレポートを見て点数が上回っていたのを確認してから、合格したんだぁと噛み締めてました。 実際は773点だったので、得点率を単純算出すると 74.8% でした。 最後に 得点率推移は下記になります。途中、絶望に打ち拉がれてたんですが、なんとか持ち直して一発合格まで持って行けてよかったです。 期間 得点率 AWSスコア(仮算出) 試験4週間前 41% 473点 試験3週間前 44% 501点 試験1週間前 64% 681点 試験1日前 74% 766点 本番 74.8% 773点 この体験記で、SAA-C03試験を勉強中だったり、これから受ける人へのエールになれば幸いです! 自分もAWSの資格他にもとってみようかな... ちなみに弊社では、資格取得支援制度として、資格取得にかかる受験料を会社が補助してくれるので、こちらも有効活用できます!
はじめに 私たちは、マイナビでの業務で推薦システムの開発や面接対話システムの開発プロジェクトで自然言語処理の技術を使っています。 その知見を深めるべく、2026年3月9日〜13日に栃木県宇都宮市で開催された「 NLP2026 (言語処理学会 第32回年次大会)」に現地参加し、各種発表を聴講しました。 この記事では会場の様子や講演、ポスターセッションの様子をお伝えし、気になった発表についていくつかご紹介します。 言語処理学会とは 言語処理学会が主催する言語処理に関する理論から応用まで幅広く研究発表が行われます。 情報科学に限らず、言語学、心理学、認知科学など多様な分野から参加があります。 毎年3月ごろに開催され、アカデミアだけでなく多くの企業も積極的に参加しており、社会実装を主眼に置いた研究も多くなっています。 ChatGPTの登場から3年あまりがたち、自然言語処理に分野は大きく進展しました。 今回のトピックとしては、LLMの解釈性、法規制・倫理、複雑な対話や図表読解など高度なマルチモーダル研究が挙げられ、実世界での運用を一層意識した会となりました。 開催地の宇都宮について 近年西日本で開催されることが多かったのですが、今回は栃木県宇都宮市で行われました。 会場となったライトキューブ宇都宮は宇都宮駅の目の前で、周辺の飲食店や商業施設など充実していました。 開催期間中に宇都宮では 21年ぶりの大雪 に見舞われましたが、大きなトラブルなく参加することができました。 会場目の前の様子 宇都宮はギョーザの町としても知られていますが、マグロの消費量が上位の地域でもあります。 駅周辺には寿司屋が多数あり、ランチの時間はシャリの大きいお寿司を満喫しました。 会場の様子 初日にはチュートリアル講演、2~4日目は研究発表と招待講演、5日目はワークショップというスケジュールで開催されました。 今回の最終的な参加者は 2316名 、発表件数 797件 で、ともに過去最高の規模で行われました。 この発表件数の増加に対応するため、口頭発表は選考のうえシングルセッション形式のみとなり、ポスター発表が標準形式となりました。 招待講演は以下の2件で、いずれも盛況でした。 松井智子先生「非典型な言語発達と言語使用:発達障害とバイリンガルから考える」 尾形哲也先生「ロボット基盤モデルにおける言語の役割—運動と言語の統合—」 セッション以外のホスピタリティも充実しており、昼時には中庭にキッチンカーが出展されていたり、終日茶菓と飲み物が提供されました。 また、託児所やコワーキングスペースも設置され、幅広い参加者に配慮されていました。 発表の紹介 ここからは、学会を通して気になった発表を簡単にご紹介します。 ハルシネーションから学ぶ:内部表現への介入によるハルシネーション抑制 門谷 宙, 西田 光甫, 西田 京介 (NTT) NTT研究所からの発表でLLMのハルシネーションを低減するための研究です。 LLMが嘘をつく能力を容易に獲得することに着目し、嘘を含むデータでanti-expert LLMを構築し、この出力確率をペナルティとすることでLLMの事実性を向上させることができるという手法です。 この手法では二つのLLMを動かすことによる推論コストを、モデルの統合によって削減する新たな手法を提案しました。 この結果、出力確率の操作ではなくLLMの内部表現に介入して事実性を向上させることができました。 ハルシネーションの原因は知識不足と、知識の想起失敗とされていますが、この手法は後者に効くとされています。 RAGで知識不足を補うだけではなく、本手法のように原因別で対処することでハルシネーションを抑制することができます。 感想・考察 LLMのハルシネーション問題はLLMの登場からずっと問題となってきましたが、最近では内部的なふるまいの研究が進んでおり、この研究もその流れの一つとなっています。 業務でハルシネーションを可能な限り減らさなければいけない場面で、RAG以外で有効な対策だと思いました。 LLM の生成する方言テキストを音声合成したデータによる音声言語モデルの方言理解能力向上 三森 俊祐, 藤田 雄介, 水本 智也 (SB Intuitions) 国産LLMのsarashinaなどで知られるSB Intuitionsからの発表です。 音声言語モデルと方言を話すために、LLMで生成した方言を学習させた結果、方言性能が向上したという研究です。 手法としてはまず標準語を方言の指示プロンプトを与えLLMを用いて方言に翻訳し、これを音声合成で標準語の韻律で疑似方言データを作成する。このデータで音声言語モデルを学習し、方言適応を行いました。 標準語の翻訳と英語の翻訳の比較で実験を行った結果、文法や語彙については学習が成功したことが分かった一方で、実音声特有の音韻変化への適応は難しいことがわかりました。 感想・考察 日本各地で幅広い人に音声対話システムを使ってもらうとしたとき、方言理解が必要になることもあると思われるのでこれからの対話システムの開発で重要な発表だと思いました。 また、合成データのみでモデルの向上が期待できるというのも参考になり、商談や就職面接など機密保持の観点から学習が難しいデータでも合成データによって性能向上が見込めるかもしれません。 Transformer事前学習における最終層隠れ状態ジャンプの抑制 柴田 圭悟, 矢野 一樹 (東北大), 高橋 良允 (東北大/理研), 李 宰成, 池田 航 (東北大), 鈴木 潤 (東北大/理研/NII) Transformerにおける"最終層隠れ状態ジャンプ"の抑制が精度改善に寄与することを示した研究です。 まず、"隠れ状態ジャンプ"とはモデルの隠れ状態(ベクトル)の角度がある層を通したときに急激に変化することを指しています。 Transformerにおいて、この隠れ状態ジャンプが最終層付近でのみ発生していることが確認されており、中間層の冗長性が議論されているようです。 この研究では "Transformerの性能面において最終層隠れ状態ジャンプは悪い現象" と仮説立てています。 発表者は仮説から隠れ状態ジャンプを抑制するような損失計算を設計しています。 また、これを実際にベンチマークタスクで評価し、性能の向上を確認しています。 感想・考察 Transformer内部で起きている現象に着目し、そこから仮説を立て、直観的かつシンプルな修正によって性能改善につなげている点が非常に印象的でした。 近年は、データや評価から仮説を立て、入力、モデルを取捨選択、修正をするアプローチが主流になりつつあり、特にLLMの普及以降、そもそもモデル内部には手を加えないことも増えてきているように感じます。 そのような背景を踏まえると、本研究のようにモデル内部の挙動そのものに焦点を当てた研究は、今後も高い価値を持つと私は考えています。 また、Transformerの発表から9年経過している現在においても、十分に解明されていない現象が存在する点も非常に興味深く感じました。 おわりに 今回は、言語処理学会の様子をお伝えしました。参加してよかった点は、現在の自然言語処理の流れと今後の発展方向を直接把握できたことです。実社会でLLMの活用が一層進むなか、性能向上の方策や安全性の確保などに向けて、多くの示唆を得られました。 次回の開催地は福岡の博多ということなので、ぜひ次回も参加したいと思います。